良い会議は「次」が見えている【スマート会議術第175回】

良い会議は「次」が見えている【スマート会議術第175回】F6 Design株式会社 代表取締役 山本大平氏

山本大平氏は異色の経歴の持ち主だ。新卒でトヨタ自動車に入社し、新車開発のエンジニアとして長年勤めた後、テレビ局のTBS、そして経営コンサルティング企業のアクセンチュアに転職。現在は独立して経営コンサルタントとして活躍する。

一見、脈略のない転職歴に見えるが、山本氏はすべては人との出会いを大切にしてきた結果、たまたま現在の仕事に至っていると言う。山本氏にとってそれは一貫した人生哲学にあった。それは学生時代にバイクで交通事故を起こして生死をさまよった体験だ。与えられた命を大切にし、限られた時間をムダにしたくないという強い思いがあるのだ。

山本氏の著書『トヨタの会議は30分』は、会議の効率化に留まらず、彼の人生哲学を綴った渾身の一冊と言ってもいい。本書はビジネス書であると同時に、人とのコミュニケーションのあり方、そして限られた時間をいかに大切に使うかを徹底的に考えた人生の指南書である。

改めて“生きる”という原点に立ち返って、コミュニケーションのあり方、時間管理の仕方など、山本氏のビジネスに対する考え方を伺った。

目次

会議を「30分」にする意味

――著書『トヨタの会議は30分』のタイトルにある「30分」には、どんな意味が込められているのでしょうか。
まず、「本当に30分でできるの?」という点では、できるというか、トヨタではできていました。ただし注釈は必要で、だいたいの会議はたぶん30分で終わるはずなのですが、必ずしもそうではない会議も当然あると思います。ここで言いたかった本質は、30分という時間の単位ではなくて、「なるべく短くするように工夫していますか?」ということです。「工夫するのはなぜ?」という疑問を大事にしています。「時間を大切にするのはなぜ?」という意識がある会社は伸びていますし、意識のない会社はその逆となることが多いですね。それが一番言いたいことです。当たり前のことなんですけど(笑)
伸びる会社ほど「時間をなぜ大切にするか」という、その会社なりの答えを持っています。たとえば、僕が最初にいたトヨタでは、時間の考え方は機織りの話から来ていて、少しでも作業者を楽にするためにはどうすればいいのかという考え方から入っていると聞きました。単に効率を良くしたらコストカットができて利益が生まれるということではないはずだったんです。つまり安易にお金のことが第一優先ではなかった。そこには「世の中のために」というマインドセットがあります。コンサルになって多くの会社と関わらせて頂いて総じて言えることは、伸びている会社には、生産性の高さがなぜ必要かまで答えられる会社が多いと思います。
――10分であろうが1時間であろうが、その中でちゃんと考えられた必要な時間をつくっているかということですね。
おっしゃるとおりです。本質的にいらない会議もいっぱいある。だから会議は必要なければ0分でもいい(笑)。
会議軸でいうと、まずは「何のための会議か」が明確になっていない会議は、無意味だと思っています。定例会議でも、直前にアジェンダを決める定例であれば、それはもう「定例」ではありません。「定例」という時間をつくって、「今回は何を話そうか」と決めているだけ。そうであれば、たぶん話さなくていい日もつくれるはず。無理やりアジェンダをつくる会議になってしまったら、時間がもったいないです。
――山本さんの時間を大切にする意識は、ご自身が学生時代に交通事故で生死をさまよったことと関係があるのですか。それともトヨタに入ったときに学んだのですか。
おっしゃるとおりで、まず時間を大切に生きたいという死生観はありました。でもいまの質問の本質でいうと、たしかにトヨタで学んだこともあったと思います。具体的な例としては、入社何年目かはタラタラ仕事をしていた時期もあったんですね(笑)。僕は結構叱られがちな社員で、「お前、会議になにタラタラ1時間使っとんねん!」って室長から叱られたこともありました。「トヨタの会議は基本的に30分なんや」と。彼は「時間を大切に考えろよ」ということを言いたかったのだと思います。もともとあった死生観に加えて、トヨタでダメ押しで言われたのは脳裏に焼きついていますね。

会社のカルチャーに迎合しすぎる必要はない

――ムダな会議をしないためには何を一番心がければいいですか。
会議を効率的にまとめるためにはまず準備が必須ですが、個人レベルでできる準備はたくさんあります。先ほど言った「何のための会議か」をしっかり握る必要があります。アジェンダがふわふわしていたら、準備をすることも当然変わってしまうので、確定していない要素が多いのであれば、会議に呼ばれた側は能動的に確認します。
「明日、何時何分に会議室に来てください」ということが、日本の会社では結構多い。会議に出ても何も用意していないので、「今日の会議は何を話そうか?」から始まってタラタラ続く。だから、まずは準備をする。主宰する側も受ける側も、アジェンダを解像度高くした状態でちゃんと握りましょうということです。
主催者側が何も用意していなかったら、「それは何のためにやるのですか?」と事前に確認しておけばいいですし、これが個人でもやれることだと思います。会議に出て、お互いに立場や部署、役割などがあると思いますので、「うちにはこういうことが求められているんだろうな」と考え、能動的に「こういう回答を持ってきました」という用意が必要だと思います。
それで会議をしてみて、最後は「次回は何をやるんだろう?」ということも、主催者側だけが握らずに、参加する側も「これをやるということいいですよね」「これやってきますね」「こんなのもありますけど、やってきていいですか」って働きかけておけば、30分で話し合わなきゃいけない内容は整います。
――主催者や上司にあれこれツッコミを入れるのは、角も立ちそうでなかなか難しそうな気もします。
そうですね。事前に人間関係が構築できているかどうかという要素は必要になると思います。会議の準備は人間関係の構築から始まっていると思ったほうがいいでしょう。人間関係の構築もできていないのに、魔法の杖みたいに「会議は30分」なんてできるわけがないです。普段からどこかで空いた時間を使ってコミュニケーションをしていないと無理ですよね。会議をシステマチックにやるのであれば、それ以外のところでも人間としてのつき合いは要ると思います。
――「仕事ができる・できない」の価値基準はいろいろあると思いますが、社内コミュニケーション力も仕事ができる要素の1つではないでしょうか。
おっしゃるとおりです。会議においても、個人レベルでできる生産性アップの部分と、組織や会社としてのカルチャー的な部分は別だと思っています。ただ、個人が会社のカルチャーに迎合しすぎる必要はないと思います。日本は会社に迎合しすぎることでどんどんダメになっている。「なんで?」という疑問すら言えない人が増えていくのはあまり良くない。ある程度、自分もリスクをとりながら仕事をするものだというマインドセットを個々人が持つことも必要です。
――特に上司と部下の間のコミュニケーションはみんなが一番悩むところだと思います。
そうですね。特にテレワークになったらコミュニケーションがおろそかになりがちなので、チャットやオンラインによって要らぬ誤解を招いくことも増えてきてしまう。「いや、違うんです」といった火消しもしなきゃいけない。そうなってくると、コミュニケーションに余計なムダな時間を使うことになってしまうのではないかなと思います。
――テレワークでは効率化しているように見えて、コミュニケーションという点において長期的に見ると逆に効率が悪くなることもありそうですね。
そうです。大局で見るとすごく効率が悪いと思います。会ったこともない人と忖度なくボンボン議論しても、土台の人間関係がこじれてダメになったら元も子もない。そうならないためにも、その前から関係性を強化する準備は能動的にやったほういいと思います。

会議は「口(話す)2耳8(聞く)」のスタンス

――会議中のコミュニケーションを上手にとるポイントはありますか。
早く終わる会議、ちゃんと決めないといけないことが決まっている会議を見ていくと、傾向的に「口(話す)2耳8(聞く)」のスタンスでやられている会議が多いです。あとはその場で必ず「次に何をやるか」を決めます。誰が、いつ、何を、いつまでにして、次回は何を確認し合うかということが決めます。
つまり会議を問題解決の場として運営しているケースが多い。いい会議はそこで「どうしていこうか」というよりも、情報を宿題として持ち寄って、次回ここで集まって、そこで最適解をその場で決めて、次また会議しましょうという設定が多いですね。わざわざ集まらないとできないことをやる場が「会議」といいますか。
――著書では「会議中のメモは不要」というお話をされていますが、最近は会議中にノートパソコン持ち込んで下を向いてキーボード叩いている光景が当たり前になっています。
その理由には2つあります。最近に限らないのですが、1つは意味のないメモが多いこと。もう1つはポージングです。聞いていますよ的な(笑)。僕が経験してきたどの会社でもこれが多いです。メモを必死にとって発言もないとなると、その場の生産性はゼロですよね。
あえて「メモの定義」をすると、たとえば、2億3567万という数字を言われたときには覚えきれないからメモをとる必要がある。そういう大事な数字はメモをとる必要があると思います。
とはいえ、パソコンがなかった時代でもやっていたように、みんなで板書を書いていくことには意味があると思っています。海外のベンチャーではよく立って会議をして、ホワイトボードや壁にみんなで書いていくスタイルが多いですね。テレワークになったとしても、Googleのスプレッドシートなどを使って、みんなで板書の代わりに書き込んでいくやり方ですね。これはメモじゃなく個人の脳味噌の見える化なので、意味があることだと思います。
僕が言いたかったメモというのは「逃げのメモ」です。あたかも会議に参加してますよ的な。あと逃げじゃないけどメモをとることが常用化している人がいたとします。この場合に何がもったいないかというと、相手の表情を見てないから、表情の情報量を自分でシャットしていることになるので、情報をとり損ねているんです。
相手の表情を見ていないと発言の真意がよめないことが多々あると思っています。口角の数ミリの動きで、この人は本音でその言葉を使っているのか、建前で使っているのか、顔を見ればわかることってよくありますよね。普段の日常で、僕らは人間としてその能力を使えるのに、下を向いた瞬間に自分で情報をカットしちゃうわけですよね。もったいないです。
――相手を見ないで話していたら、そもそも相手に失礼じゃないの?と思ったりします。
おっしゃるとおりです。一方がパソコンをカタカタしちゃったら、しゃべっているほうも「あれ、この人、聞いているのかな?」って要らぬ推測をしてしまいます。相手も表情という情報がとれないわけですから。あと「メモをとらなくても大事なことは記憶できませんか?」という単純な疑問もあります。たとえば合コンに参加して、相手のことをもっと知りたいと思ってコミュニケーションをとろうと必死になっているときに、「大切なことだから」といちいちメモをとる人はいないですよね(笑)。

文・鈴木涼太

山本 大平(やまもと だいへい)F6 Design株式会社
F6 Design株式会社代表取締役、戦略コンサルタント/事業プロデューサー。2004年新卒でトヨタ自動車に入社し長らく新型車の開発業務に携わる。トヨタ全グループで開催される多変量解析の大会では優勝経験を持つ。トヨタ自動車在籍時には常務役員表彰、副社長表彰を受賞。その後アクセンチュアでのマネージャー経験などを経て、2018年にマーケティング総合支援会社F6 Design株式会社を設立。トヨタ式問題解決手法をさらにカイゼンし、統計学を駆使したオリジナルのマーケティングメソッドを開発。企業/事業の新規プロデュースとブランディング及びデジタル化におけるコンサルティングを得意領域としている。また現在は、大手企業から中小企業まで幅広く戦略顧問やCXO、及び新規事業のプロデューサーといった要職も多数兼任。著書に『トヨタの会議は30分』がある。

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