リスキリングが、“卒業がない、学び続ける世界”を実現する【スマート会議術第189回】

リスキリングが、“卒業がない、学び続ける世界”を実現する【スマート会議術第189回】株式会社Schoo コミュニケーション戦略室室長 大金歩美氏
「リスキリング(Reskilling)」。多様化する時代でビジネスパーソンがキャリアを磨くために必要なスキルや能力の再開発・再教育が、いま大きな注目を集めている。政府も「人に対する投資に、5年で1兆円を投入する」という方針を発表。法人・個人向けにさまざまな支援を実施中だ。
リスキリングを取り巻く実情は、どのようになっているのか? 法人・個人向けにオンライン学習サービスを提供している株式会社Schoo(スクー)のコミュニケーション戦略室 室長として広報を務める大金歩美氏にお聞きした。
目次

世の中から“卒業”をなくし、“終わりのない学び”を提供

――最初に、御社の創業の経緯を教えてください。
Schooは2011年に渋谷で創業して、今年で13期目の会社です。約250名の社員が所属しています。
創業のきっかけは、当社代表の森がリクルートに勤めていた際に、eラーニングで研修を受けたことでした。講師の方が一方的にパワーポイントを使って退屈なプレゼンをする内容で、「楽しみにしていたのに、すごくつまらない」と感じたそうです。
そこで、「自分なら、もっと面白いサービスがつくれるんじゃないか」と考えて、翌日に退職届を提出して当社を2011年に設立しました。
当時、先進的なサービスだったニコニコ動画を森が好きで、「動画にチャットが流れたり、ユーザー同士が会話したりする“インタラクティブなやり取り”を学びにも取り入れたら、面白いものができるのではないか」と着想を得て始めたのが、Schooのサービスです。双方向性のある学びは、創業時から変わらず大切にしています。
――すごい行動力とユニークな発想ですね! そのような背景で生まれた御社は、どのようなミッションをお持ちなのですか?
当社では「世の中から卒業をなくす」というミッションを掲げています。『Schoo』という社名は、学びの象徴である学校=「School」から最後の「l」を取ることで、終わりのない学びを提供していこうという意味が込められています。
2012年に、社名と同じ個人向けのオンライン学習サービス「Schoo」をスタートして、2015年から法人向けサービス「Schoo for Business」も展開していて事業を拡大させています。
さらに、高等教育機関向けにDX支援事業や、自治体や省庁などと協働して地方創生事業も行っています。
――御社のオンライン学習の特徴を教えてください。
創業時から変わらず、“双方向性”を大切にしていることです。
また、365日生放送を行っていて、生放送の授業はすべて無料で、会員登録を行なっていただくと誰でも見ることができます。「学びを始めるハードルを少しでも下げたい」というのが、私たちの想いです。
さらに、授業形式にも特徴があります。
一般的なオンライン学習は講師の方がお一人で受講者に向かって話すことが多いですが、当社では講師の方の隣にファシリテーションを行う受講生代表がいます。進行役としてはもちろん、受講者の代表として質問を投げかけ様々な視点を生み出すきっかけをつくるなど、双方向性を生み出す役割を担っています。
株式会社Schoo コミュニケーション戦略室室長 大金歩美氏

心理的安全性が高い“場”づくりで、学びの継続性を高める

――実際に授業に参加させていただいて、生放送中にチャットができる機能も面白いと思いました。
チャット上で受講者同士が教え合ったり、会話したりするなど、リアルな学校の教室のような授業体験ができるのもSchooの特徴です。初めて受講される方のアイコンには初心者マークがつくので、先輩受講者の方が教えてくれる光景もよく目にします。
「学びで、自分を高めたい」というポジティブな方が多く、同じ方向に向かう方同士が集っているので、「ネガティブな発言で、場が荒れる」ということはほとんどありません。
また、基本的に実名登録制という点も受講者の方にとって心理的安全性が高いコミュニティを形成できていると一つのポイントだと思います。
このようなサービス設計を行うことで、継続しにくい学びというものを「より楽しく、より続きやすくする」ことを実現しています。生放送の授業に毎日参加される方もいらっしゃいます。
――チャットで印象的だったのが、皆さんの「こういうことがしたい」という前向きな発言に対して、好意的に応じていらっしゃる方が多かったことです。たとえば友人や会社の同僚に同じようなことを言うと、“すごく頑張っている、意識高い系の人”と思われるかもしれませんが、Schooではお互いを尊重して認め合う雰囲気が感じられました。
おっしゃる通りで、“友だちや会社のコミュニティとも違う、新しい場所”として、心の拠りどころのように感じていただいている方が多いようです。ユーザーさん同士がつながって、自主的に勉強会を行っている方もいらっしゃいます。
――学びのプラットフォームであるのと同時に、コミュニティをつくったり、受講者同士でコミュニケーションしたりできるプラットフォームでもあるのですね。
そうですね、“学び×コミュニティ”という点が、ほかの学習サービスと圧倒的に違うと思います。

個人・法人ともに増加を続ける、独自の双方向性のあるオンライン学習

――御社のオンライン学習を受講していらっしゃる方は、どれくらいいらっしゃるのですか?
現在、会員登録数が約110万人を突破して、4000以上の法人様にご導入いただいています。コロナ禍前から年々増え続けていて、コロナ禍以降はさらに急増中です。その背景には、2つの理由があると考えています。
登録会員数グラフ
1つは、「皆さんのオンラインへの抵抗がなくなった」ことです。コロナ禍中にオンライン会議が当たり前になって、今は対面もオンラインも選べることが多くなっています。学びについても同様に、個人・法人を問わずにオンラインという選択肢が加わりました。
もう1つの理由は、「“人的資本経営”に対する社会の意識が高まった」ことです。政府の「個人のリスキリングの支援に、5年で1兆円を投資する」という方針や、“企業の人的資本の情報開示義務化”によって、人的資本経営を進める企業が現在増えています。
より人への投資の重要さが社会に浸透してきたという社会背景もあり、時代の流れに合ったサービスとしてご導入くださる法人様が増えているのだと思います。
――そのように多くの方々に御社のオンライン学習が選ばれている理由は、何だと思われますか?
8500本以上にわたるコンテンツの多さ、ジャンルの幅広さが、大きな理由の一つだと思います。たとえば、一般的な社会人向けの講座はビジネススキルや語学など即時のビジネススキル向上に関するものが多いですが、Schooではそういった内容以外にも、キャリアに関する講座や、数学や歴史などの教養的なもの、さらに睡眠など健康に至るまで幅広い種類の授業があります。
特に現代においては働く人たちの考え方が多様化していて、さらに社会の環境変化も激しい。そのため、単純なビジネススキルだけではない学びが求められています。だからこそ、コンテンツの幅広さに賛同いただいているのだと思います。
何かを始めるための初めの一歩”として使っていただくケースも多いです。

コミュニケーション系の授業が人気

――ビジネスパーソンの方が、今学びたいと思っていることは何でしょうか。Schooではどのような授業が人気ですか?
2023年の傾向としては、“時短”など生産性向上”やChatPTの台頭による“AI活用”などをテーマに扱ったものが人気でした。
しかし、最新の2024年の上半期のランキングではラインアップに変化がありました。
2024人気授業ランキング
コミュニケーション系の授業が上位を占めており、これは2022年~2024年の全体的な傾向としても続いています。
そのほか、50代以上のミドルシニアの方には、引き続きAI系やDX系の授業の人気があります。実は2023年以降、ミドルシニアの方の受講時間が全体と比較しても増えていて、学びへの意欲が高まっているのが現在の傾向です。
――幅広い年齢層や多様なニーズに応えるのは、簡単ではないと思います。どのように授業をつくっていらっしゃるのですか。
常に各授業の受講状況をデータ分析し、人気がある授業は随時リニューアルしながら継続的に配信しています。
また、たとえばリベラルアーツのような「今すぐはビジネス上で実践的に使えなくても、長期的に見るとビジネスパーソンに必要」と考えられるものは、まだニーズが顕在化していないものでも、当社からの提案という意図を持って授業を制作しています。
常に新しいコンテンツ企画を考えるために、社内で編成会議も行っています。当社には教育ビジネスの経験者以外にもメディア出身者や企業の人事担当者など多様なバックグラウンドを持つメンバーがいますので、個々の“時代の波を読む力”や知恵を活かした魅力的な授業の企画も特徴です。
株式会社Schoo 大金氏

“企業内大学”支援など、企業の取り組みも急増

――先ほどもお話がありましたが、人的資本経営に対する企業の意識が高まっています。リスキングに関する企業の取り組みは、どのような状況でしょうか。
最近は日本の社会全体でリスキリングが話題になっています。でも、世界的に見ると、日本は企業の人材への投資額や、社外学習や自己啓発を行っている人が驚くほど少ないのが現状です。
グラフ
それは、個人のやる気の問題というよりも、これまでは「終身雇用だから、特にスキルアップをしなくても定年まで働ける」という日本の雇用形態が大きく影響していると思います。
――そもそも、社会人になってから学ぶという習慣があまりありませんでしたよね。
そうなんです。しかし、そのような状況は変わりつつあって、大手企業を中心に「社員の学びを支援する」という動きが加速しています。実際に、企業内大学のような形で全社を挙げて学びの場を作り、取り組むことで従業員の方の“学びに対する意識”が変わるという効果が出ています。
特に最近は、企業の中でも「社内コミュニティを使って、みんなで学びましょう」というケースが急増しています。
そのようなニーズにお応えするために、当社では法人様向けにコミュニティ支援も行っています。「研修をして終わり」ではなく、企業様に伴走しながら“学び続ける組織”をつくるサポートを行っています。
株式会社Schoo 大金氏

文・あつしな・るせ
写真・大井成義

大金 歩美(おおがね あゆみ)株式会社Schoo
大学卒業後、デザイン会社を経てPR代理店に勤務。国内外のホテルやブランド、公官庁などのPRを幅広く担当し、商品企画〜PR戦略に至るまでの設計、実行を行う。 その後、ラクスルで事業会社の広報として、アウターとインナーコミュニケーションを担当。新規事業の立ち上げPRや社内報の立ち上げ等にも従事。2021年10月、株式会社Schooに入社し広報部門の立ち上げを行う。現在はコミュニケーション戦略室の室長としてコーポレート、事業のPRを統括。 個人の活動として、複数のベンチャー企業のPR支援を行うほか、WEBメディアでの編集・ニュース記者の仕事を経て航空専門誌の記者・カメラマンとしても活動中。

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