数多くの企業でマーケティングコーチとして活躍する横田伊佐男氏。これまで数千の会議に参加、講師やファシリテーターなどを担当し、「会議術」のプロとして高い評価を得る。そんな横田氏が、昨年2023年末に新著『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』を上梓。今回は本書の2大テーマである、「ファシリテーターがやってはいけない4つのダメ!」と「会議を成功に導く9つのステップ」の主旨についてお話を伺った。
CRMダイレクト株式会社 代表取締役社長 横田 伊佐男 氏
目次
議題の末尾は「?」に
『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』より抜粋
- ――新著『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』では、「ファシリテーターがしてはいけない4つのダメ!」と「会議を成功に導く9つのステップ」が大きなテーマになっていますが、まず「4つのダメ!」について要旨をお教えいただけますか。
- 1つ目は「ファシリテーターは主役になってはダメ!」です。
- 会議の議長やファシリテーターは責任感が強くなるあまり、とにかく自分がどんどん話をしてしまいがちです。しかし、ファシリテーターが主体的に発言をしてしまうと、参加者が傍観者になってしまいます。また、だらだらと長くなるとポイントがつかめず、なかなか頭に入ってこなかったりします。
- ファシリテーターはむしろ脇役になって、「耳」を使ってみんなの意見を引き出すことが本来の責務です。だからファシリテーターは、主役になった気分で自分がおしゃべりになっていてはダメ!ということを1つ目に掲げています。
- 2つ目の「議題は『〜について』ではダメ!」は、「〜について」という議題にするとテーマが大きすぎるため、答えを出そうという意思が議題に込められなくなります。会議は基本的にみんなが集まって1つの「答え」を出すのが目的です。だから、議題は「答え」を出すための「問い」でなければいけないのです。
- 「〜について」という議題にするのは簡単ではありますが、まず「答えを導く議題」にしなければ意味がありません。
- ――議題はすべて疑問文にすればよいということでしょうか。
- どんな会議でも疑問文にして大丈夫です。
- 会議には大きく分けて「決定会議」「創造会議」「共有会議」の3つの会議があります。中でも共有会議の議題に末尾に疑問符をつけるのは難しいですが、定例の共有会議での議題が「〜について」になると、単なる1週間、1ヶ月の行動を朗読するだけになってしまう。
- たとえば、「この1ヶ月でリスクになりそうな案件は何か?」「成功した要因は何か?」「ボトルネックになりそうなことは何か?」といったように、末尾に疑問符をつけた議題にするだけで、共有会議も朗読にならずに特記事項だけが浮かび上がってくる効果があります。
- 朗読会になると、時間が長くなる弊害はもちろん、会議をしたことで結局何が進んだのかがわからないまま終わってしまいます。
- いくつか特記事項だけを浮かび上がらせて、その対策を考えようとすれば、時間も短く、ぐっと引き締まった共有会議になってくると思います。
- ――働き方改革が施行されて以来、労働生産性向上の意識は高まっていると思いますが、会議の効率化は進んでいるのでしょうか。
- 残念ながらあまり変わってないと思います。いまはそれがリモートになって、大企業のほとんどがモニターの画面を真っ暗にして耳だけを使う「ブラック会議」にするのが標準になってしまっています。見えないからベッドに寝転んでいるかもしれないし、他の作業をしているかもしれない。それでは集中力も出ないし、かといって画面に映ったまま朗読に1時間も2時間もつき合うのもきつい。どちらもメリットがないし、厳しいですね。
ブラック会議の弊害
- ――テレワークを機に仕事が効率化しているとは言いがたいですか。
- 3つ目は「耳と目を使え。口は使ってはダメ!」です。ブラック会議になると、しゃべるだけで目が一番奪われます。目が奪われて、耳だけで聞いて、どんな表情をしているのかわからない。それゆえに、朗読がますます続くという悪循環になっています。
- ファシリテーターはどうしても「口」を使って上手に話すことに重きを置いてしまいます。オンラインに限らず、リアルでも耳を使って意見を引き出し、目を使ってホワイトボードや付箋などで可視化・構造化をしていきます。頭の中に絵を描かせることが非常に重要だと思います。
- 私が主催するキャンプに来られた友人で、ビールを飲みながら、2時間ぐらいブラック会議を続けていた大手企業の部長さんがいました。彼はタバコを吸いながら適当にご飯を食べながらビール飲みながら、とすべて「ながら」でブラック会議に参加しているわけです。それが楽でいいんだよっていう人も確かにいますが、生産性が上がるはずもありません。
- また、表情や声色からわかるような心の動きなどは見失ってしまうのではないかと懸念しています。
- オンラインでもリアルな対面に近いコミュニケーションはできるのに、わざわざそれを活かさないで、「オンラインはコミュニケーションが難しい」となってしまうのが非常にもったいないですね。
- 私は大企業から中小企業、起業家までさまざまなビジネスパーソンにマーケティングスキルを教えていますが、オンラインで講義をすると個人事業主や中小企業の方は、生きるためのヒントを必死になって探しているのが伝わります。私が話すことはもちろん、オンラインコミュニティが温かいのか冷たいのか、面白いのか面白くないのかといった雰囲気も視覚から得ようとします。
- 視覚から貪欲に情報を得ようとする起業家と、企業に守られてブラック会議が当たり前になっている人とは両極端になっていますね。
- 4つ目の「最後をゆるめてはダメ!」は、会議の最後は疲れてエネルギーが残っていない時間帯なので、うやむやに終わってしまいがちになるので、気をゆるめるな、ということです。だからこそ、ゆるめないで最後に残るエネルギーを絞り出して、「決まったことはこれでいいですよね!」「これが決まらなかったことですよね!」といったことをはっきりさせる必要があります。
- 決まったこと、決まらなかったことを、言語化しておくことが大事です。途中でも時間が来たからといって、うやむやのままゆるめてしまうと何の意味もなくなってしまいます。
- 少し難易度は高いですが、会議の終わりに必ず全員で、結論のキャッチコピーを作るといったルールを決めてもいいと思います。終了時間の10秒前に「時間です!」と中途半端に終わるより、5分前に「決まったことを言語化しましょう」と緊張感の中、みんなからキャッチコピーを集めるほうが有益です。
ファシリテーターがやるべき「9つのステップ」
- ――もう1つのテーマである「9つのステップ」の要旨についてお教えください。
- 「9つのステップ」は、まず大きく「準備」「実践」「行動」の3つのステージに分けられます。
『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』より抜粋
- ファシリテーションをする前の「準備」、主にファシリテーションをする会議の最中の「実践」。そして、最後に会議を受けて何をするかという「行動」につなげていきます。この3つのステージをそれぞれ3ステップに分類して全部で9つのステップになります。
- 準備 [決める][知る][振る]
- まず「準備」として、[決める][知る][振る]の3つを掲げています。
- 論点を決めて、議題は疑問文にするのが[決める]です。何を話し合うかをよく考えて決めていかないとまったく意味がなくなってしまうのが1つ。
- 会議の時間が延びてしまったり、中身が薄くなってしまったりするのは、ファシリテーターに責任があります。ファシリテーターとして人から預かる時間を延長してしまうことがどれだけのコストがかかるのかを[知る]ことが大切です。
- どれくらいの時間とお金を預かっているかという自覚を持って、延長したら延長料金が発生するつもりで制約を設けておくことが[知る]になります。
- そして、自分だけがいっぱいいっぱいになって会議の中身が薄くなったり、集中力がなくなったりしては本末転倒です。すべて一人でやろうとせずに、タイムキーパーや議事録は他の人に[振る]ように心がけます。
- 役割分担を明確にすることで、実のあるものになっていきます。この3つの「準備」をしっかりするだけで、会議は大きく変わっていきます。
- 何の準備もしないでいきなり会議を始めてしまう人は多いですが、まず決めた時間でどこをゴールにするのかを頭に描いていかなければなりません。そのゴールに向かうやり方として、序盤・中盤・終盤をどのように進めていくかを描いていくことが重要です。
- 実践 [描く][見せる][聞く]
- 会議が始まったら、誰かの発言は口頭でやっていくとどんどん上書きされて、前の発言がわからなくなってしまいます。必ず発言記録をしてみんなが見えるように[描く]。「先ほどの意見はここと対立していますね」というように過程と構造を見える化することで、議論が発生したり、争点が明らかになっていきます。
- 会議室のホワイトボードを使ったり、オンラインではチャットを使ったり、パワーポイントなどで随時[見せる]。リアルもオンラインもまったく同じで、違いはありません。
- 自分が話すより[聞く]。聞いたことから議論を広げて見える化して、最後に絞って言語化します。これが会議中に「実践」する3つのポイントです。
- 行動 [短く][まとめる][早く]
- 終盤は「行動」につなげるために、結論を[短く]言語化します。それをその場で写真に撮ったり、AIを使って議事録を1枚に[まとめる]。まとめたものはできるだけ[早く]作成をして、会議が終わってから1時間以内にはみんなに共有をします。
改善の提案は「べき論」を避ける
- ――会議がだらだらになる原因が年配の上司だったりすると、ファシリテーターが一人でがんばってもなかなか解決するのは難しいと思います。このような場合はどうやって改善していけばよいのでしょうか。
- たしかに若い人が一人で率先して上司に提言していくのは難しいですよね。「特濃会議」にするためには、参加メンバー全員の協力が必要です。「時間が長い」「中身が薄い」「発言がない」といった問題に対して、いきなり「時間を短くすべきだ」といった「べき論」は避けたほうがよいでしょう。
- 「いやそれ違います」「そういうやり方じゃダメですよ」とはなかなか言えないし、角も立つでしょう。上司に直言したり、いままでのやり方を全否定するのではなく、「◯◯を解決するにはこうしたらどうでしょうか」と、参加メンバー全員に向けて問題解決のために新しいやり方を試してみたいという言い方をしたりすれば、あまり角を立てないでできるのではないでしょうか。
- 若い世代が積極的に提案することに怒る上司はいないでしょう。上司もこれが会議のやり方だと確固たるものを持っているわけではないし、長い会議を望む人もほとんどいないですからね。
- そういう代案を出し続けることで、少しずつ変わっていくのではないかと思います。会議が短く濃厚になるのであれば若手にファシリテーターをやらせてみようと、徐々に変わっていきますね。
文・鈴木涼太
- 横田 伊佐男(よこた いさお)CRMダイレクト株式会社
- プロフェッショナル・マーケティングコーチ。横浜国立大学客員講師、早稲田大学オープンカレッジ講師、日経ビジネス課長塾講師。横浜国立大学大学院博士課程前期経営学(MBA)修了及び同大学院統合的海洋管理学修了。外資系金融機関を経て、2008年に独立。人が動く戦略は「紙1枚」にまとまっているという法則を発見し、マーケティングのオリジナル教育メソッドを体系化。主な著書に『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』『ムダゼロ会議術』(共に日経BP社)、『最強のコピーライティングバイブル』(ダイヤモンド社) 、『一流の人はなぜ、A3ノートを使うのか?』(学研パブリッシング)など多数。