ファシリテーターはイノベーションを起こしたい人がやればいい【スマート会議術第116回】

ファシリテーターはイノベーションを起こしたい人がやればいい【スマート会議術第116回】プロノイア・グループ株式会社 COO シニアコンサルタント 星野珠枝氏

星野珠枝氏はNECグループ会社で、働き方改革、テレワークの推進プロジェクトリーダーを経験。現在はベルリッツ、モルガン・スタンレー、グーグルとグローバル企業で組織開発や人材育成を手がけてきたピョートル・フェリクス・グジバチ氏の右腕としてプロノイア・グループで活躍する。コンサルティング、コーチング、研修を通じて、戦略・人事制度の改革、イントラプレナーシップ・グローバルリーダーシップの育成、組織開発に取り組む。

星野氏は「働き方改革が叫ばれる昨今、“イノベーション”という言葉だけが先走りして実態が伴っていない」と言う。では、何をすればイノベーションなのか。数多くの企業のコンサルティングを通じてイノベーションのサポートをしてきた星野氏に、その本質についてお話を伺った。

目次

一人ひとりのマインドや行動を変えないと企業は変われない

――プロノイア・グループの事業内容についてお教えください。
私はプロノイア・グループの中で、主にコンサルタントとして活動しています。もともとピョートル(プロノイア・グループ代表取締役)がグーグルやモルガン・スタンレーでやっていた人材開発や組織改革などをテーマにしながら、企業変革のご支援をさせていただいています。
最近は特に「企業文化の変革」というテーマが多く、社員一人ひとりのマインドや行動を変えていくことを目指していかないと、なかなか企業自体が変われない。風土とかコミュニケーションのあり方をガラッと変えていくところに差しかかっていると思っています。
会議にしても会議の中から何を生み出していくのか、コミュニケーションのあり方を根本的に考えるときに来ていると思っています。実際、「会議を変えていきたい」とか「社内会議に同席してもらってどこが悪いのかその場で教えてほしい」というお話も多くいただくようになっています。
――働き方改革の一環で会議を変えたいという要望が多いのですか。
ただ会議を変えたいというところも、たどってみるとコミュニケーションのあり方を変えたい、マネージメントを変えたいという背景があります。その症状のひとつとして会議がトピックとして上がってきているのだと思います。
経営レベルで危機感を持っている会社もあれば、現場で危機感を持っている会社もあります。たとえば人事部であれば、人材の流出が止まらないとか、会社が持っている技術の継承がこれからできなくなってくるとか、上から「イノベーション」を連呼されているけれども、具体的にイノベーションってどうやって起こしていけばいいのかわからない。一体何から手をつければいいのかわからないままスタックしているといった、そういう現場もあります。
――「イノベーションしたい」という漠然とした相談もあるのですか。
そうですね。「イノベーション」がまだバズワードの域を出ていない会社は、結構多いとも思います。ただ、イノベーションという言葉に頼らずに、ビジネスモデルを変えていきたいとか、ビジネスの構造自体を変えていきたいとか、具体的にイメージを持たれてイノベーションを語っている会社も結構出てきていると思います。
イノベーションをテーマにしてお話をいただくときって、解がない状態でご相談いただくことが多いです。何かを変えていかなければいけないとか、このままじゃいけない。でも、いまあるアセットの中でどこにビジネスの起点を持ったらいいのかわからない。それを考えるのは限界だから外の知恵を入れて中の人間じゃできないような破壊的な発想・発言を求めています。皆さん守りに入るのは当然なので、そこをブレークスルーする役割として求められます。「思考を飛ばす」という言い方をしているのですが、いままで自分たちの周りになかったような考え方、飛んだアイデア、技術といったものを望んでいますね。
常識的に「それはまずないだろう」って外されそうな発想をあえて持ってくることができるので、人によっては「それはやりすぎでは」「あまりにも自社のビジネスからかけ離れているよ」とか、それぐらい大胆な「飛んだ思考」を持ってくることが、私たちに期待されているのかなとは思います。
――スムーズに改革が進む会社となかなか進まない会社はどこに違いがあると考えられますか。
経営層がリードしているか、していないかというのが一番大きいと思います。現場だけでは動かせることが限られてくるし、スピード感にも問題がある。会社として変革を起こそうとすると当然いろいろなハレーションが起こる。賛成して一緒にやってくれるメンバーもいれば、批判をしてくる人もいる。自分の知識を持ち出しながら、「そんなのじゃ、会社は変わらないんだよ」ってちょっと上から意見してくるとか。あるいはどっちにもつかずに、ただ飲み屋で「あれはないよな」っていう、ちょっとネガティブな発言をする傍観者とか。本当にいろいろな反応が起こるので、最終的にはどこかで「ここなんだよ」という強いリードをしていくのはやっぱり経営陣の役割だと思います。

これからはサプライチェーンマネジメントを崩すくらいの転換をしていかないと厳しい

――大企業がその優れた企業戦略ゆえに滅んでいくジレンマの図式を分析したクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』という著書がありますが、日本の新聞社や百貨店などはその典型だと思います。企業がイノベーションを起こしても、やがてそのイノベーションにがんじがらめになっている状況がありますね。
まさにいま、創業40年の大企業さんと最近お話をしているんですけれど、そういう会社でもベンチャーマインドはあるんです。ただ、現場からアイデアやプチ実験がどんどん上がってきても、会社の仕組みが硬直化してきているのでビジネスにならないというお話をされていました。変革を起こしたいという気持ちで動いていたとしても、それを企業の力に変えていく過程でスタックしちゃう。システム・構造の老朽化はあるかなと思います。
昨年ある飲料メーカーさんとお仕事をさせていただいたとき、「商品をつくって売るだけじゃダメだ。その商品を飲む場を変えて“体験”という新しい価値をつくり出そう」となったんです。飲料店でのオペレーション改革をして、いろいろなデザイン思考を使いながら新しいビジネスモデルを出して、イベントをやったりしながらマーケットからのフィードバックを得ていくというのをやっていたんです。
結構面白いアイデアがいっぱい出てきて、これをPDCAで回していく流れにしましょうとはなったのですが、今年の年明けにトップの方がある記事で年頭訓示を出されているんですけど、「とにかく2020年は、その飲料商品における元年だ」っておっしゃっていて、結局商品というビジネスありきに戻っちゃっていました。なかなか抜けられないんだろうなというのはすごく感じますね。
一方で、山梨県にMGVs(マグヴィス)ワイナリーというブランドがあるのですが、この会社はもともと半導体の製造をやっていたんです。国内生産の半導体の価格がどんどん上がっていって、拠点を海外(アジア)に移すことになり、山梨の工場が空っぽになりました。そこで空っぽになった施設の60%ぐらいを使ってワイナリーにしたんですね。半導体をつくるときの空調とか防塵設備とか湿度管理とか、そういう品質を保つような設備がワイナリーに使えた。それでまったく違う業態にゲームチェンジをした。これからは、こうやってSCM(サプライチェーンマネジメント)を崩すくらいの転換をしていかないと厳しいのかなと思います。

「取りあえず会議しよう」からの脱却

――会議を改革していく上でファシリテーターは具体的に何をしていけばいいですか。
会議を改革しようとなったときに最初にお話するのが、まず要らない会議と要る会議を明確にしていきましょうということです。あらゆるものが「取りあえず会議しよう」という名目の中で、報告会や御前会議も含まれますし、新しいものを生み出していくディスカッション中心の会議もあるし、人事面談もある。いろいろなものがゴチャッと会議というひとつの括りに入っているけど、本当に人が集まって話す意味があるものに絞っていけば、実はやらなくていい会議はたくさんあります。それこそ居眠りしたり内職したりする会議であれば意味がないので、まずはそれを切り落としましょうと。
そういう過程で本当にあるべき会議が残って新しいものを生み出していく。だから新しいものを生み出そうという思いを持った人がリードをしていくのが、あるべき姿だと思っています。そういう思いがファシリテートにつながってくる。
会議で新しいものを生み出すことが求められているからこそ、リードする人がいるかいないかがファシリテーションのカギだと思っています。ただ、会議を改革しなければいけないと言っていても、そこまでファシリテーターの役割が明確になっていないことも多い。交通整理やタイムキーピングなど、なんとなく漠然と会議を生産的にする、活気をもたせる程度のイメージ止まりかなとも同時に感じています。
――ファシリテーターは経験豊富なリーダーがやったほうが適切なのか、あるいは経験の浅い若い人がやってもいいのか。ファシリテーターの役割分担はどう考えますか。
会議での役割は大きく3つあります。ファシリテーターと会議のオーナーとその会議に貢献していく参加者。オーナーが会議に関するテーマの責任をもつ人。これは組織の上に当たる人でいいと思います。ファシリテーターはオーナーの意思をすり合わせながら、現場でみんなを引っ張ってゴールに近づけていく役割。だから、ファシリテーター自身が役職のある人がいいのか、あるいはナンバー2とかナンバー3の人がいいのかという発想からスタートするより、現場のメンバーをいかにリードできる人材かどうかというところで判断をしたほうがいいと思います。
いかに引っ張っていく思いがあるかが巻き込む力があるかになるので、ファシリテーターはそれができる人がやればいい。思いはあるけどリードの仕方はちょっとわからない、マネジメント力に関しては弱いというメンバーもいると思います。しかし、それはテクニカルの問題なので、どんどんファシリテーターの経験をして自分でリードしていく感覚を楽しみながらつけていってもらえれば、すぐにいいファシリテーターに育ってくると思うんですね。年齢とか経験は関係なく、とにかく引っ張っていきたいという思いがある人がファシリテーターになるのが一番近いと思います。
――その声がけは誰がすればいいのですか。
トップが変えていくのが理想ですが、そうならないことも多い。現場から変えていくとなったときには、会議を変えるというよりは現場のコミュニケーションを変えていくところがスタートになると思います。1 on 1ミーティングで上司と部下とで2人で話すとか、その上司とあと部下2、3人で話すとか、こういう小規模小単位のコミュニケーションの中で、「何のためにこの話をしているのかを明確にしながら進めてみよう」とか、「この会議に必要にないものを排除しよう」とか、前提をつくっていって必ず建設的な発言をする。
反対の意見は言ってもいい。ただ、反対をしたからには代案を示していくとか、ただ否定して終わるんじゃないというルールをつくってあげる。全員が一致して決まる会議なんてなかなかない。でも、それではビジネスは進まないので反対はしてもいい。ただ、反対もひっくるめて全員がコミットするというのをゴールにする。
そういういくつかの小さなルールをつくっていく。これを日々のコミュニケーションのルールにしていく。会議室じゃなくても、ちょっと向かいの上司と話す。同僚と話すときには、「その反対に対して絶対に代案を示そう」とか、「否定して終わるのはやめよう」とか、そういうコミュニケーションのルールをつくっていくことで、普段やる会議の中の会話もだんだん変わってくると思います。
――代案のメリットがわかると動きやすいですね。
そうですね。なぜそう言っているのかという意図を明確にしてあげる。強制的にやれって言われてもなかなか進まない。何のためにそれをやるのか。やった先に何があるのか。それを共有した先に次のアクションがいろいろできる。「このお客さんにはこの話を持っていける」「この人とこの人をつないだらすごく喜ばれるんじゃないか」といったことにつながっていくことを丁寧に話してあげる。意図の背景を説明することで「こんな個人的なメリットにつながってくるんだよ」と、イメージを持たせてあげるのはすごく重要だと思います。
あとは個人ファーストではなくて、いかにチームファーストで動くのかというマインドも必要だと思います。仕事をしている以上は感情とか、状況とか、それぞれ持ち合わせている事情があるわけですが、それをあまり持ち込み過ぎるとチームとしての動きに支障を来してしまう。集まっている以上はチームに対して自分が貢献できることは何なのか、自分の力で役に立てることは何か、というマインドをもってもらうのは、日々のマインドセットの中で重要になってくるかと思います。

文・鈴木涼太

星野 珠枝(ほしの たまえ)プロノイア・グループ株式会社
プロノイア・グループ株式会社コンサルタント。元NECグループ会社で働き方改革、テレワークの推進プロジェクトリーダーを経験。自社実践に基づく企業、官公庁向けコンサルティングに従事。自社では、人事制度設計・組織開発コンサルティング、企業研修、セミナーを行う。

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