生成AIを「パシリ」として活用する方法【スマート会議術第184回】

生成AIを「パシリ」として活用する方法【スマート会議術第184回】プロフェッショナル・マーケティングコーチ 横田 伊佐男氏

ChatGPTの登場で生成AI(以下AI)が一気に注目を浴び、さまざまなビジネスシーンで浸透し始めている。マーケティングコーチとして活躍する横田伊佐男氏は、このAIをマーケティングや会議を結びつけて体系化ができないかと考え、その概念を著書『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』にまとめた。果たしてAIは会議のあり方やビジネスシーンにどんな影響を与え、何を変えていくのだろうか。AIとの上手なつき合い方と今後の会議の未来図について語ってもらった。

目次

生成AIは会議にどんな役割を果たすのか

――昨年12月に『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』を上梓されました。どのような経緯で出されることになったのでしょうか?
昨年の春頃からChatGPTに代表されるAIが注目され、マーケティングやコピーライティングとAIについて考えるようになりました。これらを体系化して、「ダイヤモンドオンライン」(https://diamond.jp/articles/-/321528 )で執筆したところ、大きな反響があって週刊誌などでも取り上げられたりしたんですね。
そのタイミングで会議におけるAIの新しい使い方を、たまたま日経BP社さんと話をしたところ、AIを使った会議の本を出そうという話になりました。ただ、日経BP社さんとしては、AIが今後危険をはらむかもしれないという懸念もあって、タイトルでストレートにAIを謳うことに慎重になり、会議をメインのテーマにすることにしました。
いまも一部にAIに否定的な意見はありますが、会議においてAIが普及することで、長年停滞しているビジネスシーンが大きく変わっていけばという期待を込めて本を出しました。
プロフェッショナル・マーケティングコーチ 横田 伊佐男氏

AIで会議が変わる2つの理由

――AIの普及によって、会議はどのように変わっていくという期待がありますか。
大きく2つあります。

1つは議事録の作成です。これはすぐにAIに代替されていくでしょう。
議事録は新人の方がとることが多いと思いますが、慣れていないとできるだけ漏れがないように網羅的に書こうとするので、ポイントがわかりにくくなりがちです。会議のポイントを要約して言語化するのは、それなりに高度なスキルが必要になりますので、新人では上手にまとめるのが難しかったりします。
でも、AIを使えば音声をGoogleドキュメントに書き落としていったり、バランスよく整えてくれたりします。こういう仕事はどんどんAIに移っていく分野だと思います。
一方で新人は、会議のポイントが何なのかをAIから学ぶことができます。1時間もの録音されたドキュメントをAIにまとめさせると、そのプロセスを知るだけでもいい学習になると思います。
もう1つは会議の「準備」です。AIに会議のファシリテーターの議題を作ってもらうことで、中身の濃い「特濃会議」にすることができます。
たとえば、AIにこんなプロンプト(指示)を出します。
「あなたは会議ファシリテーターです。会社でパワハラやセクハラ相談が急増し、その撲滅のため、社内の課長職4人で1時間の会議をする予定です。この4人が1時間の会議で、具体的な答えが出るよう議題の末尾が疑問符となる議題をA案、B案、C案と3つ提案してください」
そうすると、下記のような議題を作成してくれます。

・A案:パワハラやセクハラの防止策として、どのような教育プログラムや啓発活動が有効か?

・B案:社内でパワハラやセクハラの相談を受ける体制を強化するために、どのようなサポートシステムを構築すべきか?

・C案:パワハラやセクハラを未然に防ぐために、社内のコミュニケーション文化をどのように改善すべきか?


※上記はChatGPTからの回答を一部修正しています。
このような議題の概要が生成されたあとに、さらに具体的に落とし込みたければ、できるだけ数字や主語を明確にしてプロンプトを入れて答えが出るように誘導します。すると議題だけでなく、「こういう切り口もあるな」といったヒントも出てきたりします。
横田伊佐男氏

ポイントの数を指定するのがコツ

たとえば「昨今の物価高について」を議題にする場合、「〜について」という議題はやめて「あなたは会議ファシリテーターです。最近の物価高問題を消費者自身が改善するための議題をA案、B案、C案と疑問文で3つ作ってください」
といった指示出しをすると、

・A案:生活費を効率的に管理するため、どのような家計簿アプリや節約テクニックが有効か?

・B案:消費者が利用できる割引サービスはどのようなものがあるか?

・C案:代替品やローコストの選択肢を見つけるため、どのような情報収集が効果的か?


※上記はChatGPTからの回答を一部修正しています。
といった議題が生成されます。
「〜について」から疑問文に変換することで、自分で考えるのが難しいような議題をAIがいくつか提案してくれます。そこから取捨選択しながら最適解に絞り込んでいくことができるのです。
要約してポイントをきちんと抽出するためには、たとえば「ここまでの議論を大きく5つに分けて要約してください」とか、プロンプトに数字を入れると、AIが探しやすいので、ポイントの数を指定するといいと思います。
昔、日本軍の参謀で伊藤忠商事グループの顧問を務めていた瀬島龍三氏は、「報告は必ず3つにまとめろ」とか「1枚にまとめろ」ということを決めていたそうですが、こういう作業はAIのほうが得意です。数字を入れてブロックに数字を入れて指示をするだけで、結構クリアなものがまとまってきます。
画像『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』より抜粋
横田伊佐男氏

上手な議題の作り方

――会議をするにあたって議題を準備することは比較的浸透していると思いますが、議題作りにおいて特に注意しておくことはありますか?
会議の論点を決めるのが議題ですが、「制約」から逆算した議題作りができていないように思います。
たとえば、60分の会議で5つの議題があったとしても、時間が足りなくなって結局1つだけで終わってしまうようなケースですね。60分の制約の中でどうしても5つやりたいのであれば、優先的にやりたい議題を30分にして最大で2つにするという判断をするとか。
この時間内にこのメンバーで結論が出せるのかを逆算した議題選びがあまりされていません。議題通りにいかないで消化不良に終わるケースが結構多いのです。
とりあえず箇条書きでメニューを出したものの、出した料理が時間内に全員が残さず食べられるのか、多すぎやしないか、足りなくないか。そんなことを考えて議題を準備するファシリテーターは、まだまだ少ないと思います。
議題を定めるのであれば、制約を先に考えて時間配分をして運営していくことが必要です。
実際に会議が始まったら、みんなが見えるところにストップウォッチを置いたり、時間が来たらピピッと鳴らしたりと、最初から制限を設けると参加メンバー全員が自分ゴト化できるでしょう。タイムアップの音を流していくことは非常に効果的だと思います。
横田伊佐男氏

AIを上手に使いこなす方法

――社内用にAIを整備している企業も増えていると思いますが、積極的に使う人、まったく使わない人に二極化してしまうことも多いと聞きます。社内や組織内で全員が上手にAIを活用するコツはありますか?
まずは責任者が必ず全員に使うように励行し、会議を始める前に毎回、「議題をAIに聞いて疑問符にしてみてください」と依頼して募集してみるのもいいですね。
AIと触れ合った全員の議題を集めることを習慣づけて、どういうプロンプトを入れたら、どんな答えが出てきたのかを共有して、お互いのプロンプトをほめ合うような文化にしてみるとか。
今日の飲み会の場所をどこにするか、といった仕事以外のことを決める際にも、AIを利用して意外な素敵なお店が生成されたら、モチベーションも上がりますよね。どんなプロンプトを入れたらAIがどんなお店を選んでくれるのかなど、まずはAIにどのように質問したらどう答えを返してくれるのかを実感してもらうのが大切だと思います。
僕自身、たとえば「国際競争マーケティング」をテーマに講演依頼を受けて、1時間で話をしなきゃいけないとき、それを「1時間で◯◯の参加者、鮮烈な印象を残すための3つのプログラムを考えてくれ」とプロンプトを入れて講演内容を作成してもらったりします。AIを使うことで、自分でゼロから考える手間と時間がかなり省かれます。
あとはコピーやドキュメントを作るときや、切れのいい言葉を作るときに、たたき台を作ってもらって、それをベースに言葉のキャッチボールをしながら絞り込んでさらに磨いていくこともあります。
丸投げをして一発回答をもらうより、まずは自分で考えて最後の一手を決めてもらうための相談相手にすると、わりと使い勝手がいいですよ。
AIから1つの答えを出してもらうというより、いくつも出させて、AIが出してきた案から選ぶのがコツです。AIは何でも知っている神様ではありません。文句を言わすに何でも言うことを聞いてくれるパシリとして使うことをおすすめします(笑)。
今後のビジネスにおいては、AIを「パシリ」として使える人と、そうでない人と雲泥の差が出てきますよ、間違いなく。
『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』

文・鈴木涼太
写真・大井成義

横田 伊佐男(よこた いさお)CRMダイレクト株式会社
プロフェッショナル・マーケティングコーチ。横浜国立大学客員講師、早稲田大学オープンカレッジ講師、日経ビジネス課長塾講師。横浜国立大学大学院博士課程前期経営学(MBA)修了及び同大学院統合的海洋管理学修了。外資系金融機関を経て、2008年に独立。人が動く戦略は「紙1枚」にまとまっているという法則を発見し、マーケティングのオリジナル教育メソッドを体系化。主な著書に『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』『ムダゼロ会議術』(共に日経BP社)、『最強のコピーライティングバイブル』(ダイヤモンド社) 、『一流の人はなぜ、A3ノートを使うのか?』(学研パブリッシング)など多数。

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