徐東輝氏は弁護士の傍ら、学生時代に立ち上げた「政治×テクノロジー×教育」を軸に事業を展開するNPO法人Mielka(ミエルカ)の代表理事も兼任。また、弁護士としてはIT企業をはじめ、数多くのスタートアップ企業の業務支援に携わる。
円卓会議、ホラクラシー、ティール、OKR、フォロワーシップ、多様性……。徐東輝氏の口から出てくるキーワードはどれも、先行きの見えない現在の時代背景を如実に表している。
徐東輝氏が挙げたこれらのキーワードにはどんな意味が込められているのか。それは会議、ひいては組織改革においてどんな役割を果たすのか。VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)時代に生き残るための経営論・組織論について語ってもらった。
ホラクラシー組織とティール組織の使い方
- ――徐先生は円卓会議*1を重視しているとのことですが、円卓会議にはどんな特徴とメリットがあるのですか。
- 大学院時代に立ち上げたNPO法人Mielka(ミエルカ)がヒントになっています。Mielkaは社会人も学生もいるので、学生はみんなサークル感覚でやっていますし、社会人は複業でやっているんですね。年齢もバラバラですし、やっていることも立場も全然違う人たちばかり。
- Mielkaは僕が代表ということだけが決まっていて、あとは何も決まっていないんですね。わざとそういうふうにしていて、ホラクラシー組織*2とも言われますが、プロジェクトとか何かが起きるたびに、やりたい人が集まって、みんなでわちゃわちゃやっていく形にしているんです。職務上ではなく、純粋に人が楽しいことをやるために集まっている組織、自己実現の場所にしたいのでそうしているんです。
- 法律事務所でも同じようにしていて、弁護士は期(弁護士資格を取った年)によって上下関係がはっきりしているのですが、わざと期を意識させないようにしています。50期も70期も同じ場所にいるので、全員同じポジションで語れるようにするんです。そうすることで期に関係なく全員が平等に発言できて、全員が同じ視点で価値提供ができる仕組みにしています。
- それが多分、経営としても正しいものだと思っています。上に気を遣って何かを言えないとかあり得ないと思うんですよね。というのが円卓会議の考え方で、それがいい会議と思ってやっています。
- ――会社の規模・業種関係なく、普遍的にそういう枠組みのほうがいいのですか。
- いや、会社の規模や業種によって変えるべきだとは思っています。最近はティール組織*3もトレンドですが、これは専門職に強いんです。法律事務所は専門職の集まりなのでティール組織がすごく合うと思います。それぞれがプロフェッショナリズムをもってやっていて、それぞれに意見があり、かつプロジェクトごとに専門職で集まれるような組織だといいんですけど、ひとつのサービスでプロダクトを持って、ピラミッド構造になっている組織もある。そういう会社ではむしろ導入すると死ぬ可能性すらあると思います。
- 上意下達とまではいかなくても、トップダウン型で成立するピラミッド組織もあります。私が弁護士として支援させていただいている会社の多くもそうですが、一番上に経営陣がいて、部署があって、ピラミッド組織があって、しかし同時にトップダウンもあればボトムアップもある。いい具合の組織になっているんです。部署を横断するような組織形態もつくれるようになっていて、いわゆるピラミッドとホラクラシーの中間みたいな組織をつくっているんです。素早い意思決定をして、すぐに進んでいかないといけない組織においては、ピラミッドでトップが決めていくこともわりと重要だと思います。
- ――GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる企業も、ピラミッドとホラクラシーのいいとこ取りで成功しているように見えます。
- そうだと思います。Tech Giantと呼ばれる企業は、GAFAのみならず、多くが組織論を研究し、良質な組織形態を研究していると感じます。というのも単純な縦割りで進められる世界ではなくなっており、さまざまな部署を横断的しないといけないプロジェクトが少なくないため、ホラクラシー組織とピラミッド組織を組み合わせたさまざまな組織形態が試行されていますね。
- ティール組織もちょっと特殊なケースが多い印象はあります。看護師組織だったり介護領域だったり、個々人が個々としてパフォーマンスを発揮できるような特殊領域の業態だと、すごくやりやすいものかなって思います。
円卓会議*1
参加者間の相互関係や席次の明確化を避けるなどの目的で円卓を用いて行われる会議のこと。ソ連崩壊間際の1980年代末に東欧で大きな潮流となり、一党独裁体制崩壊後の民主化・政権移行を実現させた。
ホラクラシー組織*2
組織を成す人の立ち位置がフラットで、個人の主体性を高める組織形態。
ティール組織*3
上からの指示系統がなくても、目的のために自ら進化する組織のこと。メンバー一人一人が自分たちのルールや仕組みを理解して独自に工夫し、意思決定をしていく。