企業合宿が、業績好調や人材採用成功などの成果にもつながる【スマート会議術第192回】

企業合宿が、業績好調や人材採用成功などの成果にもつながる【スマート会議術第192回】Co-Creations株式会社 代表取締役、合宿人代表 茂木健太氏
人的資本経営や従業員の心理的安全性が企業に求められる現在、社内の良好な人間関係や適切な組織をつくることは喫緊の課題と言える。また、若手人材の育成、人材採用難や離職による人手不足、エンゲージメントの向上、ハラスメント防止など、さまざまな課題に頭を悩ませている企業も少なくない。
そのような企業の課題を解決できる“合宿”とは、どのようなものなのだろうか? “未来合宿を起点とした組織開発”を行うCo-Creations株式会社 代表取締役の茂木健太氏にお聞きした。
目次

“全員で合宿する”という体験がもたらす効果

――御社の『合宿人』事業に、どのような企業様からのご相談やご依頼が多いですか?
社員数10~50名程度のスタートアップ企業様からのご相談が増えています。皆さん、いわゆる組織の成長の“30人の壁”や“50人の壁”を突破し、“これからさらに成長していく必要性”と“成長していきたいという意欲”を持っていらっしゃいます。
また、上場している企業様からも、「現状のままではダメだ」「自分たちでつくっていかないと会社の未来はない」という危機感をお持ちの企業様からのご相談も多いですね。
未来合宿を通じて、従業員の熱量と結束を強めるために、何らかの変化を求めていらっしゃる企業様からのニーズが高いと感じています。
――特にアーリーフェーズの企業を多くサポートしていらっしゃるのには、何か理由があるのですか。
「全社合宿ができる、ラストチャンスになる可能性が高い」と考えているからです。自分の経験値ですが、社員全員が円になって話し合える限界は30人くらいだと思っています。それ以上の人数に増えた後では、毎月のように人の出入りがあったり、欠席者が出たりと、全員で集まろうと調整する負荷が大きく、そもそも全社合宿自体を行うのがなかなか難しいんですね。
“全員で合宿する”という体験がある会社と、そうでない会社では、その後の勢いやカルチャーが変わってくると思います。ですから、みんなで濃厚な時間を共にするという文化を作りたければ、それくらいの規模の段階で全社合宿を行うことは大切です。
実際に、100名を越えて組織課題が噴出している会社で、「社員30名くらいのときの全社合宿が一体感もあったし、一番楽しかった」とおっしゃる経営者の方もいらっしゃいます。
――なるほど、規模的にも高い効果が見込めるのですね。
そうなんです。私たちとしては、合宿人を利用せずとも、まずは自分たち自身で合宿を行っていただきたいと考えています。でも、「ここぞ」という大事なときには、外部の力も借りてインパクトが残る合宿をしたほうが良いとオススメしています。
「合宿に価値を感じていても、自分たちですべてやるのは難しい」と思っていらっしゃる企業様から、「合宿のプロにお願いしたい」とご相談いただくことも多いです。そういう方には、無料アドバイスも行っています。
合宿人代表 茂木健太氏

社内の「合宿しよう!」というムードの醸成が重要

――企業が合宿を導入する際に、どのようなことに気を遣っていますか?
社内に「合宿しよう!」というムードがない状態で実施しても効果的ではないので、従業員の方へ、課題や理想の未来についてのヒアリングを行うなど“ムードの醸成”をとても大切にしています。
そして、ムードを高めていくには、 “キーパーソンへのアプローチ”も重視しているポイントです。
キーパーソン選びには、「合宿のような活動や、変化を起こすことに興味・関心を持っている」「社内での影響力がある」という2つの軸があります。
経営者の方にそのようなキーパーソンの方を挙げていただいて、その方に対して地道にアプローチしながら合宿に向けたムードを少しずつ高めていきます。
――時間がかかることもありそうですね。
企業様の状況によって異なりますが、合宿を実施する数ヵ月前から関わることが多いです。
合宿でも組織開発でも、まず“火種”をつくることが不可欠です。そして、組織のムードや気運を高めていく力を、私たちは『組織の焚きつけ力』と呼んでいます。
スタートアップ企業の場合は、「経営者自身が燃えている」ということは多いんですね。でも、そのことと「組織を良い感じに燃やせているか」というのは別問題です。逆に、「現場は、かえって冷めてしまっている」というギャップが生じていることも少なくありません。
そのほかに多い経営者の方の問題としては、「“内なる炎”があっても、上手く表現できずに従業員を惹きつけられていない」というケースです。ですから、合宿人では『組織の焚きつけ力』と同様に、『リーダーの焚きつけ力』も重視しています。
未来合宿を通して、いかに経営者の方の“炎”を伝達して、会社全体を燃やすか。それも、私たちの役割だと考えています。

業績好調や人材採用成功、主体性の向上などの事例も

合宿人代表 茂木健太氏
――これまでに未来合宿を行った企業の成功事例を教えてください。
アーリーフェーズにある従業員15名ほどのスタートアップ企業様では、合宿以降、業績好調が続き、予定よりも早く、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成し、次のステージが見えたとのことです。
その理由を社長様にお聞きすると、「合宿の中で、新卒の若手の方々が自己主張やリーダーシップを取る体験ができたことで、彼ら彼女らがどんどん自立自走して、活躍するようになった」というお話でした。
合宿中に「若手・ベテランに関係なく、ゴールに向かっていく仲間や同志」という意識で動いていたことで、そのような効果が現れたそうです。
――ベテランの方の刺激にもなりそうですね。
おっしゃる通りです。また、ほかの企業様では、採用がとてもうまくいっているケースもあります。
約40名のスタートアップ企業様で、「自社のビジョンについて語り合う」という経営陣・マネージャー陣の合宿を実施し、その後にその熱量を全社へ伝播するための全社合宿を行いました。合宿中に「共通の未来に向けた結束が強まった」のに加えて、そういった社内の雰囲気が採用のPRにつながっています。
合宿の様子や内容、写真を自社サイトに掲載すれば、社風や自分たちが大切にしていることなどを社外にアピールできます。それによって、自社に合う人材を採用しやすいという効果が生まれました。
また、採用プロセスにおいても、「すべての面接官が言っていることが一貫していて、自分の言葉で企業ビジョンを語っている」と感じてもらえているそうです。その結果、自社のカルチャーにフィットした人材の採用ができていらっしゃいます。
そのように、合宿後の”結果の質”としても、目に見える成果が出ている企業様が多いですね。
――合宿を行うことで、組織にはどのような好影響がありますか?
いろいろありますが、たとえば、参加者同士の相互理解を深めて“良好な関係性をつくれる”ことが1つです。
オンラインワークでは、必要最低限で効率的なコミュニケーションだけになりがちですよね。でも、合宿ではワークショップ以外にも、移動や散歩などをしながら話す機会があります。そういった普段のコミュニケーションとは違う時間や環境のなかで、より深い関係性の構築が可能です。
そして、「主体的に動けるようになった」という方もいらっしゃいます。
職場での上下関係をシャッフルすることは難しいですが、合宿ではいろいろな”役割”をつくることができます。たとえば、”何かの準備をする人”“食事をつくる人”などの割り当てが可能です。
そうすることで、上下に限らず固定されていた関係を一旦崩して、合宿中はフラットな関係性のなかで主体性を発揮することができます。
さらに、未来合宿では、合宿中に自分がやりたいことをプログラムに盛り込んでいただきます。
例えば、みんなで料理をつくることや、大縄跳びをやるなどがありますが、やりたいと思う主体性に基づいていて、合宿が盛り上がれば何でも良いと思っています。
それによって、普段は中々出せない主体性を発揮する体験から、合宿後も継続して主体的に動けるようになったという事例もあります。
――先ほどのお話のように、人材採用にもつながることで、組織の活性化にも良い影響がありそうですね。
そうです。また、合宿という場にはその会社やチームの“らしさ”がすごく現れますから、新卒入社や中途入社したばかりの方が早くなじむためにも効果的です。
最初は合宿にあまり乗り気ではなかったという方でも、ほぼ全員が「参加したらすごく良かった」とおっしゃいます。やはり、皆で長い時間過ごしたり、自然に触れたり、焚き火をしたり、皆でおいしいものを食べたりすることは有効ですね。
合宿人代表 茂木氏

“非日常”=合宿での体験を、“日常”で活かすには?

――コロナ禍が落ち着いて、合宿を取り巻く環境などに変化はありましたか?
コロナ禍の最中に比べると、合宿に対する抵抗感は減ってきたと感じています。
そのなかで、コロナ禍前では、合宿の目的は「学びや課題解決のため」といった研修のようなものが多かったのですが、今は「コロナ禍で希薄化した関係性や、停滞感から勢いを取り戻したい」というご期待が強くなっています。
また、働き方の多様化による変化もあります。コロナ禍で、リアル勤務とオンライン勤務という選択肢が増えて、副業や業務委託など契約形態も多様化しました。そういった方々が合宿で集まることで「チームビルディングのスピードを速くしたい」というご依頼も増えています。
――「オンラインではなく、やっぱり合宿が有効」と考える企業が増えているんですね。
そう考えるスタートアップ企業様が増えているのと同時に、そういった企業様に出資するベンチャーキャピタルの方からのご依頼も増加中です。オンラインが普及した今だからこそ、合宿に限らず“同じリアルな場にいること”に意義を見いだそうという方が増えているのかもしれません。
“リアルであること”の意義には、その企業やチームのカルチャーが表れます。リアルでのコミュニケーションを大切にする企業であれば、そのような志向を持つ人材が増えて、独自の企業カルチャーがより色濃くなってエンゲージメントも高くなります。
――“非日常”の合宿で得たことを、“日常”であるリアルにつなげるためのポイントを教えてください。
前回お話しした『追い焚きセッション』のような機会を合宿後に設けて、「合宿後の自分のチャレンジをお互いにシェアして、それに対して賞賛し合う」ことが1つの方法です。
また同様の機会づくりとして、slackなど社内のチャットツールに“合宿のチャンネル”をつくっていただいています。そこで、合宿での気づきをシェアし合ったり、誰かのチャレンジのシェアに対して全員がコメントをつけ合ったりするんですね。
そのような行動を生み出すことで、「お互いにポジティブなフィードバックをし合う」というカルチャーをつくることもできます。今まではなかった社内コミュニケーションなので、ポジティブなコメントで盛り上がることも実際に多いです。
――そういったオンラインでの仕掛けも、合宿での体験を持続させるために有効なのですね。
はい。ほかにも、たとえば「新規事業を考えましょう」「リファラル採用を強化しましょう」など、合宿中に話したテーマをそのままにせず、個別にプロジェクト化して継続することも重要です。
また、物理的な環境を変えるのも大事です。オフィスがある企業様では、合宿直後に席替えをしたほうが良いと思います。合宿前と同じ席に座ると、どうしても合宿前の状態を思い出してしまうんですね。「せっかく未来合宿で未来にシフトするので、合宿前の“現状”に戻る要素を1つでもなくしたい」という考えです。

企業と地域の人々をつなげる『合宿3.0』

合宿人 茂木氏
――『合宿3.0』という新しいコンセプトについて教えていただけますか。
合宿という言葉に対しては、人によってポジティブ・ネガティブ様々な印象を持たれることが多いため、『合宿1.0~3.0』と定義しています。
まず、『合宿1.0』は“昭和の頃の社員旅行や詰め込み型の研修合宿”だと、私たちは定義しています。いわゆる「強制的で、きつい合宿」です。
そして、『合宿2.0』は、近年増えている「会社のミッション・ビジョン・バリューなどを、皆で一緒に語り合ったり、つくったりする」ものです。
そこからさらに進化したのが、私たちが考える『合宿3.0』です。『合宿2.0』との違いは、「ただ合宿場所に行くだけでなく、現地との交流が生まれる」という点になります。
――どのようなところから、その発想を得られたのですか?
原体験になったのは、当社のクライアントの方たち数人と一緒に沖縄へ行って、現地のクライアントと一緒に合宿を行ったことです。
すると、誰もいない素晴らしいビーチや滝や、夜のディープなスナックなど、これまで何度も行っていた沖縄“旅行”とは違う体験ができました。それだけでなく、参加者の経営者はそれ以降も沖縄とのご縁ができて何度も通う方もでてきました。
それまでは「現地はただの合宿場所に過ぎない」という感じでしたが、「現地の面白い方々とのつながりを持てると、全然違う体験ができる」と思いました。
――それは面白そうな試みですね。『合宿3.0』の事例を教えてください。
たとえば、2023年4月に石川県の能登町と東京の二拠点で活動をされている方から「能登を盛り上げたい」というご相談を受けて、能登に興味がある人たちを集め、約15人で合宿を行ったことがあります。そこで、現地の起業家の方など、さまざまな人たちとつながりもできました。
そして、その合宿の参加メンバーの1人が、その後に森を再生するというテーマで能登へのツアーを何度か企画したんですね。今年(2024年)1月にまた能登地方で地震が起きた後にも、現地へボランティアに度々訪れている方々がいます。そういった関係が続いている例があります。
このように、いろいろな地域の方や合宿向け施設の運営者の方からお声をかけていただくことも増えてきています。
――今後、さまざまな展開に広がる可能性がありそうですね。
はい。当社の「合宿文化を当たり前にする」というビジョンの実現を通じて合宿を行う企業が増えて、「合宿に来て、地域を盛り上げてほしい」という方々とのマッチングも生まれていくと良いなと思っています。
また、現地に何かしらの貢献ができたり、つながりが生まれたりすることで、「合宿を行った企業や参加者の方々に、“故郷”のようなものが生まれれば良いな」という想いもあります。

『合宿文化』を広め、「Gasshuku」を世界言語に

――茂木さんは、合宿を通じてどのような社会にしていきたいとお考えですか?
合宿は組織開発の1つの手段にすぎませんが、企業の成長過程で有効活用していただくことで、最高のチームや最高の会社がどんどん生まれていく社会にできればと考えています。
また、未来合宿では、ファシリテーターの私以外に数名の社外サポートメンバーにも参加していただいています。たとえば、企業様がテーマにしたい内容に応じて、人事・マーケティング・ブランディングなど各分野に強い方をゲストとしてお招きしています。
その方々のなかには、「自分の会社やチームが、未来合宿で成長した」という体験をされた方もたくさんいらっしゃいます。
そういった方々に、「自社では、このフェーズではこういうことが起きていたけど、合宿でこんなふうに解決できた」といった体験などをお話しいただくことで、「合宿の先輩が、後輩を支援する」という循環ができると良いなと思っています。
そして、未来合宿を通じて、合宿のファシリテーターができる方も増やしていきたいですね。そのような方が増えて、「未来合宿を経験したお客様の中から、他社の合宿をつくることに貢献する」という循環が生まれる世界を実現したいです。
――そこで、企業同士のつながりなども生まれていくのですね。
そうです。さらに、「他社の合宿に参加することで、企業カルチャーや従業員の方の行動習慣の違いなどに気付ける」など、面白い経験もしていただけると思います。ずっと同じ組織に所属していると、組織というものに対する見方が固定化してしまいますので。
そのような企業カルチャーの多様さや豊かさなども含めて『合宿文化』を世の中に広く伝えていくことも、私たちのビジョン実現につながると考えています。
――企業間や、地域と企業などの間で両者をつなげる“ハブ”のような存在ですね。これまで、合宿に対して「会社からやらされるもの」という先入観がありましたが、合宿って面白いですね。
そうなんです。「合宿」という日本語には、日本独自の文化性が入っていると私たちは思っています。英訳すると「training camp」となりますが、トレーニングを行わない合宿もありますし、その翻訳だけでは語りきれない部分も少なくありません。
日本語の「合宿」という言葉には、「一つ屋根の下」や「同じ釜の飯」という日本の文化性があると思います。ですから、「Gasshuku」という言葉を世界言語になるように広めていきたいですね。
そして、世界中から日本に合宿しに来る人が増えて、古民家で茶道や禅などの日本文化の体験とセットで体験してもらえれば、日本の誇りを取り戻すためにも貢献できるのではないかと思っています。
合宿人 茂木氏

文・あつしな・るせ
写真・大井成義

茂木 健太(もてぎ けんた)Co-Creations株式会社
(株)野村総合研究所でIT・経営コンサルタントとして活動後、Ideal Leaders(株)の共同創業を経て、2018年 Co-Creations を創業、経営者やリーダー向けにコーチングと組織開発コンサルティングを提供。その後SaaSスタートアップ企業のCHRO(人事責任者)を兼務。 2022年、自分が最も好きでインパクトが出せる仕事が、10年来実施してきた合宿であることから、最高の合宿を起点に、未来への勢いと組織文化を創る「合宿人」を立ち上げる。 「チームで最高の合宿をする文化を当たり前にする」というビジョンの実現に向け、経営合宿や全社合宿など、合宿を起点とした組織開発コンサルティング、コーチングを提供している。

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