1on1は一人ひとり、個別の状況に応じて対応すること【スマート会議術第78回】

1on1は一人ひとり、個別の状況に応じて対応すること【スマート会議術第78回】ビジネスコーチ株式会社 常務取締役チーフHRビジネスオフィサー 吉田 寿 氏

いま、米国シリコンバレー発の1on1ミーティングが注目されている。

1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う対話のことで、「短いサイクルで定常的に実施する」ことが特徴だ。では、通常の面談と1on1の違いはどこにあるのだろうか? その目的は何なのか? なぜいま1on1ミーティングが注目されているのか? 

ビジネスコーチ株式会社で、常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを務める吉田寿氏に、1on1ミーティングの現状と、それがいま求められる社会的背景についてお話を伺った。

目次

1on1ミーティングはスキルのひとつ。経験を重ねて磨くしかない

――1on1ミーティングとMBO(目標管理)のような評価面談との大きな違いは何ですか。
1on1はあくまでも部下のためにやるミーティングです。軸足を会社側、上司側から部下側に移したカタチできちんとコミュニケーションがとれるか、ミーティングがやれるか。部下のためにどういうことが確認できるか、質問できるか。そういうところができないと1on1をやる意味がなくなってしまいます。
評価面談のノリで部下と接して「今期の君の業績はどうだ?」とか「目標はどこまでいっているんだ?」とやると、従来型の評価面談と一緒になってしまう。それとは違うということをまず理解しないといけません。
――1on1ミーティングを導入しても、その違いを認識しないと意味がないですね。
1on1の導入を希望される企業には、まず研修から入ります。「1on1とは何か」から入って、「そこで求められるスキルはどういうものがあるか」、「その場合に、上司としてはどんなことに気をつけなければならないか」といったことを研修で学んだあと、実際に1on1を実践していただきます。 やはり1on1も一種のスキルですから、実践の中でスキルを磨いていくしか方法はありません。
――上司と部下が話し合うことに「スキル」という認識が根づくには時間がかかりそうですね。
スキルは、何度も繰り返しやる中で磨くしかありません。研修を1回受けただけで身につくものではありません。人によってもバラツキはあります。1回研修を受けたらすぐに理解して、かなり上手にやれる方もいらっしゃいますが、どうしても上手くいかない方もいます。 1日研修を1回受けたくらいでは1on1を熟知したことにならないわけです。いろいろな会社を見ていると、何回もやっていくうちに、「話題が尽きて何の話をしたらいいかわからない」と悩む方もいらっしゃいますから。
――スキルを磨くコツはありますか。
場数を踏むしかありません。慣れもあると思います。たとえば「1on1ミーティングをこういう前提でやってみましょう」とロールプレイをやります。上手くいったこと、上手くいかなかったことをその場で振り返って、各グループから発表してもらう。そういう研修をします。
それで、だいたいその会社なりの課題が見えてきます。その課題にどう対応していくかを随時フォローしながら定期的にやっていくことが肝心です。1on1は、必ずしも決まった期間でやらなければいけないものではありません。 会社によってさまざまです。ヤフーさんは毎週1回30分。日清食品さんは、毎月1回30分です。2週間に1回30分という会社もあります。

リアルタイム性が非常に重要

――1回の時間と頻度がバラバラとはいえ、頻度の違いで何か変わることはありますか。
コミュニケーションをとる必要性が、1カ月に1回30分で済むのであれば、1カ月に1回でもいいのです。1on1の文化を早めに定着させたいと思えば、毎週1回やる会社もあるでしょう。その会社に応じた1on1の頻度というのがあるかと思います。
僕は研修のときに、「いまこの瞬間に1on1をしなきゃいけないと思ったら、その瞬間に声をかけたらいい」と言っています。「ちょっといま時間とれる?」とか、「15分だけいい?」とか、伝えたいことを伝える。伝える必然性のあることはその場で伝える。これを「リアルタイム・フィードバック」といいます。
リアルタイム性が非常に重要になってきています。半年に1回とか、1年に1回ぐらいしかやらない評価面談では、リアルタイム性に欠けますよね。半年や1年の中で起こったことをずっと、そのタイミングまで待って部下に伝える。「今期こんなことあったよな、あんなこともあった。だから、あなたの場合はこういう評価だ」とか。 でも、途中で気がついているなら、その時点でフィードバックしたほうがいいじゃないですか。部下の立場にしてみても、「気づいていたのに、なんでいまごろ言うんですか?」となる。
だから、即時性とかリアルタイム性は大事なんです。良い行動をとった部下がいたら、その場で「いまのあなたのアクションは良かった」と言ってあげるだけでも違うと思うんです。そういうコミュニケーションを都度とってあげると、「この上司は、自分のことをこんなふうに受け止めてくれるんだ」とか、「こんなふうに考えてくれているんだ」とわかってくる。
格式張って1時間とって面談というカタチでやらなくても、少しずつでも振り返りのフィードバックをやれば、おそらく部下とすれば気づきはあるはずです。
そういうものが積み重なれば、1年間の評価も、上司・部下間の認識も大きくズレず、「今期そういう評価ですよね」と、部下も素直に受け止めてくれるような環境がつくれると思います。そういう意味でも、やはり気づいたことは都度そのタイミングでフィードバックをすることは大事じゃないでしょうか。

状況を可視化して継続していくことが重要

――たとえば、1on1ミーティングを毎週1回実施したとして、改めてそれを総括する場もあるのですか。
1on1をやっている会社は定期的に振り返りをしています。最近では、ビッグデータなどを活用してデータ的に集計すると、1on1に前向きに取り組んでいる上司とそうでない上司というのは、如実にわかります。
――データというのは、具体的にどういうものを取るのですか。
実際にやったかやらないかというものを含めて、1on1のプロセスをログに残していきます。たとえば弊社では、『AIコーチ・マイコ』という商品がありますが、AIを活用して日々の行動の支援し、行動変革の度合いを定量的に測定していくツールでサポートもしています。
あるいは、たとえば「フォローアップコーチ」という生身のコーチが入って、上司の方を適時・適切に指導したりアドバイスしたりする仕組みもあります。1on1はただやるだけでなく、フォローしたり、モニタリングしたり、データを取って検証したりして、取り組み状況を可視化して継続していくことが重要だと考えています。
――1on1ミーティングで上司が陥りがちな注意点はありますか。
自分の方針を部下に伝えるとか、「こうやりなさい」と言うのはあまりよろしくないです。1on1の目的は、部下に考えてもらう、あるいは部下の自発性を促すことです。「こうしたいと思います」と、部下の考えを引き出すことなので。上司の立場で、「こうしたほうがいいんじゃないか、ああしたほうがいいんじゃないか」とあまり言ってはいけないということです。
――MBOの延長線上みたいな指導面接になってはいけないのですね。
そうです。それでは通常の業務指示と一緒になってしまいます。部下にもいろいろタイプがいるので、対応の仕方は変わってきます。基本的に上司はコーチング的なスキルを持って、コーチング的なアプローチで部下に接するのが基本です。

ときにはコーチングとティーチングを使い分ける必要もある

――中にはなかなか腹を割って話してくれない部下もいると思います。そういうときの対処法はありますか。
コーチングの基本に、「答えは相手の中にある」というのがあります。相手の中にあるから質問をする。答えを持っているから質問をされれば答えてくれる。その理想形が前提としてあるから、あまり上司からベラベラしゃべらずに、質問をして相手の考えを引き出すというのが基本です。
ところが、中にはそこまで成長していない部下もいるわけです。その場合は、コーチングが機能しなかったりします。答えを持っていない部下は、いくら質問しても答えを言えないわけですね。
そういう部下に対しては、コーチングではなく、ティーチングになります。つまり教えないといけない。教えなければダメな部下に対しては、1on1でも手取り足取り上司が面倒をみなければいけなくなる可能性があります。その場合は、「こうしたほうがいいんじゃない?」とティーチングしなきゃいけない部下も中にはいます。
ティーチングが必要な部下もいれば、コーチングが機能する部下もいる。成長してくると、自分で気づいて、自分で判断できるようになってきます。最後は任せてやらせる。英語で「デレゲーション」と言いますが、いわゆる権限委譲ですね。
部下の社員としての成長ステージをきちんと見極めて、この部下に対してはティーチングが有効、この部下にはコーチングでいける。もっとフィードバックが必要なら、フィードバックすべきとか。この部下にはデレゲーションでいけると判断すれば、それでやる。
上司も部下の成熟度に応じて、その接し方を変える必要が出てきます。これを、「シチュエーショナル・リーダーシップ」(状況対応型リーダーシップ)といいますが、まさにその状況に応じた上司としてのリーダーシップのスタイルが問われる時代となりました。いま、1on1の実践においては、この考え方が活かされると思っています。
――やはり1つのメソッドでみんなを同じように底上げするのは難しいですか。
難しいですね。いろいろな部下がいますから。それぞれ個別の部下に対応した接し方、ミーティングの仕方を工夫しないといけません。
いまはまさに、そこができるマネージャーとか上司が求められている。そういうことができる上司になっていかないと厳しいです。時代が求めているし、人材マネジメントも、個別にフォーカスを当てる流れになってきています。そういう現状を踏まえて上司もやっていかなければいけない。
かつて人事が握っていた役割を現場に権限委譲して、それを受けて、上司が人事の機能を担いながら部下に接して1on1を実践する流れかと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

吉田 寿(よしだ ひさし)ビジネスコーチ株式会社
ビジネスコーチ株式会社 常務取締役チーフHRビジネスオフィサー
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパルを経て、2015年より現職。 “人”を基軸とした企業変革の視点から、人材マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織人事戦略コンサルティングを展開。人事制度改革コンサルティング等プロジェクト担当実績450件程度。著書に『 世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門』(日本実業出版社)、 『 リーダーの器は「人間力」で決まる』(ダイヤモンド社)、『 企業再編におけるグループ人材マネジメント』(共著、中央経済社)など多数。

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