上司自身が1on1を楽しみ、「真面目な雑談」をすべき【スマート会議術第200回】

上司自身が1on1を楽しみ、「真面目な雑談」をすべき【スマート会議術第200回】株式会社俺 代表取締役社長 中北朋宏氏
現代は、企業の管理職やリーダーにとって生きづらい時代だ。“若手主体”の心理的安全性の確立を部下から突き上げられ、経営層からは部下育成やエンゲージメント・生産性の向上を求められ、それぞれに適切な対処を行わなければならない。

“上司ガチャ”と言われるように、当然、管理職の“あり方”は部下に大きな影響を与える。また、いまは部下の立場の若手も、将来的に管理職になったときに「自分が“ハズレ”の上司にならないために、どうあるべきか?」は気になるところだろう。

そこで、笑いとコミュニケーション組み合わせた『コメディケーション』の研修などを日本の名だたる企業に提供する、元お笑い芸人で株式会社俺の代表取締役社長・中北朋宏氏に、上司の“楽しみ方”や“雑談力”などについてヒントをいただいた。
目次

「“上司ガチャ”にハズレた」と思われないコミュニケーションを

――近年、自分の上司はハズレだと感じる“上司ガチャ”がよく取りざたされています。このような状況になった背景に、上司の方々のどんな課題があると感じていますか?
やはり、「部下との適切なコミュニケーションが取れない」という課題が一番多いですね。

また、自社の歴史や従来の風土に縛られてしまっている“経路依存性”による課題も多いと感じています。「自分がこうやって育成されたから、同じことをする」「管理職は黙って部下を育成するものだ」という認識が存在する企業も少なくないはずです。合理的ではないので、やめた方がいいと思います。

最近は、「出世したくない」「管理職になりたくない」という若手社員が増えてきました。その原因は、自社の“上司のあり方”にあると思っています。

たとえば、上司になった途端に、それまで自分が「やりたい」と熱く語っていたことが言えなくなってしまって、部下から「会社側の人間になった」と思われるケースもあります。また、「忙しそうで、楽しく働いていない」という印象を与えてしまうこともあります。そういった上司には、部下も憧れませんよね。
――そういった負の連鎖が起きているのですね。
そうなんです。管理職の方、特にプレイングマネージャーの方は、かわいそうだなと思います。私自身も経営者という立場なので、辛さがすごくわかります。

それまではトップ営業だった方が、管理職になった瞬間に経営層のヒエラルキーの一番下の立場になるわけです。そして、上層部の意見を聞かざるを得なくなって、自分の意思がなくなっていくという矛盾を抱えてしまいます。非常にかわいそうですよね。

心理的安全性には「適切に叱り、フィードバックする」ことも重要

――さらに最近は、パワーハラスメントなどの問題もあります。
そうです。ハラスメントを避けるために、「必要なのに叱れない」「本音をフィードバックできない」という問題もあります。本来、心理的安全性というものは“チャレンジできる環境”でもあるので、適切な指摘や指導は欠かせません。しかし、時代の流れのなかで、それが難しくなってしまっています。

その一方で、若手の成長欲求や成長スピードが高まっていて、若手自らフィードバックを求める傾向があります。上司がフィードバックできない結果、緩い組織になって、自己成長を感じられない若手が退職してしまうケースも少なくありません。ですから、「適切に叱る」「フィードバックする」ことは非常に重要です。

特にプレイングマネージャーとして働いていると、どうしても自分1人でできることに限界があるので、優先順位をつけて劣後順位的に捨てていくことが大切だと思います。
――笑いという観点で、どのように対処していけばよいでしょうか?
自分が本当にやりたいことを改めて考えたうえで、まずは自分の仕事や役割を“楽しむ”ことです。上司が楽しそうに働いていれば、部下も仕事を楽しむようになります。そのためには、笑顔でいることや“面白がる力”など、笑いの要素が効果的だと考えています。

組織理論の1つに、『ロサダの法則』というものがあります。その理論では、「組織内で発せられる言葉がポジティブ3に対してネガティブ1以上の場合、運営がうまくいく」とされています。ですから、笑いを活用して、組織内での言葉や会話をポジティブに変えていくことが重要でしょう。

1on1を管理職が楽しまなければ、部下も楽しめない

――昨今、管理職の必須業務になっている1on1について、アドバイスをいただけますか。
やはり、「管理職自身が1on1を楽しむ」ことが大切です。当社のホームページに事例として掲載している企業様の場合も、研修後に「管理職の自分も楽しんでいいと気づいた」という受講者の方の声が聞かれました。

上司が楽しんでいないのに、部下が楽しめるわけがないと思います。マニュアル通りに部下の話を聞かなければいけないと思い込んでいると、どんなに一生懸命話を聞いても、自分も部下もお互いに「面白くない時間だったな」で終わってしまいます。

1on1の本質的な目的は、「お互いが本音で語り合って、部下のキャリアをきちんと考える」ことです。ですから、管理職自身が「楽もう」というマインドセットでいないと、「『この項目は聞けたか?』を、○か×で判定する」だけという意味のないことが1on1の目的になってしまいます。
――それでは、せっかくの対話の機会を有効活用できませんね。
そうです。また、1on1は「部下のための場」と言われることが多いですが、私は「上司も、その1on1に人生の大切な時間を同じように使っている」と考えています。それならば、上司も楽しんだほうがいいですよね。

そして、上司が楽しむことで、「お互いに意見を言い合えて、その場を楽しめる」という心理的安全性が生まれます。

上司は、部下を育てるための道具ではありません。上司も楽しむことこそが、本当の1on1の姿だと思います。上司の方が「自分が楽しんでいれば、心理的安全性を含めた環境をつくるのは難しくない」ということを理解すれば、良い1on1ができますし、上司自身も気分的に楽になれるはずです。

あとは、肩肘張らず、ニコニコと笑顔で1on1を進めるのがポイントです。そして、自社のビジョンなどではなく、自分たちの仕事のやりがいや価値、意義を語り合うことのほうがはるかに重要だと思います。
――1on1などの管理職向け研修をはじめ、御社は名だたる企業様にコメディケーションの研修・講義を提供していますが、さまざまな種類の自己啓発の方法があるなかで、御社に依頼する企業が多いのはなぜでしょうか。
1つは、コメディケーションのコンセプトが明確だからだと思います。たとえば、若手社員向けの「可愛がられるスキルを身につける」というコンセプトの研修のご依頼が多いのは、「自ら仕事に関わる」ことを重視している企業様が、それだけ多いからだと思っています。

また、管理職向けの研修では、心理的安全性という言葉が広がって、誤った捉えられ方をされることも多いなかで、「上司が叱りにくい」「パワハラを恐れてブレーキがかかる」という課題を解決する具体的な方法をアドバイスがご好評いただいています。

そのようなさまざまな経営課題を、“笑い”という手法や感情を活かしたコミュニケーションを通じて解決したいと考える企業様が増えているのでしょう。
――失礼な言い方かもしれませんが、「元お笑い芸人が考えた、オリジナルのコミュニケーション手法」という特徴も、多くの方に選ばれる理由なのかなと思います。
それもあるかもしれません。自分で言うのもお恥ずかしいですが、当社の商談は面白いと思います(笑)。ビジネスの商談に「相手から笑いを取ろう」と臨む人は、そもそも少ないと思うので、そういった点で差別化できているのかもしれませんね。

実際に、「御社と関わるのは面白い」とおっしゃっていただけることが多く、そこからお取引につながるケースも数多くあります。ですから、当社以外でも、営業のシーンにおいて“笑い”は効果的だと考えています。

人間関係の悩みを解決する“雑談力”の本質は、“聞く力”

――中北さんの著書『おもしろい人が無意識にしている 神雑談力』をはじめ、いま、“雑談力”が注目を集めています。その理由は何だと思いますか?
「人とどう関わればいいのか」という問題意識を持っている方が多いのだと思います。心理学者のアルフレッド・アドラーが言うように、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩み」といったことが根本にあるのかもしれません。

それに加えて、「他人によく思われたい。好かれたい。認められたい」という承認欲求的なことも存在しているのかなと思います。
――コロナ禍を経て、オンラインでのコミュニケーションが増えた影響もあるような気がします。
それもあると思います。基本的に、オンラインミーティングでは一方的に意見を発言することが多いので、みなさん“発信”は上手になりました。でも、リアルなコミュニケーションよりも会話のキャッチボールをする機会が減ったので、“質問力”が落ちていると感じます。
――なるほど、それが雑談する際にも影響しているのですね。笑いやコメディケーションの観点から、雑談力において大切なことを教えてください。
コミュニケーションに不可欠な“聞きやすい場”と“答えやすい場”をつくるために、笑いの要素を取り入れることです。

雑談で一番大切なのは「何を話すか」だとよく言われますが、大間違いだと思います。私は、雑談力の本質は“聞く力”だと考えています。雑談の場が活性化しないのは、話し手の話の内容ではなく、聞き手の聞き方に問題があるんですね。

ですから、笑いの力を活用して“相手が話しやすい(=会話を引き出しやすい)環境”をつくることが大切になります。

たとえば、「相手が発言しているときに、笑顔で聞く」「発言に対してうなずく」などのリアクションが効果的です。これは、お笑いの世界、特にバラエティー番組などを見ると、その効果や重要性がわかると思います。

この“聞く力”や場づくりの大切さを理解・重要視していない組織は多いと感じています。

デキるリーダーや管理職が行っている『真面目な雑談』とは?

――中北さんは『真面目な雑談』を提唱されていますが、それはどのようなものですか?
いろいろな日本のトップ企業様のお手伝いをさせていただいていて、みなさんがイキイキと働いているチーム・部署のリーダーや管理職の方の日常会話が“違う”ことに気づきました。みなさん、普通の雑談をしていないんですね。

たとえば、天気の話を毎日しても、仲良くなるのは難しいと思います。「天気をよく知っている人だ」で終わってしまう可能性が高いですよね。つまり、そういった意味や意図のない雑談は、人間関係を構築するために機能していないということです。

関係構築に欠かせない自己開示を行うのが、『真面目な雑談』です。そして、日常的に管理職の方が自身の夢や展望を語ったり、部下への期待や想いを伝えたりするなど、普段から“未来”について話すことを、私たちは『真面目な雑談』と定義しています。
――なるほど、上司が自己開示すれば、部下も自己開示しやすくなりますね。
はい。このような『真面目な雑談』を行っている組織は、とても運営がうまくいっています。そして、みなさんが楽しそうに会話や仕事をしているのが印象的です。

私が大学のオンデマンド講座で笑いの講義を行った際、有名企業の経営陣や人事担当の方々が受講されていらっしゃいました。これも、そういった超ハイキャリアの方が組織運営において笑いや「人を楽しませる」ことを重視している証拠だと思います。
――前回、「“面白がる力”が、人の心が動かせる」というお話を伺いました。その“面白がる力”について、詳しく教えていただけますか。
面白がる力は、ビジネスにおける笑いやコメディケーションで非常に重要だと思っています。学術的に言うと、困難を乗り越えるしなやかさを表す「レジリエンス」という力です。

そう考えるヒントになったのは、当社が開催している、売れてない芸人さんが腕を競い合うコンテスト『俺-1グランプリ』の楽屋で耳にした会話でした。

ある芸人さんが、彼女にフラれた話を先輩芸人さんにしていました。そのなかで「せっかくフルなら、もっと残酷にフッてくれないと、エピソードトークとして使えないんですよ」と笑いながら言っていたんです。

その会話を聞いて、芸人が持っている「辛いときでも、その状況を面白がれる」というマインドセットに改めて気づきました。「大変だけど、いま、イイ感じだな」「この忙しさ、ますます面白くなってきたぞ」とポジティブに考えて、そこから一歩前に進むからこそ成長ができるんだと思います。

この思考法は、芸人以外の方にも非常に有効だと考えています。

“破滅思考”を捨てて、人間関係の断捨離をしよう

――最新の著書『おもしろい人が無意識にしている 神雑談力』のなかで、笑いやコメディケーションなどさまざまなコミュニケーションや人間関係のつくり方に触れていらっしゃいます。そのなかで一番伝えたかったメッセージを教えてください。
「“破滅思考”をやめよう」ということです。“破滅思考”とは、自分のことを嫌いな人や自分自身が苦手だと思う人に意識や時間を奪われて、なんとか関係改善しようと無駄な努力をしてしまう思考です。

多くの方が人間関係で悩んでいらっしゃいますが、その悩みのほとんどが「本当は悩む必要がない人や、自分の人生において大切ではない人に対する悩み」です。
――おっしゃる通り、ある期間は「うまく人間関係をつくらねば」と必死に悩んでいても、何年か経つと関係が一切なくなる人も多いですね。
そうなんです。「人が安定的に維持できる関係の限界人数は、親密な友だちが12~15人、友だちになれるのは150人」という『ダンパー数』という理論があります。

つまり、人間にとって本当に必要な人は限られているんですね。ですから、面倒に感じる上司・知り合いや、相性が合わない人とのコミュニケーションや関係性に悩むのは無駄だと思います。

自分の思考や貴重な人生の時間をそのような人たちに費やすよりも、人間関係を断捨離して、自分にとって大切な人をとことん大切にしたほうがいいですよね。そうすれば、仕事でも人生でも、笑いや笑顔にあふれた幸せな時間を過ごすことができるはずです。

文・あつしな・るせ
写真・大井成義

中北 朋宏(なかきた ともひろ)
浅井企画で芸人として活動後、人事系コンサル会社に就職。営業MVP等数々の賞を受賞。2018年2月に株式会社俺を設立。 お笑い芸人からの転職支援「芸人ネクスト」、笑いの力で組織を変える「コメディケーション」の事業を展開。 これまでに「芸人ネクスト」で100名以上の芸人の転職に関わり、「コメディケーション」は約260社以上の企業に導入され、受講者は26,000名を超えています。 3冊の出版をおこなっており、ベストセラーを記録しています。 1作目「ウケるは最強のビジネススキルである。」日本経済新聞社 2作目「コンプレックスは営業の最高の武器である。」日本経済新聞社 3作目「おもしろい人が無意識にしている 神雑談力」東洋経済新報社
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