世界のどこにいてもコミュニティを選べる社会へ【スマート会議術第135回】

世界のどこにいてもコミュニティを選べる社会へ【スマート会議術第135回】「灯台もと暮らし」編集長 小松﨑拓郎氏

先進国でもっとも労働生産性が低いとされる日本に対し、アメリカに次いで労働生産性が高く、労働時間はもっとも短いドイツ。日本人より短い時間で1.5倍の価値を生み出しているという。なぜドイツは労働時間が短くても高い付加価値を生み出しているのか。

「ドイツには残業の概念がないんです」

そう語るのは、ドイツの首都ベルリンに滞在しながら、テレワークを駆使して日本のWebメディア「灯台もと暮らし」の編集長を務める小松﨑拓郎氏。

テレワークが進み、人はいつどこにいても仕事ができるようになってきた。コロナ禍の中、ベルリンもまたテレワークが急速に進んでいる。しかし、同じコロナ禍という状況でありながら、そもそも日本とドイツではテレワークを利用する文化的背景や考え方に大きな違いがあるようでもある。

東京とベルリンで暮らして見えた働き方の違いについて、小松﨑氏に語っていただいた。

目次

お父さんが夕方4時にベビーカーを押している

――ドイツは先進国の中でも特に労働生産性が高くて労働時間も短いですが、ドイツで働いてみて日本と違うと感じることはありますか。
僕自身は実際にドイツの企業で働いているわけではないので、あくまでもドイツ企業で働いている友だちから聞く話ですが、働き方の違いで言うと、ある企業では「今日、自分が何にどんな時間と工数をかけたのか」を記録するそうです。工数を記録したらマネージャーに工数を伝えていきます。マネージャーはみんなの工数管理をしてスケジュールを調整するんですね。もしチームのメンバーが残業をしたらマネージャーの力不足という認識になるので、マネージャーが工数を調節するそうです。企業の面接で「残業はあるのですか?」「残業代の手当は出るのですか?」と聞くと、そもそも残業の概念がないので「えっ、何それ?」って感じになるそうです。
ドイツでは残業代を含めて予算を組んでいないそうなんです。予算がなければ追加でお金は出せないじゃないですか。残業したからといって追加でどこから出すのって話になるので、そもそも残業ができないスタイルなんだと思います。
僕が見ている限りですが、そういう価値観というか働き方の文化があるので、日々の働く時間も短く、バケーションも長いのだと思います。工数管理とか些細な日常のスケジュール管理が私生活にも効いてきている気がします。お父さんが夕方4時に街中でベビーカーを押している姿をよく見かけるのですが、それはお父さんが朝9時から15時ぐらいまで時短で子どもを送りつつ勤務して、時間をずらしてお母さんが同じように時短勤務している、みたいな感じでやられている方が多いそうです。

ムダをなくしてムダをつくる

――オンライン上でのチームのコミュニケーションで難しいと思うことはありますか。
いいところもあれば、課題もまだまだたくさんありますよね。働く人にとって、通勤とか交通費とかオフィス代とかもちろんたくさんのメリットがあると思うんですけど、失われたところで言うとやはりコミュニケーションかもしれません。主に雑談ですよね。雑談のしづらさには課題を感じますね。
――メディアの編集の仕事では企画を考えるうえで雑談は大事ですよね。
めっちゃ大きいですね(笑)。
――そういう雑談ができない環境でオンラインでブレストとかするときに工夫していることはありますか。
「ムダをなくしてムダをつくる」というのは大事だなって思っています。会議はそもそもプロジェクトを進めるためや仕事を円滑にするためにやるものだと思いますが、会議が始まったら「最近、面白いことあります?」とか「最近、何考えていますか?」みたいな結構ざっくりした話を投げるようにしています。
まずリモートのコミュニケーションは言葉のかぶせ合いの会話がしづらいので、“待ち”になる人が結構多くなるんです。だから、まず自分が話したくなるようになる空気づくりですね。リアルであれば同じ時間を共有していて、「じゃあちょっとカフェでお茶しよう」とか「ちょっと移動しながら話そう」って言ったら、「あ、この人こういうことを考えてる」とか「いまちょっとこういうことを悩んでいるんだ」っていうのを感じ取れると思うんですけど、オンラインでムダなく業務の話にフォーカスするようになったことで、相手の考えや思いが見えづらくなってしまっている傾向はありますね。そこがテレワークのコミュニケーションにおける難しさだと思うので、最初にそういうムダ話をするようにしていますね。
――コミュニケーションの難しさはテクノロジーの問題だけではなく、同じ空間で同じ空気を吸っているかどうかにもあると感じます。特に会議ではリアルとオンラインで顕著に違いを感じませんか。
テレワークになっても会議をあえてやるのは連帯感を生むためだと考えています。会議は同じ時間を共有できるから連帯感が生まれやすく、親密さを感じられる。どんなに物理的に離れていても一緒に時間を共有することで、チームでもプロジェクトでもミーティングをすることによって、「私たちはチームなんだ」って連帯感を持つことができるのが、難しさでもあり、楽しさだと思います。

コワーキングスペースは人とつながるためにある

――今後もベルリンを拠点に仕事を続けられるのですか。
いえ、永住するつもりはないです(笑)。世界からの視点とか経験したことがない世界も見てみたいと思ってベルリンに来て、ベルリンだからこそ経験できたこともかなり貯まってきたので、また新たなチャレンジもしていきたいと思っています。ベルリンにも日本にもちゃんと還元できるようなことをやっていきたい。
――他の国や都市に行くことも視野にあるのですか。
いまは日本でやりたいこともあるので、遊びに行くのはあると思いますが、住むかどうかはわからないです。
――日本に戻る場合は特に暮らしたい地域があるのですか。
一番住みたいのは本当に自然が豊かな場所。東京ではないです。やっぱりこうやってテレワークをやって、自分の本当に求める環境、自分に合ったライフスタイルになりつつあると思うし、いずれ子育てとかもあるかもしれないのでパートナーと相談して住む場所を選んでいくことになる気がします。
――リモートゆえにどこでも暮らせるけど、どこでも暮らせるからこそ逆に暮らす場所って大切にしたいですね。
そうですね。人間は社会的動物として信じるものが必要で、信じるもののひとつがコミュニティですよね。たとえば、コワーキングスペースとかシェアオフィスとかも、自宅で働ける環境が整いつつある中で、なぜあえて借りるのかというと、そこにコミュニティがあるからではないでしょうか。テレワークが進めば進むほど、場所や時間に縛られずにコミュニティを選べる人が増える。コミュニティ機能は会員さんが求めるものだと思うので、個人とか会社はもちろん、コワーキングスペースやシェアオフィスを運営する側も考えていく必要はありそうですね。
実際、ベルリンにはGoogleやスタートアップの人たちがよく行きかうFactoryというコワーキングスペースがあります。人の紹介がある上で入会審査があり、このコミュニティにどんな貢献ができるのか?と問われる面接があると聞いています。WeWorkもコミュニティの機能がすごいので、コミュニティブックがあって、コミュニティマネージャーがいて、いろいろな人と人をつなげてくださる印象を受けました。
――そういう意味でいうとオンラインコミュニティという流れもあるかなと。
そうですね。まさにテレワークによって個人は生活したい環境やコミュニティを選べるようになりつつあると思います。僕自身、自分の好きな環境を選べるようになりつつあります。晴れた日はバルコニーで食事し、仕事に悩めば歩いて5分の距離にある森を散策し、週末はバスに20分乗って湖で湖水浴する。家族や友人と森や湖で多くの時間を過ごすようになって、次第に自然に近い暮らしこそ価値あるものだと感じるようになりました。この自然とすぐにつながれるという体験から、もっと気軽に自然近接な暮らしができるようなことを日本でやってみたいと思っています。

文・鈴木涼太

小松﨑 拓郎(こまつざき たくろう)「灯台もと暮らし」
1991年茨城県生まれ、ドイツ・ベルリン在住。編集者、フォトグラファー、ビデオグラファー。これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」編集長。クリエイティブチーム「白梟」主宰、グリーンな暮らしを紹介するマガジン「白梟は樹洞のなかで眠る」を運営。

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