入りやすく出やすいシェアオフィス【スマート会議術第130回】

入りやすく出やすいシェアオフィス【スマート会議術第130回】エキスパートオフィス株式会社 専務取締役 宅泰雄氏

コロナ禍によって、急遽テレワークを導入する企業が増える中、シェアオフィスへの関心が高まっている。シェアオフィスの事業自体は20年以上前から生まれているものの、注目されてきたのは働き方改革が叫ばれて始めたここ数年のことだ。

そんな中、「少人数であってもオフィス環境は妥協したくない」「使用頻度の低いスペースや過剰なサービスには投資したくない」という少数精鋭の成長企業のニーズから生まれたエキスパートオフィス。人と企業の成長のために本当に必要なものだけを厳選し、“プレミアムレンタルオフィス”という新しいカテゴリーのオフィスとして2012年に誕生。そして、昨年12月に日総ビルディングから分社化する形で会社として設立された。

起業や日本進出の拠点、サテライトオフィス、そして1名から30名以上の本社機能までさまざまなニーズにフレキシブルに対応するため、シェアオフィス、プロジェクトオフィス、コワーキングスペース、バーチャルオフィスを用意。

大手不動産の社長から一転、エキスパートオフィスの事業立ち上げに携わり、新しいオフィスのあり方を追求してきた宅泰雄氏にレンタルオフィスの過去・現在・未来を語ってもらった。

目次

3~4年前から急に高まってきたシェアオフィスのニーズ

――シェアオフィスやコワーキングスペースのニーズはいつ頃からあったのですか。
日本では20年以上前にリージャスさんがすでに始めていました。我々が始めたのは8年前ですが、高級感のあるラグジュアリーなシェアオフィスは弊社と東急さんぐらいでした。それ以外では、空いたビルのスペースを埋めるためにあまりお金をかけずに机を置いて、コワーキングと称して貸すようなものもありました。ちょうど3~4年前から大手不動産会社が本格的に参入してきたという状況です。 
――確かにこの3~4年で急に増えてきた印象があります。
そうですね。すごい勢いで増えています。昔から需要はあったのですが、事業として成り立つことに気づいたということだと思います。エキスパートオフィスの名前の由来はもともと士業さん向けだったところから来ているのですが、士業さんは1~2人でやられている方も多いので、普通はマンションの1室にオフィスを借りたりしています。ちゃんとした立派なオフィスビルでは数名用に小割りしたオフィスはなかなかないですから。でも、シェアオフィスにして、受付や会議室もシェアしてコスト的にもそんなに高くならなければニーズがあると踏んでやってみたわけです。
「あ、そういうオフィス形態や働き方があるんだ」というのが皆さんに認知されてきたのは大きいですね。大手不動産会社が始めたり、外資系シェアオフィスが参入したことによって皆さんが気づき始めたので、潜在需要が顕在化していったという感じですね。この3年ぐらいの間にものすごく供給が増えたのですが、我々が会員さんを集めるのも順調に進んでいたので、もともとあった潜在需要が顕在化していったということだと思います。
――会員になられるのはやはり士業の方が多かったのですか。
結果的には士業さんに限らないです。起業された方もいますし、海外企業の支店や地方企業の都内の支店など、需要が顕在化していったというところです。あとはやはりある程度クライアントをお持ちのコンサルタント業のような方たちですね。

規模が小さいほどコストパフォーマンスは高い

――シェアオフィスはコストパフォーマンス的にはどういうメリットがあるのですか。
計算の仕方によっていろいろあるのですが、たとえば8人のケースですと、ずっとシェアオフィスを借りていたほうが得になります。16人のケースだと2年ぐらいまではシェアオフィスのほうが得になります。5年とか10年、長期の契約するのであれば自社で借りたほうが得だという計算になっています。
もちろん会社によって違いますが、スペースを借りて自社の従業員に受付をさせたり、会議室を設けたりするわけですね。そのときに、会議室のスペースは稼働が低いので共用すればその分コストがぐっと下がります。ランチを食べるスペースも共用にすればそれぞれが借りるスペースが執務のスペースだけになるので、小さいほど効果が高いですね。企業が大きくなってくると、自社のフロアに会議室を1つ設けても稼働がある程度あるので、シェアオフィスの効率は下がってきます。
費用対効果で判断するのももちろんですが、もうひとつ、フレキシビリティという考え方もあります。数人~20人ぐらいの会社は、5年後に30人になっているかもしれないし、5人に減っているかもしれない。そうすると手狭になったり広くなったりしたときに、長期で借りているとテナント工事の費用負担ももったいないですし、新たに借りようと思ったらまたそこで費用がかかったりするわけですよね。
予め成長を見越して大きめのオフィスを借りる場合、シェアオフィスは解約も比較的早めにできますし、テナント工事や家具、Wi-Fiも全部揃っているので、パソコンひとつ持ってくればいいというメリットがあります。5人から10人に増えたとしたら、少し大きめの部屋が空いてれば同じフロアで移ることも可能ですし、同じビル内の移動であれば本社の所在地を変える必要がありません。
そういう意味で、フレキシビリティがますます重要になってきてシェアオフィスに対する需要が増えてきています。フレキシビリティということでのシェアオフィスの良さにだんだん皆さん気づいたというのもあると思います。

シェアオフィスは不動産屋にとっては面倒くさいビジネス

――これまでは潜在的に需要はあったものの、なぜ供給がなかったのですか。
まず大手の不動産会社では貸すのは大体100坪からなんです。我々は1人用だと1坪。3人用だったら3坪という形でお貸しすることができる。期間も大手は1つのビルでテナント契約が平均で約10年です。それがレンタルオフィスだと1年半。そうすると回転率でいうと7倍。面積でいうと1坪と100坪だと100倍違う。だから手間が700倍違ってくるわけです。
常に集客して埋めて、お客さんの要望に応えて部屋を移ってもらったりしているわけですね。だからシェアオフィスは不動産業というよりもサービス業で、どちらかと言えばホテルに近いですね。不動産ビル賃貸業というより、ホテルのマネジメント業をやっているような感じですね。いくら貸す箱があったとしても、それをやる人がいて初めて大きな区画を割って貸そうという話になる。これは普通の不動産屋の方からするとものすごく面倒くさいビジネスなわけです。かなり手間がかかるので大手はそう簡単にやらないということだと思います。
――その大手がこの数年でやり始めているのはなぜですか。
外資系シェアオフィスが出てきたのもあると思いますが、やはり大きいテナントさんでもフレキシビリティを求めているんですよね。たとえば、大きなスペースがあったとしても手狭になってあと10人を追加で入れたいとなったときに、また新たに小さいビルを借りるわけですね。テナントさんにしてみれば窮屈になったときにどうしようかって考えたら出て行かざるを得えない。でも大きなビルの中にシェアオフィスのフロアがあったら、そこに増えた10人を入れればいい。なので、大きなビルの中に一部シェアオフィスがあると、ビルの魅力が増すわけですね。
100人が110人になったときに、同じフロアにシェアオフィスがあれば、テナントさんも出ていったり新たにビルを借りたりしなくても済むわけですね。ビルオーナーからすると外資系シェアオフィスがビルの中に入っているとメリットがあることに気づき始めたんです。
あともうひとつ、大手不動産会社は銀行からお金を借りてビルを建てる前はもともとテナントさんから敷金集めてビル建てていたんです。それが敷金をたくさん取る理由です。テナントさんにしてみれば自分のビルじゃないのになんでお金を払わなくちゃいけないのという話なので、踏んだり蹴ったりですよね。長期の契約を結んだのはいいけど、最初の5~6か月間は自費で工事をして、その期間は使ってもいないのに賃料を払わなきゃいけない。
でも、シェアオフィスの考え方は、「オフィスデスク・椅子・インターネット…すぐ入居して仕事に必要な物はパソコン以外全部用意してます、好きなときに入ってきてください、好きなときに出て行ってください、アップフロントの投資のお金もそんなに要りません、工事もわれわれでやります。」ということなのでテナントさんにとっては非常に好都合なんですよ。
1年で急成長する企業もありますし、ある部門が他の企業と何年かプロジェクト組んで、何か開発プロジェクト立ち上げるときにオフィスを借りるニーズもあります。要するにそういうフレキシブルなオフィスニーズは大手でもあるわけですね。それを不動産会社の旧態依然の硬直的なビジネスの仕方に対して、シェアオフィスは小さいながらも違う選択肢を提供して、理解されつつあるということでしょうか。

日本橋と渋谷でもニーズはさまざま

――企業によってはオフィスのレイアウト・デザインはオリジナルにしたいという要望もあると思いますが、シェアオフィスは基本的にすべて最初から設計されているわけですよね。
そうですね。そこはまたシェアオフィスのノウハウになってくるのですが、最初に部屋の種類をどうやってつくっておくかは非常に難しい問題です。1人用から3人用、5人用、10人用、20人用、30人用とどういうバリエーションにするか。日本橋には地方の企業さんが多かったり、渋谷にはIT関連の企業さんが多かったりと場所によってもテナントさんの内容が全然違ってきたりもします。それぞれの立地によって違うニーズの基盤があるところに持ってきて、どのような部屋の種類を取り揃えるかというノウハウが、勝負を決める大きなカギですね。
――コロナ禍の数カ月で市場の動きは大きく変わりましたか。
コロナ禍で当然、企業さんの売上げが落ちました。ビルの賃貸料が自動的に出て行くので、売上げが立たなければそれだけ毎月赤字になります。つまり、家賃がリスクだってことが理解され始めたんですね。そのときにシェアオフィスであれば、コロナ禍が長引くようであれば解約しますって出て行けるわけですね。通常の賃貸であれば出て行けば原状回復費用がかかりますし、6カ月前の通告が普通なので売上げがなくても6カ月間賃料を払い続けなければいけない。解約がしやすいというのは非常にリスクの軽減になる。
――お客さんにとっては解約しやすいのも戻りやすいのも大きなメリットですね。
そうですね。たとえば大きな部屋から小さな部屋に移られたりすることもあります。部屋を返してコワーキングでいいですという方もおられます。それからバーチャルオフィスになるという方もいます。バーチャルオフィスは住所利用できるということなので、本社を変えずに部屋を返す。郵便物が来たらそれを転送させてもらう。解約された方の半分ぐらいはやがて戻ってきますって言うんですね。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

宅 泰雄(たく やすお)エキスパートオフィス株式会社
エキスパートオフィス株式会社専務取締役。1983年、東京大学工学部建築学科卒業後、住友不動産株式会社に約30年間勤務。住友不動産投資顧問株式会社社長、住友不動産株式会社執行役員財務部長、住友不動産カリフォルニア社社長を歴任。エキスパートオフィス株式会社
URL: https://www.expertoffice.jp/ 東京駅(日本橋)、渋谷、麹町、新橋、品川、新横浜に東京最大級のシェアオフィスを運営している。起業や地方からの営業拠点(サテライトオフィス)として利用されるお客様が多く、人材紹介や士業・コンサルティング企業の方や好評のオフィス。現在、同社代表取締役を務める大西紀男氏の著書『“シェアリング”のオフィス戦略』(日本経済新聞出版) が発売中。

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