未来を語る“合宿”を起点に、組織開発を行う【スマート会議術第191回】

未来を語る“合宿”を起点に、組織開発を行う【スマート会議術第191回】Co-Creations株式会社 代表取締役、合宿人代表 茂木健太氏
日本の企業で、古くから導入されてきた“合宿”。しかし、コロナ禍の影響や時代の変化を受けて、行わなくなった企業が多いのではないだろうか。そのような流れのなかで、テレワークによって社内コミュニケーションが希薄化した今、企業合宿の意義や価値が再認識されているという。
独自の“未来合宿”を法人向けに提供する『合宿人(がっしゅくじん)』という事業を展開しているCo-Creations株式会社 代表取締役の茂木健太氏に、組織開発に役立つ合宿の特徴やメリット・効果などを教えていただいた。
目次

“最高の合宿”が、その後の人間関係を強くする

――『合宿人』という事業名が非常にユニークですが、どのようなサービスを提供されていらっしゃいますか?
当社は、「合宿を企画して、実施して、終わり」という単なる合宿屋さんではなく、主に法人様向けに“合宿を起点とした組織開発のコンサルティング”を行っています。
「チームで最高の合宿をする文化を当たり前に」というビジョンのもと、合宿の企画から、現場でのファシリテーション、アフターフォローまで一貫して展開中です。
――茂木さんが考える“最高の合宿”とは、どういったものでしょうか。
とてもシンプルに言うと、参加者の方から、「最高」という言葉が思わず出る。それが、究極の“最高の合宿”だと思っています。実際に、合宿中に「ああー、最高!」と皆さんがおっしゃる様子もよく見ます。
それぞれの方が最高だと感じる瞬間は、「皆でビジョンを語り合うとき」「焚き火を囲んでいるとき」「温泉に入っているとき」など、人によって違うと思います。
でも、共通の目標を持って一緒に仕事をしている仲間たちが、「最高」とつぶやき合う瞬間があるだけで、その後のお互いの関係の強さがまったく変わってくるはずです。
――茂木さんご自身は、どのような合宿体験をお持ちですか?
元々、私は2002年に野村総合研究所に入社して、10年ほどITコンサルをしていました。その後、企業向けの組織開発やコーチング、そしてその一環で合宿も提供する社内ベンチャーチームに参画しました。
入社後に“昭和の社員旅行”のようなものに参加した経験はありましたが、“合宿”を初めて体験したのは2012年のことです。
東日本大震災の翌年で、仙台でのボランティア活動を兼ねたチーム合宿に初めて参加しました。チームのビジョン作成が主な目的でしたが、そこで「合宿ってすごく楽しく、価値がある」と直感したんですね。
そして同時に、「合宿というものが仕事になるんだ」と驚きました。
――そこから合宿人事業が生まれていった経緯を教えてください。
そのチームメンバー4人と一緒に起業して、企業の組織開発支援の一部として、お客様がミッション・ビジョン・バリューをつくる際や、大きな新規事業プロジェクトのキックオフなど、要所要所で合宿を企画・提供していました。そして、独立して当社を創業したのが2018年です。
独立してからも前職と同じスタイルで事業を行っていましたが、コロナ禍になってリアルで集まる機会が減少しました。そして、企業の組織開発支援も、並行して行っていたベンチャー企業の人事責任者の仕事も、すべてオンラインで完結できるようになったんですね。
「効率的でいいな」と思う反面、オンラインの予定がびっしり詰まっていることにストレスも感じるようになりまして……。そんなときに、「そういえば、自分は合宿という場が一番好きだし、お客様に対する価値も一番出していたな」と気づいたんです。
それまでは組織開発コンサルティングの1部として合宿を行っていましたが、「合宿こそが必要で、メインになるべきだろう」と考え方が逆転し、合宿人事業を立ち上げることにしました。
合宿人代表 茂木健太氏

“理想の未来”にフォーカスした合宿が重要

――御社では、合宿を“未来合宿”と呼んでいらっしゃいますよね。なぜ、そのような名前を付けられたのですか?
私たちは、合宿とは「学んで、おしまい」ではなく、「実施後に、日常業務での実践や仕事・組織の変化につながる」ものだと考えています。
そして、未来合宿は、自分たちの“理想の未来”にフォーカスして、その未来の実現に向けたカリキュラムが特徴です。「合宿中は、自分たちが実現したい未来に浸っていただきたい。」そう思っています。
ですから、「理想の未来が実現したつもりで、ヒーローインタビューし合いましょう」といったワークショップも行います。また、合宿終了時に写真を撮る際、“理想の未来が実現した記念写真”という位置づけで撮影します。
そのように、あらゆる点で、意識が未来に向く仕掛けを行っています。
――どのような未来を設定されるのでしょうか。
リアリティのある未来として、「1年後や3年後に、自分たちはどうなっていたいか」といったことを皆で話し合います。
企業のミッション・ビジョン・バリューはもちろん重要ですが、抽象度が高いものでもあります。目の前の仕事や目標達成に意識が向いている日常生活では、あまり身近には感じられないかもしれません。そこで、近い未来像を皆でつくり上げていきます。
実はそのような近い未来について話し合ったことのある企業様は、驚くほど少ないですね。
――未来像というのは、組織と個人のどちらについてですか?
両方です。
一般的に、研修やワークショップでは、組織の未来について語ることもあるかと思います。しかし、その未来に“自分の未来”が含まれていないと、自分事になりません。ですから、「実現したいチームの未来において、あなたは何をしていますか?」ということもセットで考える必要があります。
各個人がやりたいことや価値観などを合宿中に話すことで、自分自身のことや将来を考えるきっかけになったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。

組織開発に有効な合宿導入のプロセスとは?

――御社の特徴でもある、“合宿を起点とした組織開発のコンサルティング”について教えてください。
まず、合宿前の準備段階として、企業様の課題や「どんな合宿にしたいか」というご要望をお聞きします。
今はコロナ禍の影響もあって、企業で合宿をしたくても「本当にやるの?」という声が社内で挙がることも珍しくありません。そこで、「どうしたら、皆が合宿に行きたくなるか」という社内のムードの醸成からお手伝いして、各社様の状況に合った合宿プログラムの企画、現地でのファシリテーションという流れで進めていきます。
さらに、合宿後のアフターフォローも行います。合宿で会社の未来を語ったり、「未来に向けて、私はこういうチャレンジをします」とコミットを表明したりしても、合宿後は日常に戻ってしまうことが多いんですね。それではすごくもったいないので、フォローにも力を入れています。
――組織開発を継続・実現するために、アフターフォローも大切なんですね。
そうなんです。合宿を通じてキャンプファイアのように高まった皆さんの熱量が覚めないように、合宿の3~4週間後くらいに『追い焚きセッション』という名前で2時間くらいのグループセッションを行うこともあります。
そこでは、各自がどんなチャレンジを実践したかをシェアし合ったり、そのなかでMVPを決めたりします。そのように、「最もチャレンジした人が賞賛される」という文化をつくることも、私たちの組織開発の切り口の1つです。
ほかにも、合宿中に出た戦略やアイデアを実現するためのプロジェクトづくりのサポートなども行っています。
――企業ごとに内容をカスタマイズされているそうですが、基本的な未来合宿のアジェンダはどのようなものですか?
1泊2日の場合、基本的に下図のような流れになります。
未来合宿アジェンダ
このようなカリキュラムを通じて、「関係の質~思考の質~行動の質~結果の質のサイクルすべてが合宿中に回る」というアジェンダ設計をしています。
最初に自社の歴史や自分の仕事、人生のストーリーを語り合うことで、相互理解を深めて“関係の質”を高めます。そして、皆でビジョンに向かうための理想の未来像を描き視座を上げ、“思考の質”を高めていきます。
そして、“行動の質”について、「合宿後に、自分たちが描いた未来を実現するための行動を決めるのでは遅い」というのが私たちの考えです。
合宿人代表 茂木氏
――先ほどのお話にもあったように、「合宿後は、また日常に戻ってしまう」からでしょうか。
そうです。ですから、合宿期間中に、未来の実現のために話し合うべきことやクリアすべき課題、行うべき行動などを話し合っていただきます。
そこで話し合った行動を実際に起こしてこそ“結果の質”が生み出されると思いますが、未来合宿では合宿中の“結果の質”も大切にしています。
合宿ならではの特徴として、「皆で最高の合宿をつくった」という体験自体が「お祭りや文化祭を皆でつくった」といった成功体験と同じように、揺るぎない“結果”として残ります。そのような結果を生み出せることも、合宿のメリットの1つです。

“インパクト”や“ノイズ”を生み出すことが、合宿成功のポイント

――合宿を行う上で、大切にしていることや工夫などを教えてください。
宿泊する合宿でよく起きるのが、“対立”です。これは夜に起こりやすいのですが、「普段から思っていてもなかなか言えない考え」や「合宿中に感じた違和感」などを誰かが発言することで、時には口論のようなことが起こることもあります。
このように“場が荒れる”ことが、私は重要だと思っています。「大切なのに言えていないこと」をすべて出せるのも合宿のメリットなんですね。そういう状況になった場合は、夜中までとことん話し合うこともあります。
そして、そこで話し合った内容を、翌日に“素面”な状態できちんと話し合うことも大切にしています。
――なるほど、「ただ楽しむだけ」で終わらせないことが重要なんですね。
普段は起こせない“インパクト”を起こせるのが、合宿です。せっかく日常とは違う時間やお金をかけるのですから、「予定調和の合宿や社内会議のロング版といったかたちで終わらせずに、現状を打破する機会にしたい」と私たちは考えています。
そのために、私たち外部の人間が合宿の企画やファシリテーターを行う介在価値として、「いかにチームのブレイクスルーポイントを見極めて、どうやって介入して、変化を起こしていくか」という点を意識しています。
さらに、いつもの飲み会のような感じにならないように、「夜の時間を、いかに良い時間にするか」という観点も必要です。
また、合宿中のアジェンダは事前に決めていますが、それをこなしていくというよりは、「次のステップに進める状態ができていない場合は、まずその問題を解決する」ことを優先しながら進行します。
――ほかにも、合宿を成功させるポイントはありますか?
合宿だからこそ生まれる“ノイズ”も大切だと思っています。
普段はちょっとしたストレスがあっても、「あくまでも仕事の関係だから」とやり過ごすほうが楽ですよね。でも合宿は、短時間でも“共同生活”です。お互いの良い面以外にも、たとえば「同じ部屋で寝る」といった小さいストレス=ノイズを体験することで、人間味を感じられるようになります。
そして、「単なる会社の歯車ではなく、人間同士として働いている」という実感にもつながります。
未来合宿では、「宿泊する部屋を、個室ではなく相部屋にしましょう」ということも推奨しています。その理由は、「個室にこもることができるような完全にストレスフリーな状況では、チームビルディングはできない」と考えているからです。
――「合宿は、サッカーの試合のようなもの」というお考えを持っていると伺いました。それは、どうしてですか?
事前に決められたカリキュラムをただ単にこなすのではなく、「合宿という限られた時間内に、どれだけ多くのインパクト=得点を取れるか」ということを大切にしているからです。
そのインパクトには、先ほどお話しした“お互いの対立”や“個人の覚醒”などが重要になります。また、誰か1人の気づきやチャレンジ表明などがインパクトを起こすきっかけになることもあります。
ですから、たとえば温泉で偶然ご一緒した参加者の方に対して、私たちから誘導することも少なくありません。そのように、合宿中は参加者の皆さんに深く入り込みながら、常に得点チャンスを狙っています(笑)。
合宿人代表 茂木氏

普段の会議にはない、マインドシフトも起こせる

――合宿と、普段の社内会議との違いを教えていただけますか。
いろいろなポイントがありますが、1つは「緊急ではないけれども重要なことを話し合える機会」という点です。
“自分たちの未来”に関すること以外にも、たとえば、ちょっとしたミスコミュニケーションの問題などは日常では後回しにされがちです。しかし、そういったものが蓄積されていくと、修復不可能な関係に発展して業務に支障が出ることもあります。
そうならないために、普段の会議とは違う“モード”で話し合えるのが合宿の特徴です。
――「非日常」ということが大切なんですね。
そうです。また、合宿では、実施前後で皆さんの視座がまったく変わります。会社での“日常的な意識”から飛び出して、未来について時間をかけて語り合うことで、皆さんのマインドが未来に向かうんですね。
そうなると、それまで課題だと思っていたことや気になっていたことが、「大した問題ではない」という見え方に変化します。
そして、個人のマインドシフトが起きるだけでなく、全員が未来志向になるので、実施後に元の状況に戻りにくくなるのも通常の会議との違いです。
未来合宿では、皆で焚火を囲むときに、会社のビジョン・ミッション・バリューを盛り込んだイメージ映像を流すこともあります。そのような映像や音楽を流すことで、“自社内のフェス(ティバル)”のような雰囲気をつくって、エンゲージメントが自然に高まる演出ができるのも、合宿ならではの特徴です。
――コロナ禍の影響でオンライン研修なども増えましたが、やはりリアルでの合宿は大きな違いがありそうですね。
そうですね、皆で一定期間を一緒に過ごす合宿には”余白”の時間がたくさんあります。
オンラインの場合、「休憩になったらすぐミュート。終わったらすぐ退室」というケースが多いと思います。ですが、リアルな合宿ではオン・オフの境目が緩やかなので、話し合いが終わっても「もう少し話しませんか?」というコミュニケ―ションも自然に生まれやすいんですね。
そして、オンラインは効率性が重視されるので、「自分も、限られた時間で気の利いたことを言わなければいけない」と考えてしまって“心理的安全性”も下がりがちです。相手の表情も読みづらいので、「相手が何を考えているのかわからず、話しにくい」という状況にもなってしまいます。
合宿ならではの時間として、たとえばみんなで焚火を囲んでいるときなども、リアルな合宿ならではの味わい深い時間だと思います。「皆でこの豊かな沈黙を共有している」という体験は強く印象に残り、その後の人間関係においても役立つはずです。
合宿人 茂木氏

文・あつしな・るせ
写真・大井成義

茂木 健太(もてぎ けんた)Co-Creations株式会社
(株)野村総合研究所でIT・経営コンサルタントとして活動後、Ideal Leaders(株)の共同創業を経て、2018年 Co-Creations を創業、経営者やリーダー向けにコーチングと組織開発コンサルティングを提供。その後SaaSスタートアップ企業のCHRO(人事責任者)を兼務。 2022年、自分が最も好きでインパクトが出せる仕事が、10年来実施してきた合宿であることから、最高の合宿を起点に、未来への勢いと組織文化を創る「合宿人」を立ち上げる。 「チームで最高の合宿をする文化を当たり前にする」というビジョンの実現に向け、経営合宿や全社合宿など、合宿を起点とした組織開発コンサルティング、コーチングを提供している。

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