「出社かテレワークか」という二者択一の議論ではない【スマート会議術第133回】

「出社かテレワークか」という二者択一の議論ではない【スマート会議術第133回】一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事 田宮一夫氏

「テレワークは働き方改革のひとつの手段です。もろもろの働き方改革の大きなテーマがあって、テレワークで時間や場所に制約されない働き方を目指していただく」

そう語るのは、一般社団法人テレワーク協会の専務理事を務める田宮一夫氏だ。

そんな現状にあって、テレワークには通勤時間・通勤費の節減、ワークライフバランスの実現など、従来の働き方では実現できない多くの魅力がある。テレワーク、ひいては働き方改革によって、労働環境の改善、働きがい、労働意欲の向上も期待できる。

しかし一方で、準備が整っていない企業の多くは「コミュニケーションや労務管理が難しい」といった課題を抱えている。上司は直接確認ができない部下の働きぶりをどう評価すれば良いのか悩み、部下は「一生懸命働いても理解してもらえないのでは」と不安になる。“隠れ残業”も問題視されている。初期の導入コストもかかる。しかし、もはやテレワークは待ったなしの差し迫った状況にあるのもまた事実である。

テレワークを最大限に活用し、環境整備、効率化を図るにはどうすればよいのか。

田宮一夫氏にwithコロナ時代の上手なテレワークの活用の仕方、ひいては働き方改革の実現についてお話を伺った。

目次

テレワークの果たす役割

――テレワークは働き方改革においてどんな役割を果たすのですか。
テレワークは働き方改革のひとつの手段です。少子高齢化を迎える社会において、女性を活用したり育児や介護での離職を防止したりしていく。あるいは定年退職したシニア世代をいかに活用するか、外国籍の方々をどう労働人口に活用していくか。こういうもろもろの働き方改革の大きなテーマがあって、テレワークで時間や場所に制約されない働き方を目指していただくということです。
労働人口が少なくなってくると、企業はいかに優秀な人材を確保していくかがより切実な問題となってくる。いわゆる採用で競争が起きるわけですよね。東京の企業はいままでは東京や東京近郊在住の方を採用されてきましたが、考え方が変わってきて、北海道の方が東京の企業に採用されたりすることも起きています。東京に労働人口が一極集中して、なかなか皆さんUターン、Iターンをしなかったり、地方で採用が募集をしても若手が来なかったりといったことから、地方創生の狙いもあります。
日本人の年間の総労働時間は1880時間~1900時間。欧米は1600時間台~1700時間。生産性を時間で割り算すると欧米は働いている時間が日本より200時間近く少ない。同じGDPだと、日本は時間当たりの生産性がかなり低い。休むことと働くことのメリハリを持って、うまく時間を活用して生産性を上げていきましょうというのが働き方改革です。
――特にドイツは労働時間が非常に短く、高い労働生産性を実現できています。すでに大きな差が出ていることを考えるとテレワークという手段以前に働き方の考え方とか意識の改革が求められている気がします。
いまは少しずつですが子育てしながら就業していける環境もできつつあります。男女雇用機会均等法が制定されたのは1986年ですが、それでも女性は出産を機に離職された方がまだ半分近くいらっしゃる。女性の方々の就業人口というのも、未婚で働いている方もいれば、結婚されて育児をしながら仕事を継続される方も増えてきている。こういった方々をうまく企業の労働力として登用していくことが大事ですね。テレワークを活用することによって、いままでスピンアウトされたような方々を正規・非正規かかわらず、いろいろな形で働いていただけることをひとつの効果とすれば、労働力減少に少し歯止めをかけられると思います。
本来、定年退職する方、あるいは身体に障がいがあってなかなか働く場がないという方も、地方の方が東京に就業するとか、そういった働ける場を提供するということにおいても、テレワークはひとつの大きな効果になっています。正規・非正規にかかわらず、場所という概念がなくなった就業の仕方が出始めたのもテレワークのひとつの効果です。
――一方でテレワークでは社員の育成が難しいという声もあります。
企業の中でいろいろな育成の仕方があると思います。私も民間企業で部長とか役員も経験してきていますが、じつは育成には出社をしているか、在宅でテレワークをしているかは関係ないんですよね。
適性の問題もあれば、経験の場数というのもあります。テレワークになるとOJT(On the Job Training)という四六時中ついて指導することができなくなるということが言われがちですが、Off-JTでの研修やWebトレーニングもあります。
緊急事態宣言時は人との接触を避けるために在宅ワークが増えましたが、テレワークといってもモバイルもあれば、在宅もあり、サテライトオフィスもある。テレワークの議論をすると必ず0か100の話になるんですよ。テレワークをしていると会社に出てこないことでいろいろな問題、課題が出てきますよね。問題、課題があれば、週の1~2日だけ出てくればいいという選択肢もあるんですよね。
在宅勤務を週1回やって通勤時間が往復で2時間削減できたら、1カ月で8時間、1年間で96時間が削減できます。withコロナ中はフル在宅でたくさん課題が出てきたかもしれません。ハンコを押さなきゃいけないとか、書類が必要だということであれば電子化すればいい。出てきた課題に対してどうするかというのが次の一手だと思います。そのテレワークをやって良かった、これできるじゃないかっていうのは、ぜひ在宅とかサテライトとかを使って継続していただきたいですね。
仕事においては在宅ではなく対面で仕事をしなきゃいけないというところが出てくれば、対面の比率が週5日必要なのか、週3日で済むのか、対面の接点がテレビ会議を使った接点に変わってきていますから、本当に会って話をする必要があるかどうか、改めて考えるべきだと思います。

コワーキングスペースの上手な活用方法

――テレワークの推奨によって、シェアオフィスやコワーキングスペースのニーズも高まってきていますが、どのように活用すればいいかわからない人も多いと思います。
そうですね。たとえば東京都の東京テレワーク推進センターでやっている「TOKYOテレワーク」というアプリをダウンロードをしていただくと、GPS機能があって自分のいる場所から近くにあるサテライトオフィスとかカラオケボックスなどがすぐ出てくるんですよ。たとえば日本テレワーク協会のオフィス(御茶ノ水)で調べると、すぐ近くにある「ワークスタイリング御茶ノ水」というシェアオフィスが出てきますが、2つめ3つめに出てくるのが、ビッグエコー御茶ノ水店とかビッグエコー水道橋店。
これは東京都がやっていて、お客さんの事例の発表をしたりテレワーク協会もそこで月何回か会員さんに講演をしていただいたりするのですが、その講演のメニューも全部出てきます。テレワークをやっていただくための体験コーナーもあります。東京テレワーク推進センターにiPadや最新のPCが置いてあって、それを触っていただいて勤怠管理システムってこんなものですよ、チャットってこんなものですよというのを、セミナーを聴きながら体験していただけます。そういうものや講演をされたお客様の事例が業種別に全部まとまっています。GPS機能で、自分が外回りをしていて1~2時間空いちゃったというときに、テレワークで仕事ができるようなシェアオフィスを検索してネット上から予約もできます。これを利用するだけでも、テレワークの上手な使い方やシェアオフィスがどんなものかだいたい把握できると思います。
――カフェで仕事をするノマドワーカーも多くいますが、セキュリティ面が最大の問題ですよね。
カフェで危ないのは覗き見ですよね。いまは人が後ろを通らないような椅子のレイアウトになってきて、覗き見の防止のカフェも出てきていますけど、モバイルPCとかスマホとかちょっと軽いデバイスだと置き引きや置き忘れも心配ですよね。あるいは落として壊れたとか、物理的なトラブルが結構出ていますね。
――スマホはもはや生活に欠かせないライフラインになってきていますからね。
企業はファイアウォールでものすごくセキュリティ対策をやられている。だからハッキングがあっても防止するんですけども、これを自宅に持って帰ったり、自宅で契約しているWi-Fiから会社にアクセスしたりしたときにはファイアウォールが非常に弱いですからね。そういった意味ではセキュリティをしっかり守るのは重要なポイントになっていますね。

全部テレワークでやることが目的ではない

――緊急事態宣言でテレワークをしたものの、うまくできずにまた元の出勤スタイルに戻った企業も少なくありません。今後どうしていけばいいですか。
企業の役割とか業種とか、職種によってもうまくいったところとうまくいかなかったところが出てきたと思います。うまくいかなかったところを棚卸しして、そこをどういうふうにしたらテレワークがうまく機能するのか。テレワークは最終的に企業の生産性を高めたり、社員の離職を防止したりと、社員の多様な働き方、ひいては社員の満足度を高めたりすることなので、少しずつ改善しながら進めるしかないと思います。
人をたくさん採れるとか、社員にモチベーションを高く仕事してもらうとか、テレワークをひとつの材料にして企業の売上げを拡大したり生産性を改善したりと、企業の目指す方向に行くために活用していくという局面が出てくると思います。そうするといままでの業務の進め方の中で良かったり悪かったり見直す点も出てくるかもしれません。
全部テレワークでやることが目的ではありませんが、業務の渡し方やプロセスを少し変えるたり、AI化、オートメーション化したりすることによって人の工数を軽量化する。あるいはクラウドで電子化をしてセキュリティを担保してどこからでもアクセスができるようなものに変えていく。そういう見直すポイントが出てきたのだと思います。
――コロナ禍がなかったら、ここまで急速にテレワークは進まなかったと思いますか。
コロナ禍がなかったら普及するスピードはもっと遅かったでしょうね。コロナ禍によってテレワークそのものの認知度は上がりました。ただテレワークが実質上在宅勤務になっていますから、もう一度テレワークの狙いをしっかり伝えていかなきゃいけないと思っています。コロナ禍を経験して、いまは「これから1年2年先どうなっていくのか?」という質問が多いですが大きな変化はないと思います。
もちろん後戻り性とかもあります。それはそれでいいと思っています。1回やってみたけど、うちはテレワークじゃなくて、出社ベースで考え直しますってところは出てきます。いままでの選択肢は出社することがありきで、出社かテレワークかって議論だったんですよ。
今回はコロナ禍で皆さん在宅勤務をしたことによって「家じゃ仕事できないな」「やっぱり会社のほうが生産性が高いな」っておっしゃる方と、「1~2時間かけていままで何のために通勤していたんだ」「自宅なら8時から仕事できる」「5時に終わったら5時1分には家にいられる」と感じられた方がいらっしゃる。そういう経験をされた方々が出社して仕事をすべきなのか、在宅で仕事ができるのか、あるいは環境を変えてサテライトオフィスで仕事をしたほうがいいのか、たぶん選択肢が広がっているんですよね。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

田宮 一夫(たみや かずお)一般社団法人日本テレワーク協会
一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事。1986年、富士ゼロックス株式会社入社。富士ゼロックスでは18年間の法人営業・営業マネージメントを経験の後、国内販売部門の事業計画・マーケティングを担当。特にチャネルビジネス戦略、地域統轄会社の設立に従事。また外部企業M&Aによる新会社設立を担当、新会社執行役員管理本部長として、総務・人事・経理・情報システム、事業計画・業務プロセス改革を担当する。2019年6月から一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事。

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