ABW!?固定席!?自社に最適な“オフィス空間”づくりとは?【スマート会議術第197回】

ABW!?固定席!?自社に最適な“オフィス空間”づくりとは?【スマート会議術第197回】コニカミノルタジャパン株式会社 執行役員 ワークスタイルデザイン事業部 空間デザイン事業推進部長 宮本晃 氏
オフィスに出社すべきか? テレワークを導入し続けるべきか? コロナ禍を経て、多様化する働き方に対応するために自社の勤務形態について悩んでいる企業も多いだろう。近年は、従業員自身が業務内容や状況に合わせて働く場所・時間を自由に選択できる“ABW(Activity Based Working。アクティビティ・ベースド・ワーキング)”を導入する企業も増えている。

出社すれば、長い時間を過ごすことになるオフィス。人的資本経営や従業員満足度、エンゲージメント、さらに人材の定着や採用にも影響を及ぼす空間を“効果的にデザイン”するヒントなどを、コニカミノルタジャパン株式会社のワークスタイルデザイン事業部 空間デザイン事業推進部長の宮本晃氏に伺った。
目次

アフターコロナの働き方に適した“オフィス空間”づくりを

――コニカミノルタジャパンさんは複合機を中核事業として長年の歴史と実績をお持ちですが、その御社が手がける空間デザイン事業とはどのようなものですか?
現在、“オフィス” “商業空間” “プロモーション”という3つの大きな柱で空間デザイン事業を展開中です。そのうち、約90%をオフィスが占めていて、それぞれのお客様の「企業らしさ」を起点にしたオフィスデザインを提案しています。
従来の複合機事業でお取引のあるお客様からのご依頼だけでなく、新たに空間デザイン単体でご依頼いただく企業様も増えています。
――本日、お邪魔させていただいた本社オフィスは、いままで見たこともないようなユニークなデザインのオフィスだと思いました。このデザインになった経緯やコンセプトを教えてください。
2020年にコロナ禍でテレワークが一般的になって、世の中の働き方が大きく変わりました。多くの企業の方々は、「コロナ後の働き方がどうなっていくのか」という予想もつかないのではないかと思います。私たちも同じです。
そこで、当社が考えるニューノーマル時代の働き方を体現するために、『つなぐオフィス』というコンセプトで本社の25階の執務フロアと26階の来客フロアをリニューアルしました。テレワークとオフィスワークの「ハイブリッド」をキーポイントに、それぞれのワークスタイルの“良いとこ取り”をしています。
「せっかく出社するのなら、家では味わえないような良い環境にしよう」。そう考えて、オフィス内外で働く場所を自由に選べる“ABW”を導入しています。
――“創造性”“業務効率”“エンゲージメント”の3つを高めるために、働き方のテーマや目的別にオフィス内のエリアをわけているとお聞きしました。
はい。従業員同士がコラボレーションするための“High Collaboration”ゾーン、クリエイティブに動くための“High Creativity”ゾーン、集中するための“High Focus”ゾーンなど、7つのエリアに分類しています。
私たちも、「これが本当の“正解”かどうか」を模索している最中です。自社で実験しながら、企業の方向けの見学ツアーでこのオフィスを見ていただいて、個々の企業様の“正解”を考えていただくためのヒントになればいいなと考えています。

自社で実践した経験価値を、空間デザインに反映

――そもそも、どのようなきっかけで空間デザイン事業を始めたのですか?
複合機を核とした事業を行う一方で、「今後は紙を使わない時代になっていく」という潮流に対応するために新しいソリューションを展開しようと考えていました。それが2012年のことで、私は建築業界から新規ビジネスを立ち上げるために当社へ転職してきました。
複合機事業は企業の総務部の方々とのやり取りが中心でしたので、それまでも人員増加に伴うイス・デスクなどのオフィス什器の準備やオフィス移転など、オフィス・ファシリティに関するご相談にお応えしていました。
しかし当時は、当社のパートナーである什器メーカーなどに外注することがほとんどで、当社で建設業許可を取得していませんでしたし、空間デザインも行っていませんでした。そこで、本格的に事業化するために私が入社後に1人で始めて、スタート12年目の現在は40名以上が所属する部署になっています。
――事業化を進めるなかで、自社内でも『つなぐオフィス』などの取り組みや実験を行ってきたのですね。
そうです。「まずは、自社で実践した経験価値を事業に活かそう」ということで、2013年に働き方改革プロジェクトを発足しました。
そして翌年、本社を現オフィスに移転した際に、フリーアドレス制の導入やオフィスの保管文書ゼロ化の推進などを実施し、2017年には全国の拠点でテレワークも開始しました。その後、コロナ禍を経て、『つなぐオフィス』というオフィス空間づくりの実験・推進に至っています。

自分たちに合ったオフィスの“正解”を見つけるために

――先ほどのお話にもありましたが、コロナ禍を経て従業員の働き方やオフィスの存在意義などが大きく変わったことに戸惑いを感じている企業は多いと思います。御社にオフィスの空間デザインをご依頼される企業は、どのようなお悩みや課題を持っていますか?
やはり、「何が働き方の“正解”なのか、わからない」という声が多いですね。実際に、「毎日出社するスタイルに戻した」「週数回の出社を必須にしている」「出社は個人の自由に任せている」など、企業様ごとに考え方や施策がとても多様化しています。

そして、最近はオフィスのABW化が流行していますが、それが合う会社・合わない会社、合う職種・合わない職種というものがあります。ですから、「流行りのものを全部導入すれば、良いオフィスなのか」というと、必ずしもそうではないんですね。そこは、自社の状況に合わせた適切な判断が必要です。

また、「ABWにチャレンジしたいけど、『どの程度まで導入していいのか』『どう進めていいのか』という不安がある」という企業様も多いですね。

そのような点を自社内でディスカッションして、オフィスづくりを進めていくケースが増えています。たとえば、三井物産ケミカル様 では「固定席の良さとABWの良さを両立させよう」という意見をもとに、オフィス内に両エリアを半分ずつ設置しています。そういった自社の“正解”を見つけることが大切です。
――正解を探すのは簡単ではないと思いますが、どのように進めていけばいいでしょうか。
私たちがコンサルティングを行う際は、経営者や経営陣の方に課題やご希望をお聞きしたうえで、従業員の方々にアンケートを行って現状の働き方を分析します。そして、みなさんに当社のオフィスなどの見学を通じて最新のオフィス事情をご理解していただいて、ワークショップを実施します。

ワークショップでは、現状の働き方や働いている場所、そして新しいオフィスやそこでの働き方のイメージを組み立てブロック でつくって表現していただきます。そうすることで、新しいオフィスの働き方を紙に書いていただくよりも、クリエイティブでユニークなアイデアが出てくるんですね。

そして、ワークショップなどで出た「どんなオフィスにしたいか」「どんな働き方がしたいか」という意見を取りまとめて、自社に合う空間を考えていくことが大切です。

戦略的デザインのオフィスは、人材採用にも有効な“ツール”

――さまざまな企業のオフィスを見てきて、「良くないオフィス」とはどのようなものだとお考えですか?
やはり、ABWなど最新の考え方やシステムをとりあえず全部入れ込んでしまって、働く方々が使い切れていないオフィスはもったいないですね。
また、ABWと一言で言っても、管理・営業・企画・技術などの職種によって効果的なオフィスデザインは異なります。ですから、自社の課題を解決するためには、「どんな人材が働いているか」「この職種はどんな働き方がいいのか」というところまで細かくロジカルに分析して考えることが重要です。
――逆に、新しいものを取り入れずに旧態依然とした企業で「良くないな」と思うケースがあれば教えてください。
これは一般論ですが、「日当たりや見晴らしの良い場所に社長室を設けて、次に会議室を優先的に設置して、残りのスペースが社員の席」といった決め方は、いまの時代に合わないオフィスデザインになってしまうので避けたほうがいいでしょう。
――御社へのオフィスデザインに関する相談は、企業のどのポジションの方から受けることが多いですか?
経営者の方や経営企画に携わる方が多いですね。以前は総務部の方がオフィスづくりを担当されることが多かったのですが、最近は経営企画部の方が関わることが増えてきました。
これは、「オフィス自体を経営や経営企画の重要な1要素と捉えて、働きやすさや業務効率の向上、人材確保などに活用しよう」という考え方が広がっているからだと思います。
当社でも行っていますが、学生向けのリクルーティングのために自社オフィスの見学ツアーを実施するなど、オフィスを“働く場所”だけではなく、自社のアンテナツールのように戦略的に使う企業様も多いです。
――宮本さんは自社の新卒採用にも携わっているとのことですが、そのなかで感じる“オフィス環境を含めた働き方に対する、いまどきの学生の考え方の傾向”などがあれば教えてください。
最近の学生さんは、“働き方”を重要視している方が多いと感じています。たとえば、「毎朝9時に同じ場所に出社する必要があるのか、それともテレワークやフレックスタイムでOKなのか」といったことを気にする方も少なくないと思います。
また、出社して働くオフィスの環境や設備も、企業選びの重要なポイントになっているようです。学校がABW化された快適な環境になっているので、それを経験した学生さんは「昭和から変わらない職場環境や考え方の会社に就職しよう」とは思わないのでしょう。
そういった観点からも、経営企画の方がオフィスづくりに携わることが多くなってきているのだと思います。

オフィスの空間デザインがもたらす“効果”と“働き方の可視化”

――オフィスの空間デザインが、働く方々にもたらす効果や影響について教えてください。
私がオフィス関連の業務を20年以上行っていて一番感じるのは、「オフィスが新しくなると、働く方々の顔が“明るくなる”」ということです。たとえば、新しくてきれいな住居に引っ越すと、気持ちや気分が変わりますよね。それと同じだと思います。
週末にオフィスをリニューアルした企業様を月曜日の朝に訪問させていただくことがよくありますが、従業員のみなさんの表情がまったく変わっているんですね。そのように、働く方々をハッピーにする力がオフィスにはあると思います。
また、働く方々自身で考え抜いてつくったオフィスであれば、納得感や愛着もありますし、「仕事がはかどるから、がんばって働こう」「大切に使おう」という前向きな姿勢が生まれます。企業に求められているエンゲージメントの向上、そして離職率の低下にも非常に効果的です。
――働く方々の満足度が上がる快適なオフィスをつくるには、どうすればよいでしょうか。
その人自身にとって、その職種の方にとって一番働きやすい環境を考えて、整備することが大切です。その環境は1人1人の業務ごとに違うので、「個々の業務に合った環境づくりが実現できているかどうか」ということが重要になります。
――「オフィス環境を変えることで、“働き方の可視化”もできる」とのことですが、具体的にどのようなことが可能ですか?
たとえば、オフィスをリニューアルした際に、席や部屋の予約システムを導入することで「誰がどこで働いているか」をシステム上で把握できるようになります。そうすると、「その人がどういう働き方をしているか」も可視化・分析が可能です。
今後、システムがさらに進化すれば、たとえば「ハイパフォーマンスな人材は、どのように働く場所や時間を選択・配分しているのか」という分析も可能になると思います。そして、その結果をほかの従業員の方々の働き方や業務効率向上などに役立てられるようになるかもしれません。

人的資本経営など、経営課題を解決するオフィスづくりのヒント

――現在、企業には人的資本経営など、さまざまな“あるべき理想の姿”が求められています。それらによって生じる企業の課題を、オフィスデザインによって解決するためのヒントを教えてください。
人的資本経営に関しては、人材の定着や採用のための制度・仕組みはいろいろありますが、まずは「オフィス環境がしっかり整っている」ことが働く方にとって重要だと思います。
たとえば、テレワークとオフィスワークのハイブリッドワークができる職場環境であれば、子育てや介護などさまざまなライフステージに関わらず、誰もが働き続けることができます。そのような従業員のための環境づくりとオフィスづくりを直結させることが大切です。
社内活性化やインナーコミュニケーション強化という観点では、会議室などのクローズドのミーティングスペース以外に、タイミングを問わずに“立ち話”のように打ち合わせができるハイテーブルをオフィス内に配置するのも1つの方法です。
当社でも導入して効果を感じているので、オフィス内にいろいろなコミュニケーションのシーンが生まれるポイントをつくることをお勧めします。
――先ほどもお話に出た、エンゲージメントについてはいかがでしょうか。
最適にデザインされたオフィス自体もエンゲージメントにつながりますが、当社が実施している施策として、ご家族や知人がオフィスを見ることができる“ファミリーデイ”があります。たとえば、「子どもが『こんなかっこいいオフィスで働いているんだね!』と言ってくれて、誇りに思えた」という従業員も少なくありません。
そのように「こんなオフィス・会社で働ける」という気持ちは、さまざまな側面でエンゲージメントや従業員満足度につながります。「オフィスを変えて、終わり」ではなく、「オフィスをどう有効活用するか」「従業員にどう喜んでもらうか」といったインナープロモーションも大切です。
――従業員の満足という点で、ウェルビーイングに有効なオフィスづくりはありますか?
「視界にグリーン(緑色)が見えるとリラックスできる」という効果があるので、観葉植物や壁紙などグリーンを随所に取り入れるといいと思います。また、グリーンと合うアースカラーを組み合わせたデザインもお勧めです。当社の『つなぐオフィス』では、全体の20%弱をグリーンにしています。
――働く方の気持ちや姿勢が変われば、生産性も向上しそうですね。
生産性向上に関しても、実際にさまざまな企業様で効果が見られます。ですが、“オフィスのリニューアル・移転と売上UPの関連性”などのKPI(重要達成度指標)が取りづらいのが現状です。
この部分については、予約システムや関連システムが進化すれば、それで得たデータから数値化が可能になると思います。現段階では、生産性に関わる質問も盛り込んだ従業員アンケートをオフィスデザイン変更の事前・事後に行って変化を比較・分析すると効果が見えると思います。

文・あつしな・るせ
写真・大井成義

宮本 晃(みやもと あきら)
株式会社CSK(現在の株式会社SCSK)を経て、2012年コニカミノルタジャパン入社。 本社移転に伴い働き方変革を実践するプロジェクトに参加しつつ空間デザイン事業の立ち上げに注力。 2017年空間デザイン部発足時に部長就任。働き方自社実践の実績を活かしたコンサルティングや講演など多数。
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