株式会社コーチビジネス研究所 取締役 中村智昭氏
目次
適切なコーチングとは、「まず相手を認める」こと
- ――御社はエグゼクティブコーチングなどコーチングを核とした事業を行っていらっしゃいますが、どのような企業理念をお持ちですか?
- 「最も人を幸せにする企業が、最も幸せになる」という意味の『幸せ創造企業』をつくる支援を通して、『幸せ共創社会』の実現を目指すことが、当社の理念です。
幸せ創造企業とは、「社員が幸せになって、それによって企業自体もよくなっていく」という考えに基づいていて、コーチングを通してそのような企業になるためにサポートしています。
- 適切なコーチングには、「まず相手を認める」ことが大切です。「この人は、できる人だ」「この人は、やりがいを持って何でもこなしてくれる」などと認めたうえで、相手の悩みや相談、想いをじっくり傾聴します。
また、質問する際も、「こんな質問をすると、相手は成長するだろう」「こういう質問をすると、業務上のヒントになるだろう」など、相手のためになる質問をするのが本来のコーチングです。
- ――そのようなコーチングを行うことで、人も企業も“幸せ”になれるのですね。
- そうです。適切なコーチングを社内に取り入れて実践できる企業が、『幸せ創造企業』になっていくと私たちは考えています。
そして、自社以外の企業とも連携しながら世の中のさまざまな課題を解決して、幸せの輪が広がっていくのが『幸せ共創社会』です。
経営者や役員を“元気”にする、エグゼクティブコーチング
- ――その御社の理念を実現するために、どのような取り組みを行っていらっしゃいますか?
- 理念を実現するには、ただ単に「社長さん、頑張れ!」と応援するのではなく、経営者の方に対する支援、つまり経営者の方をコーチングする『エグゼクティブコーチング』が必要だろうと考えています。
- 経営者の方の“器”が大きくなって、働いている方々の能力やモチベーションが引き出されて活力がみなぎっている組織が世の中に増えれば、日本の産業はもっともっと元気になっていくはずです。グローバルで活躍できる企業も増えてくるでしょう。そのためにも、「まず、経営者の方に元気になっていただきたい」と私たちは思っています。
- ――エグゼクティブコーチングを通して、どのように経営者の方が元気になっていくのでしょうか?
- 多くの経営者の方は自分1人で経営について考えていて、たとえば組織づくりや幹部の人事など、他人にはなかなか言えないことも多いんですね。
- 私たちエグゼクティブコーチは、経営者の方のどんな話でもお聞きする“プロの壁打ち相手”です。経営や傾聴などに関する知識・スキルをしっかり学んでいて、守秘義務も徹底していますから、企業経営についてはもちろん、経営者ご自身のお悩みごとや愚痴などもお話しいただけます。
- そうすることで、ストレスが軽減されますし、人に話すことでご自身の考えが整理されてアイデアや気付きが出てくるんですね。それが、経営者の方の活力につながると考えています。
- ――中村さんご自身も、大手企業で役員をご経験されているそうですが、現在のコーチングというお仕事に影響していることはありますか?
- 私は30年間以上、企業で管理職や役員をしてきて、「経営トップが社内に及ぼす影響は、ものすごく大きい」と身にしみて感じていました。
経営者の器が大きいと、会社も成長しますし、従業員さんが働きがいを感じられる“ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に満たされた状態)な職場”をつくることができます。
- その反面、器が小さい経営者の方の場合は、働く人たちの働く意欲や、さまざまな戦略や施策への納得感が低くなってしまいます。さらに、自分に権限を集中させがちなので、正常な組織運営ができず、社内がギスギスして働く人たちの“関係の質”も悪くなります。
- そうなると、お互いに相談や改善提案などをしなくなるので、「言われたことだけやっていればいい」と“思考の質”も劣化します。さらに、「“行動の質”が低下して、“結果の質”も悪化する」という、ダニエル・キム博士が提唱する『組織の成功循環モデル』でいうバッドサイクルになってしまうんですね。
そのような状態にならないためにも、エグゼクティブコーチングを通して多くの経営者の方に元気になっていただきたいというのが、私たちの想いです。
経営者こそ、ウェルビーイングであってほしい
- ――御社では3つの主要ビジネスを行っていらっしゃいますが、それぞれについてお教えいただけますか。
- 1つ目は、経営者や経営層の方々向けのエグゼクティブコーチングの提供です。“壁打ち相手”になって、思考を広げたり、思考を深めたり、思考速度を速めたりすることによって、パフォーマンスが上がるお手伝いをしています。
また、プロの聞き役として、経営者ならではの孤独やプレッシャーなどを何でもお話しいただくことでストレス解消や精神的フォローも行います。長年にわたってご依頼を継続いただく方が多いのが当社の特徴です。
- 2つ目が、企業様や公的機関様向けの管理職研修や人財育成・コーチング研修などです。最近よく話題に上がる「心理的安全性」がある環境づくりに必要な“コーチング力”を管理職の方々に学んでいただくプログラムなど、さまざまな研修を提供しています。
私たちは「コーチングとは、こうですよ」ということだけをお伝えするのではなくて、ロバート・キーガン博士の『成人発達理論』などに基づいて、コーチングに不可欠な“相手との信頼関係”を築くための自己成長の方法なども学んでいただいています。
- そして3つ目は、エグゼクティブコーチングに特化したコーチを養成する『CBLコーチングスクール』の運営です。
- ――御社の“コーチング”には、どういった特徴がありますか?
- コーチングは、「ライフコーチング」「ビジネスコーチング」「エグゼクティブコーチング」の3つに大別されます。
ライフコーチングは、「どう生きるか」「人生を充実させるには」「後悔しない生き方とは」など、その方の人生そのものにスポットを当てたものです。
ビジネスコーチングは、ビジネスにフォーカスしています。ビジネスパーソン向けに、ご自身が所属する部署・プロジェクトなどで成果アップや自己成長をするためのコーチングを提供します。
そして、エグゼクティブコーチングでは、経営者や役員クラスの方を対象に、経営全般について幅広く取り扱っています。M&Aや事業提携、後継者問題なども話題に上ります。 - さらに、経営者の方自身の人生そのものに関するライフコーチの領域も取り扱います。
なぜなら、従業員の方にとって、自分の会社の社長さんが明るく元気で活き活きとお仕事されているほうが、暗い雰囲気で落ち込んでいるよりも働きやすいですよね。ですから、「経営者こそ、ウェルビーイングであってほしい」と考えて、企業経営と経営者個人の両面でサポートするコーチングを提供しています。
“伴走者”として、相手の理想実現や主体性向上をサポート
- ――「役員や経営幹部を、エグゼクティブコーチングで育てたい」という経営者の方からのご依頼も多いとお聞きしました。その場合は、どのようなコーチングを行うのでしょうか。
- まず、360度フィードバックなど、コーチングを受ける方の関係者の皆さんにヒアリング調査をして、その方のリーダーシップなどに関する現状のアセスメントを行います。
そして、それらの結果を「ご本人にお渡しして終わり」」ではなく、本番のコーチングの前にコーチと一緒に評価を1つ1つ読み解いて、「この結果をどう感じるか」「どうしたいか」ということを明確にしていきます。
- さらに、「強みをどう活かして、パフォーマンスを出すか」「弱みをどう補うか」といったことを一緒に考えていきます。
たとえば、「半年後、1年後、どんなリーダーになっていたいか」といった理想の姿をとことん考えていただいて、アクションプランを立てていただきます。
- 自分がなりたい姿を実現するために、たとえば「部下の話をしっかり聞いて、自走するような関わり合いができる上司になる」といった具体的な状態を決定。その実現に向けて、「初月は、週1回15分、部下○人の話を聞く」などの具体的な毎月の目標とアクションプランを立てます。その後、月に1~2回、達成状況などについて話し合いを行っていきます。
- ――具体的なアクションプランを立てるうえで、ポイントなどがあればお教えください。
- 大切なのは、「会社からやらされている」「正論でやらなきゃいけない」と考えるのではなく、“本当に自分がやりたいこと”に基づいてアクションプランを立てることです。自分自身が「こういう上司・リーダーになりたい」「ここまで成長したい」と心から思える目標が具体的に決まると、そのための具体的な行動も明確になります。
- アクションプラン通りにうまく進めば、それをさらに伸ばすための方法や、うまくいった理由、実行するなかで感じた意外な効果や気付きなど、経験学習の振り返りや教訓化のプロセスを一緒に行っていきます。
- 目標やプランはご自身の意思で考えたものですから、その遂行状況に対して私たちコーチが“責める”ことは絶対にしません。もし予定通りに進んでいなければ、その理由や現状の受け止め、「今後どうしたいか」などを丁寧に話し合います。
- 私たちは、あくまでも“伴走者”です。上から目線で接することは一切なく、その方自身で推進していくために一緒に走り続けます。
- ――コーチングを受ける方の考え方や主体性も育っていきそうですね。
- そうですね。自分の内側から出た“本当にやりたいこと”を目標にしますから、PDCAがうまく回ります。そして、「研修やアクションプラン作成だけ行ったら、あとは本人任せ」ではなく、コーチが伴走することでどんどん成長していく。それが、私たちのエグゼクティブコーチングの特徴です。
- このような一連のプロセスを行ってはじめて、人財が活躍できると私たちは考えています。
- また、よくあるご依頼の1つが、新任役員の方が軌道に乗るまでのタイムロス削減のためのエグゼクティブコーチングです。エグゼクティブコーチがつくことで、効率的にスタートできるだけでなく、その方の強みを活かしながらパフォーマンスを発揮できるので、会社の規模に関係なく有効活用いただけています。
自分の“在り方”を考えることで、“器”が大きくなる
- ――御社のコーチングと、いわゆるコンサルティングとの違いは、どのような点ですか?
- コンサルティングでは、すでに想定されている解決方法や既存の情報を提供することが多いと思います。その際に重要なのが、「経営者ご自身が納得するかどうか」だと私たちは考えています。
コンサルティングはもちろん有用なものですが、経営者のなかには「他人の言うことは受け入れにくい」という方もいらっしゃるのも事実です。
- 私たちのコーチングでは、「こういう課題がありますよ」「こういう経営戦略がいいですよ」ということをこちらからお伝えすることはありません。「今、御社で何が起きているか」「経営課題などについて、どう捉えているのか」ということをご自身で考えていただくサポートを行います。
- そして、それに対して「どういう考え方をしたらいいか」「経営者として、どのような“在り方”が必要か」を一緒に考えていくのが、私たちのエグゼクティブコーチングです。
- ――大手企業などだけでなく、東京都や内閣府、航空大学校などの公的機関でも数多くのコーチング実績をお持ちですが、なぜ、そのような方々から選ばれているのですか。
- 企業経営や社員育成などに関する理論はさまざまあって、それらに基づいてコンサルタントの方などが経営者や従業員の方にご指導されるケースも多いと思います。
一方、私たちは理論だけではなく、先ほどもお話しした“在り方”というものをすごく大切にしています。経営者の方と常に接しながら、“人としての在り方”や“経営者としての在り方”というものをコーチングして、その方の“器”を大きくするような関わり方を重視しています。
- その理由は、「企業戦略・経営方針の浸透や組織改革などを論理的・効率的に進めようとすればするほど、“人間的な感性”が置き去りになる」と考えているからです。論理的・効率的な手法でうまくいけばよいですが、それで行き詰まっている企業様もたくさんいらっしゃいます。
- “正しいやり方”を押し付けるだけでは、モチベーションは上がりません。「論理や効率だけのやり方では、うまくいかない。これ以上の発展が見込めない」といった課題感をお持ちの経営者様や企業様が当社を選んでくださっていると感じています。
- また、私たちは“在り方”を大切にしたコーチングを行っていますから、「人を大切にしたい」「ウェルビーイングな職場づくりをしたい」「いい会社にしたい」という想いや関心をお持ちの経営者や人事担当者の方からお問い合わせいただくことも多いですね。
- ――エグゼクティブコーチの視点から見て、そのような想いや関心をお持ちの方は増えていると感じていらっしゃいますか?
- 多くなってきていますし、そのようなシフトチェンジを行っていかなければ生き残れない社会環境になっていると感じています。人手不足は深刻ですし、たとえ今は問題がなくても、20年・30年先のことを考えた場合、若い方が継続的に入社する会社でないと「気づいたら若手がいない」という状況にもなりかねません。
- 今の若い方々には、「自分の話を聞いてほしい」「自分の強みを活かしてほしい」というニーズが非常に高いと思います。そして、ただ単に「会社が儲かっていて、給料がよければいい」ということではなく、社会貢献している会社を好む傾向も見受けられます。
- 社会性の高いミッション・ビジョン・バリューを持っていて、それらが社内に浸透している企業であれば、若い方もどんどん入社して定着もするはずです。逆に、「人を大切にしなくても、儲かればいい」という企業さんは、今はよくても、長い目で見ると経営がかなり厳しくなってくると思います。
文・あつしな・るせ
写真・大井成義
- 中村 智昭(なかむら ともあき)株式会社コーチビジネス研究所
- 株式会社コーチビジネス研究所取締役。国際コーチング連盟プロフェッショナルコーチ、JEA認定エグゼクティブコーチ、産業カウンセラー。 株式会社コーチビジネス研究所で取締役として、中小企業の経営者へエグゼクティブコーチングを提供し、企業向けのコーチングを活用した管理研修の企画、設計、講師として活動。 社外コミュニティとして2019年に上司道勉強会(リーダーシップ&組織開発を学ぶ無料勉強会)を立ち上げ、2024年7月現在106回開催、メンバーは890名に達している。2024年春に「廣器会」を立ち上げ、経営者の器をひろげる取り組みを行っている。