会議は最高の研修の場【スマート会議術第104回】

会議は最高の研修の場【スマート会議術第104回】SHINBI取締役副社長 印象戦略家 ちとせ氏

印象戦略家という肩書で、脳科学と心理学に基づいた独自のメソッドを確立。経営者をはじめ、医療、不動産業界などで多くの支持を得る。

人の印象を変えることは、コミュニケーションを変え、会議を変え、会社を変え、社会を変えるーーそんな信念の下、印象戦略家のちとせ氏は「会議は効率だけを求めるものではない」と、一見ムダと思えることも会議で取り組むべきだと言う。

はたして、人材育成の視点から見た会議に求められるものは何か? ちとせ氏にとって、理想の会議とはどんな会議なのか、印象を変えることで会議はどう変わるのか、お話を伺った。

目次

変わるためには成功体験をたくさん重ねる

――印象戦略には、脳科学と心理学に基づいたメソッドがあるとのことですが、具体的にはどういうメソッドですか。
昔、研修をやらせていただいたときに、なかなか結果が出なかった時期があったんです。どうやったら人が動くのか、どうやったら研修をやった内容を定着させられるんだろうって。1回研修をしただけでは、「楽しかった」「盛り上がった。なんかモチベーション上がった」で終わってしまって、3カ月後にまったく変わっていないのがすごく悔しかったんです。
どうやったら学んだことを実践して定着していくのか、脳科学の仕組みを活用してみたらどうなるのか考えました。
たとえば、ショックを受けさせる研修もあるんです。ムービー撮影をして自分の話し方を見て「うわっ、すごく嫌だ」という経験をされた方はいると思います。歩く姿を横から前から後ろからと撮影する。そんな自分を見るのもショックです。あとは、人から見た良い印象と悪く見える印象をワークを通して語り合ってもらいます。マイナスの部分もあえて人から言ってもらうと、チクっとショックを受けるんですよね。
そのチクっというショックも変わるきっかけになるんです。このままじゃダメだっていう感情を味わってもらい、うれしいっていう経験をしてもらいます。楽しい、うれしいという感情は脳に残るので、それをうまく活用して成功体験をいっぱい重ねる。うれしい経験は気持ちがいいから何度もやるんですよね。
これを続けていたらできるといっても、たいてい2週間で忘れるんです。なので、必ずすべての課題を定点チェックするというプログラムが6カ月間あるんです。
6カ月という期間と、コンテンツの中に「インパクト」と「繰り返し」を入れる。それが脳科学と心理学をベースにしたプログラムです。6カ月の間に思考まで変わらないと学びは定着しない。仕組み化しないと研修をやっても意味がないんですよね。

会議に必要な外的環境と内的環境

――脳科学と心理学的見地から見て、雰囲気の悪い会議の主な原因は何だと考えられますか。
会議を進行する上でやってほしいと思うことは2つあります。ひとつは外的ステート。外的な状態、つまり環境をよくしておくこと。そして、内的環境です。いい状態をつくる意識をもって臨むというのは、とても大切です。
緊張させる雰囲気をつくる会議ってありませんか。たとえば全員が揃ったあとで、社長が遅れて登場するとか。最初からその場にいて横に並んで一緒に話していたほうがいいんです。会議が始まる前に社員の横に立って、「最近、調子どう?」って、会議の場所に最初から場の中に自分を溶け込ませてペーシングする。ペースを合わせておくという外的環境づくりの工夫ですね。
たとえば、私の会社はほとんどが女性の職場なのですが、女性が10名近く会議に参加するときには、自社にある広いピラティススタジオでやるんです。きれいな円を描いて、マットの上に座るようにします。
会議もなるべくみんなが集まる前にスタジオにいて、「最近どう」とか、「調子いい?」とか、「最近プライベートって充実してる?」など、会議にまったく関係ない話から始めるようにしています。
そうすると、すでに口は開いているし、何か自分の話をしなきゃいけないと思うからしゃべるんですよね。そうすると、その延長線で会議でもしゃべりやすくなっているんです。
会議の最初の10分間はアイスブレイクタイムで、一人ずつ必ず今週の良かったことを話してもらいます。「今週の良かったこと」を言うと、ポジティブなアンテナが立って、ポジティブな言葉が心の中にあふれるから、いい空気感が出るんです。
うちの会議も最初は緊張感があったんですよ。私があとから入ってきてセンターや一段高いところに座っちゃったりして、「はい、じゃあ始めるね。今日の議題は何?」といきなり始める。やっぱりみんなピクっと緊張しちゃう。指されるかもしれないという緊張感をつくっちゃうので、とにかく緊張しないための外的環境づくりというのは、すごく工夫しています。
怖いと思われる社長さんになればなるほど、それをしていないように思います。会議もみんなが揃ったら社長さんが最後に登場するとか、自分が一番目立つ場所に座って、みんなが一方方向を見るという会議の進め方をしている。

「そこに愛はあるのか」

――働き方改革の文脈で、会議は時短ばかりが重視されている印象があります。時短だけで効率化や生産性の向上が図れるものでしょうか。
私は「そこに愛はあるのか」ってよく聞きます。「お客さまに愛ある?」とか、「仲間に対してその行動って愛がある結果?」って聞くと、「愛があるかと言ったら自分ゴトでした」とか、「私がちょっと早とちりました」というのに気づく。
「そこは私なりの愛です」っていうことを言われると、今度は私が、「なるほど。そういう愛の表現はあるね」と気づきをもらう。「そこに愛はあるのか」「お客さまに愛があるのか」「難しい、無理」という意見が出たら、「じゃあ、やれる方法を考えよう。どうしたらできる?」っていう、いつもそこしかない。
すごくいい会議をしていると思えるのは、みんなが場づくりをするときです。なので、私たちは終わって別れるときハグをするんですよ。「今日もお疲れさま。ありがとね」って、帰るときに、みんなハグしちゃうんです。私もスタッフにはなるべくボディタッチをして、「お疲れちゃん。元気だった?」と「距離近いよ。あなたのこと気にしてるよ」のサインを、大げさすぎるほどやっています。
――会議のテーマが、「そこに愛はあるのか」ってステキですね。
うちは人材育成の会社なので、「育まれる」ということをすごく大切にしています。お客さまも私たちも育まれて、成長させていただく。それがベースなので、私にとって会議は最高の研修の場だと思ってるんです。
会議はスタッフが育つ場所だと思っています。人が育てば会社が自然に育つ。そこに自分の考えだけを押しつけていたらうまくいかない。もっともっと愛をもって関わっていったら育つし、愛をもってお客さまに接してくれる。
会議の時間でサプライズの誕生会が始まるときがあるんです。「今日、誕生日会やっていいですか」「いいよ、いいよ。10分ね」って言っても、30分かかるときがあるわけですよ。
それは決してムダな時間ではなく、そこからチームワークがすごく良くなったり、開催するにあたって事前にいろいろ考えている間に仲間意識やチームワークが育まれたりする。仕事以外のところでも、そういうことを考えてくれる時間が増えるのは、組織としてすごくありがたいと思うんです。だから、「そこに愛はあるのか」というのは常にテーマですね。
もちろん、論理的、効率的にということも、すごく大切です。でも、その効率を上げる方法のひとつとして、愛をもって関わっていって、その結果、効率的に変わってくるというのがあるんです。
私も効率性を求めるし、せっかちなので、ときどき我慢することもありますよ。「ここは早く、ここは効率良くやろうよ」って思うときもあります。だけど、こういうときに自分は嫌な感情が起きるというのが気づきになることもある。どうやって効率を上げていくかは私が考えることで、みんなに「効率上げてね」って言うことじゃないと思ったんですよね。
効率を上げて仕事ができるように育んであげる環境づくりが私の役割だから、そこを「効率良く会議してね」というのはおかしな話だなと思ったんですね。

印象戦略は「相手矢印」

――印象戦略で最も気をつけるべきことは何ですか。
「相手矢印」というのは常に伝えています。矢印が相手ですよって。印象戦略というと、自分の印象を良く見せるとか、ブランディングで前に出るといった自分に矢印が向くようなイメージですが、根本は相手矢印なんです。
相手に安心していただくとか、相手が心地よくいるために、自分がその場でどういう表現をしますかということなんです。プレゼンも聞き取りやすくとか、理解しやすいように準備するじゃないですか。それと一緒です。
相手に矢印を向けて、自分プロデュースじゃなくて他者演出ですよという話をします。他者をより快適に、聞き取りやすいように、キャッチしやすいように、瞬時で理解してもらえるように体現しましょうねというのが、他者演出だと伝えています。
――印象戦略家として、将来的なビジョンは何ですか。
印象戦略は人を育むというツールにすぎないと思っているので、印象戦略家としてというよりは、常に人を育めるような人として活動していきたいなっていうのはありますね。
経験談を中学生に話すと「ちとせ先生みたいになりたい」とか、「ちとせ先生みたいに自分も乗り越えていきたいんだ」というメッセージをたくさんいただきます。
中学生が私の印象戦略の話を聞いて何か感じてくれる。そう思ったときに、私というフィルターを通して、誰かに何かを伝えるときに刺激や影響を与えられるというのは、ずっと生涯かけてやっていきたい。仕事で結果を出す人はもちろん、これから仕事をしていくであろう若い方たちの育成ですね。印象戦略というツールを通して、人は変われるということを伝えていきたいです。
一般社団法人 プレゼンテーション協会
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/

文・鈴木涼太
写真・大井成義

ちとせ(ちとせ)SHINBI
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
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