先進国の中でも著しく生産性が低いと言われる日本の企業。そして、「資料や議事録が見つからない」「目的や議題が不明瞭」「時間通りに終わらない」「結果が共有されない」「決まったことが行われない」などと、会議が生産性の低さの元凶としてやり玉に挙がる。
パーソル総合研究所のデータによると、ムダな会議による企業の損失は年間15億円。社内会議・打ち合わせの時間は一般社員で週に3時間、係長級で6時間、部長級になると8.6時間になるという。
植川悠氏は、大手シンクタンクで民間企業や官公庁のコンサルティングに携わった後、ベンチャーやスタートアップを支援する企業へ転職。その間、彼の頭の片隅にはいつも「ムダな会議」が課題としてあったという。そして、2017年に独立すると、会議のムダを減らすクラウドミーティングサービスのSavetimeを開発。年間300時間と言われる会議をスピード化・効率化し、働き方改革の実現を目指す。
Savetimeが果たす役割を通してリモートワーク時代の会議はどう変わっていくのか、植川氏にお話を伺った。
会議の大きな役割は「決める」こと
- ――働き方改革が推進される中で、お客さんのニーズはどう変わってきていますか。
- ひとつは「自動化」という文脈が完全に定着してきたかなと思います。この2、3年でRPA*1やDX*2と言われる自動化のサービスやツールも少しずつ導入しやすいものが増え、大企業が取り組みやすくなってきたと思います。
- ――自動化というのは、具体的にはどういうイメージですか。
- いままで、人間が目視で伝票を見て、エクセルに打ち込んでいた作業を、多少の例外処理が必要であっても自動的にプログラムが判定したり解釈したりして入力してくれるといったことですね。こうした単純だけど大きな雇用を生む仕事は世の中に非常に多いですが、RPAによってロボットに置き換えるという取り組みは非常に多くの企業で進んだと思います。
- ――いわゆるAI化と解釈してよいのですか。
- そうですね、ざっくり言えば「AIがホワイトカラーの仕事においてかなり実用的になってきている」ということだと思います。それはそれで進んでいくというか、自動化できることがいろいろありそうだということがわかったし、自動化に投資すればそれだけコストが下がることもみんなわかってきたのがこの数年の変化だと思います。
- これからは逆に「人間でないとできないことは何か?」ということが問われてくると思います。人は引き続き働かないと食べていけないし、働いている人にお金を払わないといけない。人じゃないとできないことは何か?どこに人の時間を使うのか?というのがこれからの課題になっていく。
- そういう意味で、会議は人じゃないとできない価値として残ると思っています。会議の大きな役割のひとつに「決める」ことがあります。「決める」という作業は、もちろん数学的に最適化すればいいような問題はAIに任せられることもあると思いますが、基本的に「人間でなければできない」ことであり、会社という集団で仕事をしている以上「複数人で決めなければならない」ことだと思います。人が決めないといけないことを決め続けるのがたぶんホワイトカラーの最後の仕事になるのではないでしょうか。そこを支援するような製品をつくりたいなと思っていますね。
- ――今後は働き方改革の文脈でSavetime自体も進化・発展していくイメージですか。それともまったく新しいものを開発することになりますか。
- ホワイトカラーの最後の重要な仕事である「コミュニケーションをして意思決定をする」ことの費用対効果を高くしてあげるのがゴールとして達成したいところですね。
- ――Savetimeは、段取りや機能自体がチュートリアル的な感じがしたので、「いまこれをやるのはムダなんだな」と気づかせてくれる印象がありました。Savetimeを使うと、なんとなく集まってなんとなく解散するようなことができなくなりますよね。
- そうですね。まったく準備されていない会議をしてしまった場合に「時間がムダになることが実感できる」ようになっていると思います。逆にいえば、費用対効果の高い会議を行うような行動を促すことを目指しています。ムダな会議が多く、なかなか改善しないのは、会議は適当に開催してもなんとなく時間は過ぎるし、人間はある程度発言するとコミュニケーション自体に満足してしまうからなんです。
- 会議でよく上司が独壇場で延々としゃべるみたいなことってありますよね。参加者はいまいち納得していなかったりしても、たくさんしゃべった上司は満足しているので、また来週も同じような会議が行われる。ましてはそういった会議の時間の費用対効果が可視化されることってないですよね。
- なんとなく会議をやって満足しちゃう、仕事した気になってしまう。そういった会議の悪い側面をなくしたいというのはとてもあります。やるべき準備をせず、会議で出すべき成果を出してないと、会議がうまくいってないと認識できるような環境を提供したいというのがSavetimeを提供している理由でもあります。
RPA*1
Robotic Process Automationの略語で、事務作業を担うホワイトワーカーがPCなどを用いて行う一連の作業を自動化できる「ソフトウェアロボット」のこと。
DX*2
デジタルトランスフォーメーションの略。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」という考え方。