行動と言葉の習慣で人は変わる【スマート会議術第103回】

行動と言葉の習慣で人は変わる【スマート会議術第103回】SHINBI取締役副社長 印象戦略家 ちとせ氏

印象戦略家という聞き慣れない肩書をご存知だろうか。英語ではイメージコンサルタントと呼ばれることが多い。

ちとせ氏は、脳科学と心理学に基づいた独自のメソッドで、ビジネスを理想の結果に導く日本で唯一の印象戦略家である。年間300の講演や研修を通じて5000人のビジネスステージを上げている。

一般社団法人プレゼンテーション協会の理事も務めるちとせ氏に、プレゼンテーション、ひいてはビジネスにおける「伝えるための印象戦略」とは何か、お話を伺った。

目次

日本唯一の印象戦略家という肩書に込めた思い

――印象戦略家になられた経緯をお教えください。
もともとは幼稚園の先生をやっていました。幼稚園の教諭を経てスポーツクラブのインストラクター、英会話教室のアシスタントなど、ずっと教育に関わる仕事に携わってきました。
16年前に起業したとき、最初はウォーキングスクールを立ち上げたのですが、なぜか立ち居振る舞いやマナー、ファッションなど印象に関わることを教えてほしいというニーズが多かったんです。
いわゆるイメージコンサルタントに近い職になるのですが、日本ではまだ認知度が低くて、カラー診断やファッションを提案するイメージが強いんです。でも、イメージコンサルタントは本来、ビジネスパーソンが営業成績のアップにつなげたり、リーダーとして結果を出したりするための印象のマネジメントができる手法のことです。
海外だとよくエグゼクティブ層がメディア戦略としてイメージコンサルタントをつけます。私は海外で活躍されている先生がニューヨークにいたので、先生の下で勉強をするためにニューヨークへ行きました。戻ってきたタイミングで、印象戦略というメソッドを自分でオリジナルにしました。
――印象戦略家という肩書はインパクトが強いですね。
海外ではイメージコンサルタントは、肩書として成立しているものですが、日本だとどちらかというと女性がきれいになるためにコンサルティングをされる方が多いですね。そこがどうも自分には合わなくて、もっとアカデミックでビジネス寄りににしたいと思っていました。イメージコンサルタントでは発信力も弱い。もっと成果が出るための印象のマネジメント方法をお伝えしていきたいという思いで、約10年前に“印象戦略”というメソッドとして確立しました。
――イメージコンサルタントは、アメリカの大統領や政治家に話し方や表情、ファッションをアドバイスする専門家のイメージがありますが、日本ではあまり浸透していないですよね。
やっと少しずつ出てきてはいるのですが、そこにお金をかけるという認識がないのと、まだイメージコンサルタントの認知度が低いのが理由だと思います。ビフォー・アフターが形のない見えないものだから、商品として扱いづらいというのが実際、私もやっていて思います。

価値と信頼は「かけ算」

――お客さんはどういう方が多いのですか。
主に経営者やお医者さんなど人と深く関わる方が多いですね。たとえばお医者さんが、患者さんとのコミュニケーション時に怖い印象を与えてしまって、伝えたいことが伝わらずに誤解を受けてしまうとか。患者さんからの見られ方をより良くして、自分の仕事をスムーズに行いたいという方ですね。
――お医者さんって患者にとっては名医かどうかってわからないから、印象が良いか悪いかで信頼感が変わってきますよね。
そうなんです。印象戦略が扱うサービスの価値と信頼は「かけ算」だと私は伝えています。「価値があっても、それを扱う人の信頼がゼロならゼロですよ」っていうお話をしていて、どんなに価値のある知識や技術をもっていても、「この先生は嫌だ」って思われたらブレーキがかかってしまう。印象戦略は、価値と信頼の両方を高めていくメソッドだと説明しています。
お医者さんや看護師さんの印象が一瞬でも悪いと、「この人の注射は雑に違いない」とか、その先のスキルまでイメージしますよね。だから、扱うサービスや商品の価値が伝わるような信頼は得なきゃいけないと思うんですよね。
――看護師さんをコンサルティングすることも多いのですか。
セミナーが多いですね。研修で看護協会や大学病院などで呼ばれて、講演でお話させていただくことが多いです。最近は特に医療関係は増えましたね。
――他にはどんな業界や職種の方がいますか。
あとは住宅メーカーのような高単価商品を扱う営業の方や設計の方も多いです。お客さまと打ち合わせをするときに、設計士ならいかにもおしゃれにしてくれるだろうとイメージするじゃないですか。なのに設計士らしからぬ服装で印象を悪くしたらもったいない。そういったところを改善したいというご依頼で、年間研修で印象戦略を導入していただいたりすることが多いですね。
見た目への配慮があるということは、相手のことを考えることだと思うんです。自分をおしゃれにするというよりは、その人の扱っている商品を体現することだから、見えないものを売る営業や専門職の方は特に多いかもしれません。
素晴らしい技術があればあるほど、その技術に見合ったパフォーマンスが必要だと思うんですよね。ファッションはツールのひとつに過ぎません。それこそプレゼンも話し方もその人が扱う資料も印象戦略の一環です。

キャラクターを変えることはNG

――印象戦略の典型的なプログラムがあればお教えください。
基本的には個々人に合わせてカスタマイズをするのですが、まずカウンセリングをして、何を解決してほしいのか問題・課題を洗い出します。そして、大体は対人関係が課題になるのですが、その対人関係に対して、どんな印象を与えているかという印象分析から始まります。
印象分析から役割、立場、環境、未来に向けて、どういう印象のマネジメントをしたらいいか戦略を立てさせていただきます。それをどういう方向で進めるかマトリクスを活用してご提案します。
マトリクスでは、「ソフト、ハード、ウォーム、クール、軽やか、若々しい、冷静、落ち着いた、威圧的、情熱的」などの事象のどの位置に役割としてもっていったらいいか、現在どうしてそう見えているかという課題を全部提出します。
たとえば、本当は情熱的に物事を伝えたいのに、いつも冷たいとか怖いというイメージに見られるのが悩みだと、「どうして怖く見えるのか」「どうして威圧的に見えるのか」という理由をすべて分析した結果をレポートにしてお伝えします。
「じゃあ改善方法はこれですね」と提案させていただく中に、プレゼンであったり、話し方であったり、ときにはファッションや髪型などを変えていたくこともあります。そのコンテンツをその方に合ったものでご提案させていただくのがベースにあります。
――性格を急に変えるのは難しいと思いますが。
キャラクターを変えることはNGなんですよ。いきなり「スティーブ・ジョブズみたいにプレゼンしてください」と言ってもできません。そういうことではなく、その人の持っている魅力が最大限に生きる方法を戦略立てするのです。
印象にはプラスもマイナスもあるので、それを「どうしてそう見えるのか」というところで、「愛想笑いはできない」と言う人に、「明日から笑ってください」とアドバイスすることは簡単です。でも、「愛想笑いをしない」というキャラクターは、落ち着いている、物静か、冷静といったポジティブな一面でもあるのです。
たとえば、わざわざ愛想笑いをしなくても、柔らかく優しい印象を与えられたらどうでしょうか。たとえば四角の銀縁メガネをラウンドにする。顔の中に曲線が増えると人は無意識に丸に安心感を覚えるので、怖いよりも先に安心感を覚えてくれる可能性が高まるんですね。そういったアドバイスをします。
――大前提としてキャラクターを変えるわけじゃないのですね。
キャラクターを変えることは、その人の過去の経験や思考までを変えることなのですごく難しいです。だから、できる限りその方のキャラクターを生かしながら、ポジティブに転換していく方法を探っていきます。

人の印象が変わる「インパクト」と「繰り返し」

――年配の方やプライドの高い方は印象を変えるのは難しい気もします。
人の印象が変わる要素には、「インパクト」と「繰り返し」の2つがあります。インパクトを受けると、人は変わりたい、変わろうって思うんですね。たとえば、頑なに「変わるのは嫌だ」という人にショッピングに同行していただいてすべてを変えるんです。
買うか買わないかは別として、服を試着してみる。そうすると「自分ってこんなに変われるのか!」となった瞬間にバチッとスイッチが入るんです。変わりたい願望に変わってくると、自主的に変わる要素を求めてくるんです。
その方が頑なに「変えたくない」というポイントは守った上で変える方法を考えていきます。ご年配の方でも変わる要素はたくさんあるし、実際に変わっていく方も多いです。60~70代の方でも素直に変わろうとする方はいらっしゃいます。
――第三者だからこそ気づかせられることってありますね。特にファッションなんか、自分の好きなものばかり選びがちになりますからね。
それがインパクトです。似合うんだという気づきをもってもらうことは、すごく大切にしています。
思考の習慣が変わるのは6カ月と言われているので、6カ月のプログラムが多いです。6カ月間なるべく多く関わりをもって、今日はどういうコーディネートにしたかを毎日写真で送ってもらうんです。
「朝、なぜその洋服を着ましたか」
「今日は誰々さんに会うから、こういう戦略でこの洋服を選びました」
「じゃあ今日のプレゼンでどんなお話の仕方をしましたか。何に気をつけましたか」
といった感じで6カ月間しつこく私に質問されると、「今日はプレゼンの前に、こういうことを意識してお話しよう」「今日はプレゼンの前に最初にちょっと笑ってから話し始めよう」と、思考の習慣がついて行動習慣が変わってくるのです。
お客さまから反応があったり、人から評価されて成功体験を積んだりすると、「こんなに面白いんだ」ってなる。思考の習慣が変わると、あとはもう自動運転でいけるんです。
ファッションの提案を1回して終わりではなく、そのあとのほうが重要なんです。インパクトを与えて繰り返し関わっていく。繰り返し伝え続けていくことと、繰り返し気づきを与えるような関わり方をしないと、本質的な印象は変わらないんです。

ファッションは印象戦略のツールでしかない

――「印象が変わった」というのは、周りの反応が変わってきて初めて実感するわけですね。
そうです。ご本人が気づくことが一番だと思っています。周りが「変わったよね」と言っても、自分で気づかないうちは、まだうまくいってないんですよね。「言われるけど自分じゃわからない」と言っているうちは本当に習慣化されてない。
大体3カ月ぐらいまでは恥ずかしがりながらやっていくんです。でも、だんだん人から「そのメガネいいね」「最近明るくなったね」「変わったね」といっぱい評価を受けるようになってくる。そういうポジティブな成功体験が得られると、うれしいじゃないですか。
そうすると、「今度プレゼンでお話しするときに、最初だけじゃなくて、最後に感謝の気持ちを伝えようと思うんだけど」って思考まで変わってくるんです。人に対して自分の気持ちを伝える意識に変わっていく。
ファッションはあくまでも印象戦略のひとつのツールでしかありません。そこには自分の伝えたいことがベースにあるので、ファッションをおしゃれにすればいいというわけでもない。だから「地味めにいきましょう」と言うときもあるし、「今日は華やかでいきましょう」と言うときもあります。
パーティーだったら会場にいらっしゃるお客さまがどういう方で、自分がどういう立ち位置でどういう結果を出したいかによって選ぶ洋服も違うので、似合うか似合わないかではないんです。プレゼンをするときも、話す人が目立ちすぎてもダメだし、その商品に似合っていなくてもダメなんです。

笑顔ひとつで人生が変わった

――プレゼンテーション協会の理事になられたきっかけは何だったのですか。
最初は自分自身がもっているメソッドをブラッシュアップさせたいと思ったときに、プレゼンテーション協会の前田鎌利さんをご紹介いただいたのがご縁です。そこで鎌利さんの「念いを伝えるーー今の心と想いを伝える」という言葉にすごく共感しました。伝えたくても伝えられない人って世の中にいっぱいいる。だから伝えられる経験、自分の想いを伝えられる経験をしてほしいなとすごく思いました。
実は子どもの頃、私はいじめられっ子だったので、自分で自分の意見を伝えることができないまま育ったんですよ。出っ歯を気にして、歯を出すことも笑うこともできなかったですし、自分の意見を人に言ったり、歯を見せたりしたらいじめに遭うってインプットされていたから、伝えるどころか歯を隠すのが習慣だったんですよね。
人生の中でずっと嫌われたくないって生きてきたのが、初めて好かれたいって思ったのが22歳のときでした。人に好かれたいって初めて思ったんですよ。
――何がきっかけで「好かれたい」と思うようになったのですか。
スポーツクラブで働いていたときに、名指しで「態度が悪い」ってクレームをもらったんですよね。自分では嫌われないように努力をしているのに、名指しでクレームをもらったんです。
やっぱりトラウマがあるから、自分をいじめなそうな、おじいちゃん、おばあちゃんとしか会話をしなかったんです。そうしたら、「挨拶もしないし態度も悪い。何もしないでいつも突っ立っているだけ」と。おっしゃる通りなんですけど、「嫌われないように生きているのに、なんでこんなに人は私を嫌うの?」と、いつも悔しい思いをしていました。
そこで、人に好かれる人は何が違うんだろうと、人気のインストラクターをじっと見ていたら、すごく笑顔がステキなことに気づいたんです。
はっと気づいて、そう言えば私には笑うという習慣がなかった。小さい頃はたくさん笑っていたはずなのに、なんで笑わなくなったかっていうと、出っ歯が原因で歯を隠していたからだ、とわかったんですよね。
そこから毎日、笑顔の練習をしました。歯を見せて笑うという行動習慣の練習ですね。毎日続けていたら、ある日「こんにちは」って言われたお客さまに「こんにちは」って返したら、「あなたの笑顔ステキね」って褒められたんです。「やだ、そうなの?」と思って、笑顔で挨拶をすることを続けて習慣化したんですよね。
そうすると、私から笑顔で「おはよう」って伝えたらみんなが返してくれるし、「ありがとう」って言ったら返してくれる。「自分が変わると、周りの人もこんなに変わるんだ」と気づいたのが、印象戦略の原点になっているんです。それをやっていたら、1カ月に6人の男性に告白されたんですよ。すごい成果だと思いませんか(笑)。
一般社団法人 プレゼンテーション協会
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/

文・鈴木涼太
写真・大井成義

ちとせ(ちとせ)SHINBI
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/
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