アマゾンの躍進を支えるリーダーシップ理念とは?【スマート会議術第87回】

アマゾンの躍進を支えるリーダーシップ理念とは?【スマート会議術第87回】エバーグローイングパートナーズ株式会社 代表取締役 佐藤 将之 氏

驚異的な成長を続けるアマゾン。その原動力となっているのは顧客第一主義。そして、その思想を支えるのがアマゾン創業者のジェフ・ベゾスが打ち出したOLP(Our Leadership Principle/リーダーシップ理念)14カ条だ。

佐藤将之氏は、アマゾンジャパンの立ち上げから15年間にわたって同社を支えてきた“アマゾニアン”のひとりだ。佐藤氏にとってOLP(リーダーシップ理念)とは、何だったのか。その理念は企業の成長戦略、ひいては会議のあり方においてどんな意味を持ってきたのか。

アマゾンでの経験を生かし、現在は経営コンサルタントとして活躍する佐藤氏に、アマゾンの“憲法”であるOLP(リーダーシップ理念)について語ってもらった。

目次

経営者の意識がなければ会議に参加する意味はない

――アマゾンジャパンに15年間勤めて、どんな点が日本企業と一番違うと感じましたか。
アマゾンというと、物珍しい会議の仕方がわりと取り沙汰されることがあります。でも、それはあくまでも表層の仕組みでしかありません。実はそこはそれほど大事ではない。
そこに何かすごいマジックがあるんじゃないかと、皆さん思われているのですが、全然そんなことはありません。アマゾンは基本を真面目に着実にやる会社です。それを諦めないで継続しているだけなのです。
――その根底にあるものは何ですか。
OLP(Our Leadership Principle)という、リーダーシップ理念が全体に大きな影響を与えているんです。
以下がOLPの14項目です。
・Learn and Be Curious
・Obsess Over the Customer
・Take Ownership of Results
・Invent and Simplify
・Leaders Are Right – A Lot
・Hire and Develop the Best
・Insist on the Highest Standards
・Think Big
・Have a Bias for Action
・Practice Frugality
・Earn the Trust of Others
・Dive Deep
・Have Backbone – Disagree and Commit
・ Deliver Results
特に日本の会社に欠如していると思うのが、「Take Ownership of Results」です。オーナーシップとは、自分が経営者であるかのような感覚で物事を捉え、責任を持って遂行していくことが常に求められることです。だから、「私は一担当なのでよくわかりません」とは決して言えない。
――それは会議にも言えることですか。
会議も同じです。会議に参加した人は、必ずその部署の代表です。だから、部署の代表として出たからには発言する権限を持たされているし、いい加減な発言はできない。もしその人が、部署の代表としてそぐわない意見を言うようであれば出すべきじゃないです。
その人を出したということは、その人に全権委譲している。「あなたの意志はうちの部署の意志だから、うちの部署の意志として話してきなさいね」というのが大前提としてあるのです。
だから、会議に同じ部署の人間が3人も4人も出ることはほとんどないです。1つの部署から1人です。きちんと決定権限を持っている人が少人数で会議に出て、そこできちっと決める。結論の出ない会議はほとんどありません。
――上司が「一応お前も出ておけ」と言うことはないのですね。
いずれその人が抜けなきゃいけないとき、「次回からはお前に任せるから一緒に聞いておいて」というのはあると思います。でも、最初から毎回同じ部署の人が3人セットで出て誰が何を話しているかわからない会議はないです。
部署の責任者として会議に出て、そこできちんと発言をして、正しい方向に導くということをやらなきゃいけない。そういう意識が日本の会議には希薄だと思います。
会議は何かを決めるためにやっているわけですから、本来はオーナーシップを持ってやるのが当たり前。それが中途半端で誰が決めるかわからない。結局、毎回同じ話をして何カ月も経ってしまう。会議のゴールが明確じゃないところと、責任の範疇が不明瞭な状態で会議をすることが、非常に多いと感じます。
たとえば、リーダーシップ理念の「Insist on the Highest Standards」という言葉があります。これは、「リーダーとして常に高い目標を掲げていくことが必要」という主旨です。
「来期の目標をここにしよう」という会議をしたときに、「ここでいいよね」と、なんとなく妥協してはならない。「来年は20%のコストダウンを目標にしよう」という話になったときに、「いや、20%は難しいから15%にしようぜ」って、なんとなく決めようとしたときに、「いや、待て」と。マネージャーたちは「それがお客様にとって本当に正しい行動をしているのか」という義務があるんです。
「我々の目標は20%じゃないのか。それを15%で日和っていいのか?」と、ちゃんと言わないとダメだという考えが、「Insist on the Highest Standards」の中にあるわけです。
それを中途半端にやっていると見透かされるんです。「きちんと自分たちでできるところを最大限で出していきましょう」ということです。
お互いに正しい方向を向いて高い目標を目指していないと、会議も目標設定も、「大体95%ぐらいできてればいいじゃん」という話になってしまう。目指さなきゃいけないのは100%です。予算を組んで、「これだけやります」と言ったら、100%達成することが目標なんです。すべてにおいてOLPの考え方というのが埋め込まれている。それをみんなでフォローしているのがアマゾンの仕事の仕方です。
初期のアマゾンの会議では必ず空席のイスがありました。これはお客様がその席にいるという意識を高めるための架空のイスです。そこにお客様がいたら「95%でいいんじゃないの」とは口が裂けても言えませんよね。アマゾンを貫いている顧客第一主義とはそういうことなんです。

会議は「2枚のピザ」分がちょうどいい

――会議への参加人数がムダに多すぎることもオーナーシップの欠如につながりませんか。
アマゾンにいた初期の頃ですが、私と上司の2人である会社との打ち合わせに行ったんです。「こちらからは2人で行きます」と連絡して行ったら、向こうは15人出てきたんです。広い会議室で、2対15で対面してずらーっと並んでいる。誰が何の担当かまったくわからない。誰に話をすれば先に進むのかもわからない。とりあえず、話すだけ話して帰りました。
「これじゃ何も決まらないよね」と、帰り道に2人で笑うしかなかったんです。アマゾンには「2枚のピザ理論」という考え方があります。「2枚のピザを食べられる人数で十分」ということです。最大で6~7人です。6部署から1人ずつ代表者が出てきたら大体のことは決まるんです。
だけど日本の会議だと、各部署から3人ぐらいが出てくる。その人たちは単純に労働時間で割ったら1時間に何万円も払われている。低い人でも何千円か払われている。それが、その会議に同席するだけで会社としてムダに消費されているわけです。何の貢献もしない人が、ただ席に座っているだけで、「よくわからないけど参加しています」と、仕事をしている感じで終わってしまっている。すごく効率が悪いですよね。
――アマゾンは会議自体も少ないのですか。
実はアマゾンは会議は多いです。私も倉庫のオペレーションの代表をやっていたときは、1週間の半分は会議でした。ですが、ただ参加すればいいという会議には、基本的には出ないです。会議の招集がかかった瞬間に「これは出なくていいよね」という会議には、基本的には行きません。もしくは、誰かを代理で出していました。
自分がそこに行っても何も貢献できない会議なら、参加しても意味がない。「ただ聞いておいて」だったら議事録で十分です。決定する権限が持たされていないのに、出ても意味がない。
アマゾンでは、アウトプットに貢献できるかどうかによって、会議に出るかどうかを自己判断できるんです。もし出ないと言って、「それは困る」と言われたら、「何のために自分がこの会議に必要なの?」と聞くことができます。会議のオーナーの説明に納得できれば参加します。「とりあえず聞いておいていただきたいです」ということだったら、上司部下関係なく断るケースも普通にあります。

異論があれば反論し、そしてコミットする

――他にもOLP(オーナーシップの理念)で会議に反映される理念はありますか。
「Have Backbone – Disagree and Commit」もそうですね。「自分の思いを持って、間違っていることにはきちんと反論しなさい。議論を尽くした上で、納得したらそれに対して100%コミットしなさい」という意味です。
言っていることが違うと思ったら、「それはおかしいよ」「それ違うんじゃないの?」というのは、当然言わなきゃいけない。それを言って、向こうから「いやいや、そうじゃなくて、こういう意味だから」と説明されて納得したら、100%の力を使いなさいというのは、必ず決め事としてあるわけです。
あとから、「俺はあのとき言わなかったけどさぁ。ダメだと思ったんだよね」って日本の会議だとよくあるんです。とりあえず会議に出ているけど、何も言わないで、「これ上手くいかないよね」と。実際にそれをやってみて失敗すると「ほら、だから言ったじゃん」と言う人がいる。そういうことをアマゾンでは許さない。
会議のオーナーたちは、「おかしい」と言われている限りは先に進めないから反証する。だから、データを持ってきたり、その人がYESと言えるような資料をきちんと揃えたりして、そこで話を進めることを当然やらなきゃいけない。
――定例で「そろそろ時間だから、終わろうか」という終わり方はしないのですね。
週1回あるような定例会議はそんなに多くないです。大きい定例の会議には、KPIの進捗状況を確認する「メトリックスレビュー」という会議があります。世界共通で前週のパフォーマンスを確認する定例会議はあります。KPIを見ていくことによって、会社が正しい状況にあるかどうかを常に確認していく作業です。
それ以外の定例の会議は少ないですね。何かプロジェクトがあれば、プロジェクトの定例会、進捗会議があります。たとえば、新しい倉庫を立ち上げとなると、週に1回その関係者が集まって、「いまどういう状況ですか」と確認していく進捗会議があります。週1回の定例報告会みたいな会議はあまりないのが基本です。
上長が部下を集めて報告させるような定例会議も極力少なくする方向でやっています。なぜなら、上長は各人から報告を受けるので1人が発表しているときは全員何もしていない状態です。結局メールを打っているんです。他の人の話なんてみんな聞いていないですから。
であれば1on1ミーティングをやって、1人ひとりと面接したほうが早い。だから、1対1でミーティングをして、その中で問題解決や進捗確認をしていくことが基本です。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

佐藤 将之(さとう まさゆき)エバーグローイングパートナーズ株式会社
エバーグローイングパートナーズ株式会社 代表取締役。1993年米国ウェストバージニア州立大学卒。1994年 セガ・エンタープライゼス(現セガホールディングス)入社。生産管理部門にて家庭用ゲーム機のハードウェア、ソフトウェアの生産管理業務に従事。
1999年にSega of America, Inc.へ出向。2000年アマゾンジャパン入社。
サプライチェーン部門にてサイト立ち上げのための調達システムの立ち上げ、および物流設計を行う。2016年退社。現在は、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。著書に『アマゾンのすごいルール』『アマゾンのすごい問題解決』『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』がある。

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