会議改革とは、やめる会議を決めること【スマート会議術第163回】

会議改革とは、やめる会議を決めること【スマート会議術第163回】株式会社クロスリバー代表取締役社長 CEO 越川慎司氏

コロナ禍がピークに差し掛かった昨年12月、『超・会議術~テレワーク時代の新しい働き方』を上梓したクロスリバー代表取締役の越川慎司氏。同書では734社、16万人の働き方改革を支援する中から生まれた会議の時短テクニックを公開。多くの企業が陥りがちな“働かせ改革”に対する問題提起とノウハウを紹介する。

企業の利益を向上させ、社員の働きがいを向上させる「真の働き方改革」を実現するには何が足りなくて、何をすべきなのか。

自ら「真の働き方改革」を実践し、現在、週休3日で企業の働き方改革やテレワークの定着支援をしている越川氏に、テレワーク時代の会議術、ひいては働き方改革の本質についてお話を伺った。

目次

会議の進め方が変わる2つの理由

――著書『超・会議術~テレワーク時代の新しい働き方』によると、全体の仕事の中で会議の占める割合が43%ということですが、この結果にはどういう印象を受けましたか。
まったく驚きはないです。いきなり知らないお客さんに声をかけているわけではなく、これまで4年強の中で734社の企業を支援していて、短い時間でより多くの成果を出すためにはどういうビジネス、どういう働き方をすればいいのかというところからコンサルティングに入らせていただいています。
その中で労働時間を削減するだけだと、売り上げとモチベーションが下がってしまうので、ムダな時間を取り除いて、未来に必要な「利益を生む仕事」に時間の再配置をしています。その中で何に時間がかかるかをITツール、AI、アンケートなどを通じてヒアリングして、だいたい4割ぐらいじゃないかなって想定していました。支援したクライアントは大企業比率が高いので、そういった意味で43%は想定内です。
――大企業になるほど会議が多く、時間も長くなる理由は何ですか。
社内会議が増えてしまう理由は2つです。1つは実務者と決定者が異なり離れていること。大企業になればなるほど組織階層が深くなるので、実務者と意思決定者がどんどん離れてしまい、結果的に「会議のための会議のための会議のための会議」が出てきてしまうのが実情だと思います。合議で意思決定するのですり合わせの社内会議が増えがち。階層が多い大企業は会議時間も増えるというのが1つめの理由です。
2つめの理由は「決めない会議」が多いことです。そもそも会議はスピード感をもってより多くの決定をたくさんするというのが唯一のアウトプットです。しかし大勢集まっているのに決定をしないのであれば、椅子に座ることが目的であるのと一緒です。偉い人が出席しても決めなければ、現場の調整やすり合わせが必要になってしまう。
――「決めない会議」がムダなことはみんな気づいていると思うのですが、なぜそのような会議はなくならないのですか。
それはずばり「心理的安全性」がないからですね。何を話しても安全だという心理状態がない組織は、あるチームに比べて会議が37%増えました。資料作成の時間も24%増えました。過剰な気遣いのある組織は、残念ながら対面して空気をつくることが重要だ、顔なじみになることが重要だというところから関係を構築していくので、そういった企業はやはりテレワークには移行できないですね。目の前にメンバーがいて仲良くなっていく企業文化ですから。
あえて皮肉で言うと、ムダな会議をやっていない会社はないです。もちろん自分たちがムダだと思って会議をやっている人はほぼゼロです。100ページの書類をみんなで読み合わせるような会議も、主催者はムダだと思っていない。主催者に「ムダな会議はありますか?」と聞いても、皆さんが「ムダな会議はない」とおっしゃいます。でも、どの企業でもムダな会議は存在します。主観で見るとムダかどうかはわからないので、振り返ったり客観的な目が入ったりするからこそ、ムダだというのがわかるのです。
また、人を集めることが目的の会議をやっていても余裕のある会社では会議改革が進みません。ムダなものがあっても生きていける、クビにならない。そういう企業はやめるきっかけがないので、ムダな会議をやめることはありません。
だからこそムダを見える化するために弊社では数字にこだわっています。「ムダな会議がありますよね?」と聞くよりも、たとえば「ムダな会議をやっている企業は508社中で489社ありました」「そのうち情報共有が49%でした」と意思決定者、特に上位管理職の方に伝えます。
会議のフレームワークをつくる上位管理職の方は、各社とも抵抗勢力になりがちなので、その人たちを動かすためにはAからBの変化を数字で説明するしかない。それが著書『超・会議術~テレワーク時代の新しい働き方』を書くきっかけでもありました。同書が抵抗勢力を動かす1つの材料にもなっていて、この本をベースに現時点で83社と会議改革を進めています。
――客観的な数字を突きつけられたときの企業はどんな反応を示しますか。驚きなのか、「いや、わかってはいるけど…」みたいなのか。
「わかってはいるけど…」だと思います。薄々ムダなんじゃないかなとわかっていると思います。それを数字で出すことによって白黒をはっきりさせる。情報の力は理解させることではなく行動させることなので、相手を動かすデータ、エビデンス、ファクトはすごく重要だと理解しています。ただ「べき論」を言っても、やっぱり皆さん動かない。ビフォー・アフターの変化を数字で表現すると人を動かしやすくなることは、すごく実感しています。
――実際そういう課題を与えられて、変わっていかなきゃいけないとなったときに、スムーズに変わっていける企業と、なかなか変わっていけない企業の違いはどこにありますか。
これまで700社超に関わってきましたが、成功しやすい会社と、そうではない会社は二極化しています。会議改革がしにくい会社の共通点はまず「創業してから長い企業」です。成功体験をたくさん持っているので変わろうとしないという意識の問題です。もう1つは「大企業」です。従業員数1000名以上を超えるところは改革が難しいです。会議改革をしなくても大丈夫だと思っています。このまま定年まで逃げ切れると思っている社員もいます。だから従業員数1000名以上という企業、創業50年や100年続くような企業は、相対的には改革が難しいです。

会議改革に必要な3つの能力

――クレイトン・M・クリステンセン著の『イノベーションのジレンマ』で指摘されているように、伝統や歴史があって実績もある大企業ほど、イノベーションを起こしづらいという現実があります。やはり払う代償が大きいと会議でもイノベーションは起こせないのでしょうか。
『イノベーションのジレンマ』でも言っていますが、生き残るのは変化に対応できる企業です。変化の対応力を持っているかどうかに尽きると思います。ただ、その対応力を身につけるためには、世の中の変化を感じ取る必要があります。得てして経営が傾いてしまったり、売上げに苦しんでいたりする中小企業のほうが、世の中の変化を見ざるを得ないですから、変化に敏感に対応していこうというマインドが醸成されやすいですね。
成功企業はイノベーションを1回起こすと、次のイノベーションを起こしにくい。成功体験があるので変化を見ようとしないんですね。これで何とか20~30年やっていけるだろうと思ってしまうので、そういった企業はそもそも変化を見てくれない。
――気づかないままじわじわと危険水域に浸っていく企業も多いのでしょうね。
そうですね。ただ今回、調査と実行支援をやってみて唯一予想外だったのは、大手企業ほどガラッと変わることがわかったんですよ。こだわりがあったり、抵抗勢力も根強い企業でやっていたりするので、変えるのは難しいと思っていたのですが、年配の抵抗勢力の方々は成功体験ある一方で愛社精神もものすごく強いんですよ。
そういった企業はいまのやり方ではまずいと思っていて、なんとか変わらなきゃいけないというのは、ふつふつと持っていた。そこでコロナ禍によって自分たちがぬるま湯に浸かっていたと理解して、新たなやり方を探そうとされていた大手企業の方はこの1年間本当に多かったです。
そういった企業に、心理的安全性を確保すれば会議時間が30%減りますとか、冒頭に2分間の雑談を入れると会議が時間内に終わる確率が45%高くなるとか、そういう材料を数字で説明すると行動に移してくれる組織が大企業ほど多いんです。ベンチャーでもできないくらいの大きな刷新をボトムアップでできたという意味では、大手企業だから難しいということではないと思います。
――多少のムダがあっても潰れないという大企業に、良くも悪くもコロナ禍で危機感を抱かせたということですか。
そうですね。行動が変わるためには方程式があります。会議改革にしても行動を変えるのは、3つの要素が組み合わさったときです。1つが「きっかけ」で、この1年で言えばコロナ禍が非常に大きかった。その前だと働き方改革関連法案が結構大きなきっかけでした。
2つめは「能力」。これにはスキルだけでなく時間も含まれます。皆さん忙しく日々時間に追われているので、新たなことをしようという気にならないんですね。先に時間の余裕をつくってから会議改革をするのがポイントです。
3つめは「動機づけ」です。特に内発的動機づけ。自分にとってメリットがあると感じさせられるかどうか。この「動機づけ」を持たせることと、「きっかけ」を持つことと、「能力=時間」を持つこと。この3つがうまく重なったときは行動を変えてくれます。
――その3つの条件を満たすにあたって、会社組織の規模は関係ありますか。
「動機づけ」と「能力」は大きいかなと思います。中小企業は人手不足ですので、わざわざ時間をとって会議改革をやるかというと、なかなか人手を出せないところが多い。
大手企業はむしろ人余りのところもありますので、時間と人は十分に持っています。ただ、大手企業には会議のための会議をしたり、手間暇かけてパワーポイントをつくってしまったりと、ムダなことに時間を使うことがありますので、そのへんも気づいていただければ改革は進みます。ただ、大手企業はちょっと危機感が薄い方々も多いですし、中小の方は生き残るために日々切磋琢磨されていますので、安定志向があるという意味では、大手企業のほうが業務改善をしようとしません。
――会社によって個々の社員の能力を測る指標は違ってくると思いますが、「優秀な人」を定義する普遍的な基準はあるのでしょうか。
各社で優秀な人の定義はバラバラではあるのですが、根っこでつながっているのは「稼ぐ能力」です。その人が会社に入ったことによって利益がどのぐらい上がるかに尽きます。その手段として次に出てくるのが「課題解決能力」です。社内の課題解決できる人、もしくは社外のお客様の課題解決できる人、特にお客様の課題解決ができる人は市場価値が非常に高いので、自ずと評価も給料も上がっていくという状態です。
「稼ぐ能力」と「課題解決能力」を持っている人たちは大手企業にも中小企業にもいらっしゃいます。ただ、頭数でいうと、やっぱり大手企業のほうが多いですが、一方で大手企業は個の力に頼りがちですので、1+1を3にしようという考え方を持つ人は少ないので、チームワークをつくりづらいんです。ベンチャーや中小企業というのは、ひとりで課題解決はできないと割り切っていますので、1+1を3、2+2を5にするように協働体制をつくっていくというのが特徴です。

イノベーションのジレンマ*
「世界で最も影響力のある経営思想家」として、2回連続1位となったクレイトン・M・クリステンセン教授による著書。業界を支配する巨大企業が、その優れた企業戦略ゆえに滅んでいくジレンマの図式を分析し、既存事業を衰退させる可能性を持つ破壊的イノベーションに対して、経営者はどう対処すべきかを解説する。

対面のほうが優れている会議

――会議には大きく情報共有、意思決定、企画立案の3種類がありますが、御社の調査では情報共有の会議が65%と、かなり多いのが驚きでした。いま基本的に情報共有はビジネスチャットにシフトしている流れもあると思ったのですが、それほど進んでいないのですか。
ビジネスチャットはかなり普及が進んでいて、弊社の調査では62%まで上がっています。これは1年前に比べると2.5倍ぐらいですので相当な勢いでチャットは進んではいます。でも逆に言うと4割弱のお客様はまだメールですので、チャットを使いこなしているお客さんはまだまだ限定的だというのが現状です。
情報共有の会議の多くは朝礼と定例会議です。月曜日の午前中によくやるやつですね。それはたぶんどの企業もやっていると思います。右から左へ情報を共有するためだけであればチャットで十分です。しかし、情報共有でも、教育や啓蒙のついたものであれば、対面のほうが効果が高いことが弊社の調査でわかっています。教育や啓蒙を目的としたときはビジネスチャットでは伝わりにくいので、集まってやったほうがいいのは明らかです。感情共有の場ではリアルの対面のほうが優れているので、僕は朝のラジオ体操にもあまり否定的ではありません(笑)。一方で、定例会議で右から順番に「あなたは何やった」「これやった」という情報共有をするだけなら一切要りません。これをいまはオンライン会議でやる方は多いですけど、調べると6割の方は内職をしています。会議の話を聞いていないんですね。だからやっても意味がないと思います。
――基本的に情報共有の報告会であれば、その中で工夫するよりもなくしてしまったほうが早いと考えればいいのですね。
はい。会議改革でもっとも効果的で手っ取り早いやり方は、「やめる会議を決めること」です。まずはその棚卸しをして、そのうえでやるべき会議が短い時間でアウトプットが出るためにはどう運営すべきか。会議を開く主催者側でいうと、会議がどのくらいあるか会議のストックを見て、まずそこを減らして、そして極限に減らしたら、どういう会議運営をすればいいかのフローの部分ですね。たとえばファシリテーターを入れるとか、締め切り時間を設けるとか、量と質の両方を改善していく形かと思います。

文・鈴木涼太

越川 慎司(こしかわ しんじ)株式会社クロスリバー
株式会社クロスリバー代表取締役社長 CEO/アグリゲーター。元マイクロソフト業務執行役員。国内通信会社、米系通信会社、ITベンチャーを経て、米マイクロソフトに入社。11年にわたり在籍しExcelやPowerPointなどの事業責任者を務める。2017年に株式会社クロスリバーを設立。3年以上週休3日・テレワーク・複業を実践し、真の働き方改革を推進すべく700社以上のリモートワークの導入支援をしている。メディア出演、講演多数、受講者満足度は平均94%、自発的に行動を起こす受講者が続出。著書に『超・会議術』や『AI分析で分かったトップ5%社員の習慣』など15冊。

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