テレワークに必要な4つの準備【スマート会議術第132回】

テレワークに必要な4つの準備【スマート会議術第132回】一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事 田宮一夫氏

新型コロナウイルスのさらなる感染拡大により、政府は企業に対してテレワークの必要性を改めて訴えた。今後も新たな働き方の選択肢として、テレワークの重要性が高まっていくことは間違いない。一方で緊急事態宣言の解除後、準備不足のまま余儀なく始まったテレワークや在宅勤務により、「コミュニケーションが難しい」「社員の労働実態を把握しにくい」「セキュリティが不安」などを理由に再び出社態勢に戻した会社も多い。

少子高齢化に伴い、労働人ロの減少が急速に進む日本社会。経済の持続的成長を実現するために働き方改革は喫緊の課題だ。さらなる効率化と生産性向上、これまで以上に新たな価値創造やイノベーションが求められる。そのためには一人ひとりが多様な生活スタイルに応じた多様な働き方を可能にすることが欠かせない。テレワークは、ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方としてもはや避けては通れない道なのだ。

日本におけるテレワークの歩みと現況、そして導入にむけた課題について、一般社団法人日本テレワーク協会の専務理事を務める田宮一夫氏にお話を伺った。

目次

日本テレワーク協会誕生の経緯

――日本テレワーク協会はどんな経緯でつくられたのですか。
日本テレワーク協会の母体は1991年、任意協会という形で発足しました。もともとはバブル時代に東京の地価が高騰してオフィスを持つのが大変難しい中、周辺にサテライトオフィスをつくって、皆さんがオフィスを共有して本社に行かなくても仕事ができるようにしていこうという狙いがありました。
1986年にNECさんが日本のサテライトオフィスの先駆けとなって、続いて富士ゼロックスさん、内田洋行さん、NTTさん、それから清水建設さんといった企業さんが発起人となって、サテライトオフィス協会を1991年に立ち上げました。2000年になって、サテライトオフィスと通信を活用したテレワークという形で日本テレワーク協会と社名を変えて、今年で21年目になります。
――2000年はちょうどインターネットが普及してきた頃ですが、この20年でテレワーク環境はどう変わってきましたか。
まずはITが3Gから4G、通信技術がどんどん進化して、通信できるデータ量が増えることによって、離れた場所で仕事をするというテレワークの考え方が加速し始めたというのがこの20年間だと思います。スマートフォンが出てきて、パソコンもモバイルPCがどんどん当たり前になっていき、離れた場所で仕事をするという環境が加速し始めた。ただ、通信技術ということより、育児や介護をされるために家で仕事をしなければならないというような状況でテレワークが必要だという進め方をしてきました。
――協会としては具体的にどういう活動をされているのですか。
総務省、厚労省、経産省、国交省の4省庁と内閣府のテレワーク普及の仕事と、テレワークの現状などを調査して、政府や自治体に提案活動をしています。テレワーク協会は現在約400名の会員様がいますが、そういう方々と一緒にテーマを決めて、中小企業におけるテレワークの普及、サードプレイスの活用の仕方、セキュリティ、新たなテレワークをベースにしたライフワークバランスなど、さまざまなテーマを決めて会員様と共に部会活動で定期的に情報発信をしています。
――今回のコロナ禍で、テレワークが加速しましたが、実際どのくらい定着しているのでしょうか。
テレワークは働き方改革をするためのひとつの手段です。たとえば日本の大きな課題としては、少子高齢化で労働人口が減っていく中で、介護や育児で離職をされるような方々も増えています。テレワークをひとつの手段として雇用継続しながら自分のワークライフバランスに合わせた働き方を選択してもらおうということです。
その手段としてモバイルワーク、在宅勤務、サテライトオフィスやコワーキングスペースを使ってテレワークをするという3つの手段があります。コロナ禍中はできるだけ人との接触をしないというのが大前提ですから、在宅勤務=テレワークがこの3月~5月で加速したんですね。いままで企業はなかなかテレワークの導入に踏み切れませんでした。総務省によると昨年のテレワークの導入率は19.2%でした。東京都はかなり積極的にテレワークを活用していただいていますが、それでも26%です。
――19.2%、26%というのは、テレワークを一部でも導入していればということですか。
そうですね。会社でテレワークを1人でもやっていれば含まれます。コロナ禍を起点に皆さん在宅をせざるを得なくなって、いま東京都は在宅勤務を含めてテレワークをやっている企業が67%(4月現在)です。コロナ禍前の2.8倍ぐらいです。300人以上の大企業にいたっては79%。中小においては東京都においては50%を超えて在宅勤務をやっているんですよ。やはりそのぐらいコロナ禍=在宅勤務で、テレワークの導入率、普及率が一気に高まりました。

テレワークがなかなか進まなかった原因

――テレワークがなかなか進まなかった主な原因と、今回コロナ禍で一気に進んで起きている課題があればお教えください。
なかなか進まなかった原因は、各企業によってもろもろ考え方の違いもあるでしょうし、テレワークを導入しやすいのはオフィスワークという考え方がベースにあります。対人で接客をしたり、工場だったり、現場を持っているような会社はなかなかテレワークにはできないという考え方が強かったんですよね。
ところが2011年の東日本大震災を機にテレワークが加速した側面もありました。否応なしに仕事ができない環境が出てきたときに、皆さんのご支援があったり、近くまで行ってボランティアをしているところからアクセスをしたりして、本来のオフィスの拠点と連絡をとりながら事業継続してこられたということが背景にあります。ICTの進化に伴ってということもありますが、仕事ができないような環境において、場所を変えてどう震災地をサポートしていくかというところでモバイルワークやテレワークが少しずつ普及し始めたということです。
――震災の後はセキュリティや資産を守る意味でクラウドサービスも普及しましたよね。
そうですね。企業の資産ってBCP(事業継続計画)として、こういう災害があったときに、事業継続していくために企業の財産、資産をどういうふうに持つべきかというところからクラウドの考え方が出てきました。
それからもうひとつ大きかったのは、2012年ロンドンオリンピックです。テレワークを活用することでロンドンに大勢の人が来てもトラブルなくできました。この成功を受けて、東京2020オリンピック・パラリンピックが決まったときに、総務省を中心にテレワークをどううまく活用しながら東京の混雑を緩和していこうかと考えられました。2017年から7月から9月までの間を、いわゆるオリンピック開催の期間を「テレワーク・デイズ」と言って、17年は開会式の日だけ。18年以降は開会期間にテレワークを体験してみようという運動が行われてきました。2019年は2887団体、約68万人の方が、テレワークを生の形でちょっと体験してみようという意識改革と参加意識でテレワークの機運が高まりつつありました。
――その機運と大きな流れで、テレワークは有効性があるとなったものの、なかなか進まないのはやはりお金がかかるということですか。
そう認識される方もいらっしゃいますし、日常のオフィス環境がどうだったかによってかかるコストも変わってきます。いまはモバイルPCで仕事をされているケースが多いですが、ちょっと地方の官公庁に行くとまだデスクトップ型のPCを使っているオフィスも多い。そういったところが在宅とかモバイルでという話になってくると、当然その方々に向けてPCを配備しなきゃいけない。それからモバイルPCのためのWi-Fiとか、携帯電話も含めて整備するための投資もやっぱり必要になります。
しかし、一番大きいのは労務管理ですね。会社には休日、始業、終業、残業の規定がありますが、この規定をテレワークに呼応するときに、きちんとテレワークに合わせた形での改定や、現状の規定の中で間に合っているのかどうか、そういうこともやらなきゃいけない。
そして、セキュリティ対策。在宅の場合、個人のPCを使うのか使わないのか。あるいは会社からPCを与えるのか与えないのか。仮に与えてもらったとしても、電気代とか通信費をどうするのか。テレワークするときに決めなきゃいけない最低限の項目があって、こういうことまで決めている会社は今回のコロナ禍でもすんなりとテレワークに移行ができました。逆になかなか準備ができていない会社は、緊急事態宣言になって人との接触を避けるためにテレワークを否応なしにやったというところもあったんですよね。

テレワークをうまく成功させている企業は性善説が前提

――改革には必ず陣痛は起こるものだと思います。何かしら変えなきゃいけない作業の中でやはり労務管理は一番難しいところなのでしょうか。
我々はテレワークについてはいつも4つ準備してくださいと言っています。ひとつは労務管理に関してオフィスで働くのと同じように、オフィス外、あるいは在宅で仕事をされるときにきちんと労務管理の視点で手当てができていますかということ。
2つめがセキュリティ。重要な情報の扱いをどうするか。外で仕事をするときに通信であるとか、端末に対してのセキュリティをどのように準備されますかということ。
3つめがコミュニケーション。日頃、目の前で仕事をしている方々が、会社に来ないで在宅で仕事、モバイルでどこか違ったオフィスで仕事となったときに、管理職の方と社員の方がどのようなコミュニケーションをとられていくかということ。コミュニケーションも、いわゆる仕事の進捗を見るためのコミュニケーションであったり、会議、グループ全体での意思決定とか共有のための会議であったりとさまざまです。今回、コロナ禍がこんなに長く続くとは想定されていなかったので、1人で長く在宅勤務することによるメンタルケア面でのコミュニケーションも重要になってきますね。
4つめは業務プロセスの見直しを平時から行ってくださいということ。テレワークでもできる仕事とテレワークじゃできない仕事があるんですよね。在宅でもモバイルでもこの仕事はできるけど、在宅とかモバイルの環境ではできないところがあったら、その業務をどういうふうにしていくか。じゃあ3密を避けて、時差出勤をしながら行うべきものなのか。あるいはもうちょっと頻度を変えて、毎日会社に出社するのではなく、週に1回その仕事のために出社して、週4回は在宅とかモバイルワークをする。そういう見直しは必要ですよね。
平時ではその4つをきちんと見ながらテレワークをできるところからやっていって、やりながら出てきた課題に手を打っていってください、というのが日本テレワーク協会としてのメッセージです。
――徐々にやっていきましょうという中で、今回コロナ禍で急に変えざるを得ないといったときに、この4つのクリアしていく中で特に最優先すべきことはありますか。
最優先は2つです。平時のときは4つと言いましたが、コロナ禍は緊急事態です。緊急のときにやらなきゃいけないことは、最初に言った労務管理。それからセキュリティです。この2つを最優先で手入れをしてくださいと言っています。労務管理でありがちなのですが、在宅勤務になると、どこからが仕事の開始でどこが仕事の終わりかが見えにくくなる。会社は出社という概念があるので出社から退社までという区切りがありますが、在宅勤務をしていると、中抜けが発生するんですね。
たとえば学校が休校になりました。すると子どもが四六時中いるという状況にあって、ところどころ子どものために中抜けしなきゃいけない。幼稚園、保育園に預けたりお迎えに行ったりしたときに、それに合わせた形で会社の就業規則がちゃんとできているか。あと中抜けした時間の挽回を深夜にやったり、土日に自分の判断でやったりするんですけども、深夜とか休日に関してはきちっと会社と労働者が、割増賃金含めてどこからどこまでが仕事で、それ以降は割増の残業とか休日を決める。これも本人の判断でやるものではなくて、会社とコミュニケーションをして、管理者側は当然、深夜作業や休日出勤にならないようにと労務管理における取り決めをしていただく必要があります。
――テレワークになって見えない部分と見える部分が変わってきて、かつては会社に出てくればよしとされていた時間管理の概念が、テレワークになって成果主義に移ってきているという話も出てきていると思います。
そういう時間管理か成果主義かという二者択一の話になりがちですが、そうではありません。毎日自分の部下が会社に出てきたら、その人の仕事の進捗とかプロセスが全部わかりますか?ということです。社員も上司やリーダーといった職場の人と四六時中一緒にいるわけじゃない。毎日一緒にいて「見えている=わかる」ことではないと思うんですよね。在宅勤務でいつ仕事をしてるかわからないから、このツールを入れると定期的にパソコンのカメラを通じてちゃんと監視しますみたいなソフトを売り物にしてるような企業もありますが、そうじゃない。
テレワークをうまく成功させている企業は性善説が前提です。管理とか監視をするような性悪説で導入されてうまくいっているところはあまりないです。家で仕事をしない人がいるとかいないとかという話も出てきていますが、テレワークでは時間管理ではないプロセスをつくっていかないといけない。通勤をするための時間をなくして、もっと多様な働き方をしていきましょう、その中でプロセスはまったく関係ないから成果だけしか見ませんって聞こえてしまう部分があるんですけど、たぶんそんな企業はなくて、成果を導き出すための前工程のプロセスがいくつもあるんですよね。
たとえばチャットであったりメールであったり、日々コミュニケーションすることによって進捗を見ていったり、問題を抱えて詰まっているときには皆でアドバイスをしたりする。そういうプロセスがあって初めて成果がある。この成果とプロセスの評価をします。だから8時間とか10時間、仕事をしたことに対して評価をするというものから、出てきたものに対して評価をします、と変わりつつある企業が増えているのは確かですよね。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

田宮 一夫(たみや かずお)一般社団法人日本テレワーク協会
一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事。1986年、富士ゼロックス株式会社入社。富士ゼロックスでは18年間の法人営業・営業マネージメントを経験の後、国内販売部門の事業計画・マーケティングを担当。特にチャネルビジネス戦略、地域統轄会社の設立に従事。また外部企業M&Aによる新会社設立を担当、新会社執行役員管理本部長として、総務・人事・経理・情報システム、事業計画・業務プロセス改革を担当する。2019年6月から一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事。

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