自分で仕事を組み立てる時代になってきている【スマート会議術第138回】

自分で仕事を組み立てる時代になってきている【スマート会議術第138回】株式会社tsumug 代表取締役 牧田恵里氏

tsumugの代表取締役・牧田恵里氏は、新卒でサイボウズに入社後、IT企業、不動産会社の勤務を経て、2015年tsumugを設立。福岡を拠点に、コネクテッドロック「TiNK(ティンク)」をはじめ、リモートワーク環境に対応したデスクの時間貸しをするサービス「TiNK Desk」や、空室物件など遊休空間を活かし空間全体を1企業やプロジェクトメンバーと専有して使える「TiNK Office」などの事業を展開。

コロナ禍によって一気に進んだかに見えるリモートワークだが、そのメリットを享受した人もいれば、まだ戸惑いを覚える人もいる。果たして私たちは今後どのようにしてリモートワークと向き合っていけばいいのか。社会人人生のほとんどがリモートワークだったという牧田氏は、なぜリモートワークにこだわってきたのか。そして、起業の拠点をなぜ福岡にしたのか。それはリモートワークとどう結びついているのか。

今後、働き方にはより自主性と主体性が求められるという牧田氏。リモートワークを生かした豊かなライフワークバランスを実現するためには、何が必要なのか伺った。

目次

LINEでいつでも簡単にオフィスが使える空間サービス「TiNK」

――リモートワーク利用者のための空間サービス「TiNK」はどんなサービスなのでしょうか。
リモートワークの環境を考えたとき、いまの日本は少子高齢化社会になっていることもあって、今後オフィスビルや民家などの空室が増えてきます。tsumugとしては、その空室という資源を活用したサービスとして「TiNK」という空間サービスを提供しています。
空間サービス「TiNK」は「鍵のシステム」と「設備ユニット」の2つの特徴があります。tsumugはこれまでずっと電子錠の開発をしてきて、入退室の管理から、細かいアクセス権の管理、空間内のセンサーと連動する無人の空間サービスの提供をしています。もうひとつが「設備ユニット」です。
リモートワークのスペースを運用したいとなったとき、設備をイチから買い揃えるのはすごく大変なので、利用者の目的に応じて作業スペースやミーティングルーム、電源やWiFiなどの家具や家電をセットにしたユニットをサブスクリプションで提供しています。「TiNK」に登録すると設備自体の検索やシステム上からの予約ができ、その利用状況の管理もダッシュボードで見ることができます。たとえば企業さんが、分散拠点をつくるときにこういった設備ユニットの仕組みを使っていただけます。
この2つの機能を使って「TiNK Desk」と「TiNK Office」の2つのサービスを提供しています。デスクの時間貸しをするサービス「TiNK Desk」は、基本的にLINEでLINEフレンドになってもらって、予約、鍵の開け閉め、利用された後に利用終了を押していただきます。使った時間分の決済がLINE Payでされる形で、シンプルに使っていただけます。
いま、東京に2拠点、福岡に4拠点「TiNK Desk」があります。フリーランスやリモートワーカーだけでなく、学生さんが論文を読んだりオンライン授業を受けたりする場所として使っていただくなど、コロナの影響による使い方も増えてきています。
もうひとつのサービスが、デスクだけではなく、月額で一部屋や一空間を占有で使える「TiNK Office」です。時間貸しの「TiNK Desk」に対して、月額で専有できるプランという違いだけではなく、「TiNK Office」向けのシステムを提供しています。企業が従業員の住まいの近くの分散オフィスとしてご活用いただいています。会社で使われているOffice365などのグループウェアと連携して、施設の予約も行うことができます。
私自身、社会人人生の8割ぐらいはシェアオフィスで過ごしているんです。でも、シェアオフィスの多くは街の中心地に行かなきゃいけない。人の多いエリアに行かなきゃいけないのがネックだと感じています。tsumugが考えるシェアオフィスの考え方は分散拠点で、働く方たちの住んでいるエリアの近くに拠点を簡単につくれる方法がないかということで空間サービスを始めました。「TiNK Office」を導入いただいている企業の調査からも、やはり家の近くに拠点が欲しいと考える従業員の方が多いのがわかりました。
また、地方の採用拠点として使ってみたいとか、お客さんの現場の近くにプロジェクトオフィスとして3カ月だけ使いたいとか、ワーケーションの一環で大自然の中で従業員が働ける環境を用意したいとか、そういったご要望で「TiNK Office」をご検討いただいている会社さんも増えてきました。
そして、物件所有者さんにもメリットがあるのが、私たちの空間サービスのポイントです。物件所有者さんには空き室を提供いただいて、そこに「TiNK Desk」「TiNK Office」の設備を設置するだけで、大掛かりな工事もなくサービスをスタートできます。
「TiNK Desk」の売上の70%がオーナーさんに入る形です。「TiNK Office」は企業がその空間を契約されるので安定した月額収入が入ります。たとえばコロナ禍で感染者が増えてきて出勤は控えてくださいとなったときに、企業が「TiNK Office」を使う場合は「TiNK Office」で提供してもいいし、本社で普通に働けるようになってきたら「TiNK Desk」としてサービスを提供することもできます。この机貸しと部屋貸しと両方できるのが空間サービス「TiNK」です。
この空間サービスは企業が「TiNK Office」として月額で1部屋使っているときも、平日の日中しか使っていなければ、空いた時間帯を「TiNK Desk」として一般に公開することも可能です。空室をムダにしないで最大限活用できるのが「TiNK Office」「TiNK Desk」の特徴です。空いている部屋に「TiNK Desk」を設置していただいているホテル事業者もあります。ベッドを外して、会議スペース、ミーティングスペースと、一席一席を設置して福岡でサービス提供しています。

福岡がスタートアップを魅了する3つの理由

――牧田さんはこれまで東京や海外でも勤められてきましたが、現在、福岡に拠点を移されたのはなぜですか。
一番の理由は福岡市がスタートアップをすごく支援していて、街全体が何か新しいことやることに対して前向きに捉えてくれることですね。もともと東京のDMM.make AKIBA(モノづくりのためのコワーキングスペース)で創業したときは、ハードウェアの試作機をつくるのに便利な場所だったので秋葉原で活動していたんです。でも、その試作機をテストする場を確保するのが難しかったのが当時の悩みでした。
その頃、福岡市が「グローバル創業・雇用創出特区」になって、ハードウェアのフィールドテストができたり、規制の緩和もされるということで、「福岡市実証実験フルサポート事業」に応募して採択されたのを機に本社を福岡市に移しました。
――いま福岡で活動されていて、ベンチャー活動の源になっているものは何だと感じますか。
大きく3つあります。ひとつは、もともとそこに起業家が多くいて、その人たちが自分たちがやってきたことを共有したいというコミュニティがあったこと。福岡に関わり始めて8年ぐらい経ちますが、もっと前から起業されている方たちもいて、彼らが若い人たちを育ててくれる文化があったことがとても魅力でした。
2つめは、高島市長の存在ですね。市長が市としてどう新しい取り組みをしていくかということに対してすごく前向きで大変刺激をいただいています。市長にプレゼンテーションをすると、プレゼン自体のコメントもいただけてピッチのトレーニングをしてくださったり、スタートアップとよく会話したり、寄り添った形でスタートアップの活動を応援してくださいます。市長がそういうスタンスなので、市の職員の方たちもすごく前向きに相談にのってくださいます。
3つめは、若い人たちが集まりやすい場所になっていること。福岡だと若い人たちがスタートアップで働くことに抵抗感が薄く、意欲的な方が多いと感じています。

リモートワークのカギを握る自宅寄り添い型オフィス

――今後、事業を展開していくときに、福岡や東京以外にも拠点を増やしていくイメージですか。
はい。増やしていきます。いろいろな場所につくっていく予定です。テレワークの働き方を4つのカテゴリーで考えています。
ひとつが本社。本社の形態や機能は変わっていくにしても、本社自体はなくならないと考えています。2つめが都市型シェアオフィス。現状、都市の中心地にたくさんあるシェアオフィスです。3つめが自宅寄り添い型オフィス。tsumugはこの3つめを注力的に考えています。家の近くにあるオフィスで、個人のタスクをこなしたり集中したりするためのスペースとして活用していただいくものです。4つめは自宅です。これからの働く環境として大きくはこの4つのカテゴリーがあると思います。
――3つめの自宅寄り添い型オフィスは、コロナ禍において最もニーズが高そうですね。
そうですね。もちろん時間をかけて行くことで意味のある業務もあると思います。たとえば、本当に集まって話さないといけない業務や物理的な作業が必要になる業務など。一方で個人のタスクでできる内容や、現場まで行かなくてもできる作業もあります。そのためのスペースで「TiNK Desk」などを活用いただければと考えています。基本的には公共交通機関を使わなくても、歩いたり自転車で行けたりする範囲で、自宅以外で集中して作業できるスペースになります。
――いま、リモートワークをやってみて、働いている人たちからはどういう反応が多いですか。
リモートワークを何カ月かやってみて課題が出てきている状況だと思います。いまはその課題を解消するには何があるだろうと考える時期ですね。リモートワークで一番変わることはやはり時間だと思います。移動時間のような既存の課題から捻出される時間が、自分たちの生活を変える可能性があると思います。その時間があることで発生してきているのが、“自分で仕事をつくる”ことかなと思っていたりもします。
これまで仕事は上から降りてくることが大半で、通勤してその限られた環境の中でやっていた。それが自分のタスクや作業をどう組み立てていって、その作業を達成するためにどうやって仕事をつくっていくのかを試されていると感じます。「あいつはサボっている!」という話がリモートワークの課題として聞くことがあるのですが役員からあがってくるんですが、サボっているかどうかなんて計れないですよね(笑)。
――サボる人はリモートワークじゃなくてもサボるし、サボらない人はどんな環境でもサボらない気もしますが(笑)。
両方あるとは思うんです。サボっていた人がテレワークになって、もしかしたらすごい能力を発揮することもあるかもしれないし、いままでサボらなかった人が側にベッドがあることで寝すぎちゃうとか(笑)。「家は怠けるための環境になっているんですよ。だから家で仕事するなんて無理です」と話されていた方もいらっしゃったんですよ。住空間を働くスペースにするのは、難しいという方たちも多いんじゃないかと考えています。
――リモートワークはいいか悪いかという二者択一ではなく、それぞれ自分に合った働き方の選択肢が増えたと捉えたほうがいいですね。
そうだと思います。それも制約の中で判断する選択肢じゃない選択が増えた感じです。たとえば、これまで「本社に通わなければいけない」という制約から通勤をしてきたり、「在宅ワークなので家にいなきゃいけない」と家から出ると仕事とみなされなかったりする制約もありました。今回のコロナでこの制約がなくなっていくのではないかと思います。たとえば、家で作業したほうが時間も効率もいいから家で作業することを選択するとか、本社で顔を合わせたほうがいい打ち合わせをするために本社へ通勤する、さらに夏休みで家に子どもがいるから家の近くの「TiNK Desk」を使うなど自分の判断による選択が今後どんどん増えてくんじゃないかと思います。
より自主性、主体性が求められるようになってくると思います。働き方もフリーランスとか複業とか、自分が人生の中でどういう関心ごとで働きたいかを選択できるようになってくると思います。

文・鈴木涼太

牧田 恵里(まきた えり)株式会社tsumug
東京理科大学卒業。新卒でサイボウズ入社。サイバーエージェントアメリカ、不動産勤務を経てMOVIDAJAPAN(現Mistletoe)に入社。孫泰蔵氏とともにPiccolo(現VIVITA)事業を立ち上げる。2015年tsumugを設立し代表取締役に就任。空室物件など、遊休空間を活かした分散専有型のマイクロオフィスサービス「TiNK Office」、15分から使える時間貸しセルフワークスペース「TiNK Desk」、セキュリティシステムとつながることで最高レベルの安全を約束するカギデバイス「TiNK」などの事業や、「つくる人」と「つかう人」のこだわりを追求するメディア「tsumug edge」を運営。

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