いま必要なのは、ホワイトカラーのQC活動【スマート会議術第76回】

いま必要なのは、ホワイトカラーのQC活動【スマート会議術第76回】京都大学 経営管理大学院教授 末松 千尋 氏

かつて、日本を世界有数の経済大国に押し上げたメソッドのひとつにQC(品質管理)活動があった。

京都大学で経営管理学を教える末松千尋教授は、いまの日本に必要なのは「ホワイトカラーのQC活動」だと断言する。そして、「ホワイトカラーの労働生産性が低い大きな理由のひとつが、会議のやり方にある」とも。

会議はビジネス活動の30~50%を占めるといわれる。『会議の9割はムダ』の著書でもある末松教授は言う。

「言いっぱなしで何もしない」「開始時間になっても来ない」「資料作成に膨大な時間をかける」「説教の場となっている」など、会議がムダになる最大の理由は会議のやり方を決めておかないことにあると。

労働生産性を高め、時短に直結し、企業業績にもつながる組織論について、末松教授にお話を伺った。

目次

時間の短縮は本質的じゃない

――働き方改革の文脈で、効率や生産性の向上において会議の改善が挙げられることが多いです。でも時間を短くすることばかりで、本質的な議論がなされていない気もします。
そうですね。時間の短縮は本質的じゃないです。会議自体はものすごく重要なわけです。組織のありとあらゆる要素が詰まっているのが会議です。単に時間を短縮するという話ではない。すごく混乱しているものをちゃんと整理して、やるべきことをしっかりやるようにしないと意味がないです。
――むしろ会議が増えてもいいということですか。
増えてもいいけど、増えることはないと思います。ただ、減らしていくのが目的ではない。機能していない混乱を整理して、ちゃんと意思決定ができて、執行管理ができて、それをまた、フィードバックする。PDS(Plan⇢Do⇢See)を確実に回すことが一番重要なんです。
PDSができればすべて良くなっていくはずなんです。それが小さな改善もできないのにとんでもないイノベーションみたいな話が目標にあがってくる。難しすぎて全然手がつけられなくて結局進まないことが多い。大企業病に陥っているところでは、画期的なイノベーションを掲げて議論することで、現実から逃避したり無策の言い訳に使おうとしたりしている。
それよりも、どんなに小さな変化でもいいから、現場ですぐにできることを確実に実行して、それをPDSでしっかり回す。それを続けていれば大きなイノベーションに相当するぐらいの効果はすぐに出る。小さい変化もできない企業が、大それたイノベーションができるはずもないです。

効率や生産性の低さは、会議における混乱の放置にある

――PDSを回す上で、情報共有会議に意味はありますか。
情報共有こそ何も決めないで、みんなが集まるだけのムダな会議です。「情報共有」という名のもとに、「みんな適当に話をしてね」「みんな適当に話を聞いて自分で学んでね」「自分でしっかり実行してね」となるのですが、それは生産性を上げるという意味では、効果はゼロです。
会議では何をするかがしっかり設計されて、全員がしっかり準備をする。特に意思決定を主催する人は万全の準備をするべきだし、意思決定の仕方もしっかり決めて合意をとっておく。確実に決めて実行に移す下準備をしっかり設計して、初めて上手くいくんです。
――情報共有の会議が問題ではなく、設計されていないことが問題ということですか。
「情報共有の会議」とは「何も準備をしていない会議」ということです。日本企業の効率の悪さや生産性の低さは、会議における混乱が放置されていることが原因です。会議では意思決定のプロセスを設計し、そのとおり行わなければならない。それがマネジメント層の責任です。それだけやってくれれば何とかなる。 みんなを集めて、みんなに話させて、みんなが自発的に学習して活かす。「僕はやっているよ。できないのは君たちのせいだよ」というのは、マネジメント層の責任転嫁です。
会議の進め方、すなわち意思決定の仕方などを「プロセス」という言い方をしますが、それは会議に限らず、ありとあらゆる業務で出てくる話です。会議が一番わかりやすいし、会議の問題が大きいから、僕は会議にテーマを絞って話をしているだけです。
プロセスがしっかりできていれば、組織は効率的になります。プロセスをどうやってつくって、どうやって設計して、どうやって定着させるかというのは、組織の本質の問題そのものです。
トップがその認識ができていないと機能しません。根性論や精神論をぶちまけるのがリーダーシップだと勘違いしているトップのもとでは設計という考え方を導入するのは難しいです。その点、シリコンバレーではみんなIT関係の人たちだから、そういう認識はものすごく強いです。
――シリコンバレーにはなぜそういう土壌があるのですか。
シリコンバレーは、基本的にはITをつくっている人たちですが、ITというのは、プロセスを機械化(自動化)しているわけです。だから、本当に良い製品をつくろうとすれば、プロセスがどうあるべきかをまず考えなければいけない。ITとは「プロセスをサポートする機械を売る」なんです。
一番大事なのは、機械ではなくプロセスです。社会はどうあるべきか。会社の中でどのようにコミュニケーションをするべきか。どのように決定し管理すべきか。そういう議論がまず先にある。その議論が一番重要なんです。シリコンバレーとは、こういったことが世界中で最も議論されているところです。

もはや他者(中央)追従では生き残れない

――シリコンバレーのような文化を持たない日本は、今後どんな道を探っていけばよいのでしょうか。
いまは豊かさの概念が変わってきています。GDPだけを指標に経済大国を目指すのかどうか。やはりこれだけ世界規模で競争が激しくなると、全員がそんな競争をやる必要があるのかという話も出てくる。そういう競争をやりたい人はやればいいけど、やりたくない人まで巻き込んでやる必要はない。そういうオプションが出てくるべきですね。
そうなってくると、もう少しロハスな人生があってもいいと思います。まだ日本はそういう議論が出てきている感じがしない。どうしても東京中心の「競争に勝利する」という価値観がずっと続いている気がします。 京都大学の学生も卒業するとほとんど東京に行ってしまいますしね。それより、もっと地方で自分のやりたいことや、地方に根ざした活動もいっぱいあると思います。
――そういう意味で、京都は大阪と比べても目立つ優良企業が多い印象があります。京都特有の文化的背景があるからでしょうか。
他者追従をしないという京都の文化は日本では珍しいと思います。他者というか中央ですね。官僚、官庁、政府、大企業。日本全国の都市が中央(東京)を向いてしまう。
でも京都は、「そんなのどうでもいい」「あるべき論を考えましょう」となる。これまで日本は「規模が大きければ良い企業。知名度も高い、いろいろな製品を持っている、有名になる。そうすると、ますます信用度が高くなる。優秀な人材も来る」。そういう規模の追求が経営の中心だった。
でも京都は、ひとつのテクノロジーに特化して、それをやる限りは世界に飛び出すしかないという考えが強い。東京を見ないで、最初からグローバルを見ている。いまは中央追従、大企業追従、他者追従のやり方では限界がきている。それよりも、自分でしっかり考えるカタチにならなくちゃいけない。
最近は教育がかなり変わってきているので、いまから20年後には教育の成果も出てくるかもしれません。いままでは暗記重視で中央が言っていることをそのまま鵜呑みにするという教育だった。そういう従順な労働者が活躍したのが、昭和の成功要因だった。それが30年経って、教育も少しずつ変わってきている。
あと、思考を論理的にするための「ロジカルシンキング」というメソッドがあります。学生たちは略して「ロジシン」と言うのですが、いまロジカルシンキングが重要だという認識が彼らの間に非常に高まっています。「日本人はロジカルシンキングが苦手」という問題意識からきていると思います。 これだけ多くの学生がロジカルシンキングを勉強しているとすれば、しばらくしたらかなり影響力が出てくるかなと期待しています。
ロジカルにしっかり考えられれば、いまの混乱も少しずつ整理、構造化されて解決策が見つかってくるのではないでしょうか。そういう能力を育成しようとするのがロジカルシンキングですが、それがいまブームになっているのはとても頼もしいですね。

日本の経済発展の陰には常にQC活動があった

――今後、実現していきたい夢はありますか。
QC活動があれだけ大成功したのだから、QC活動と同じことをもう一度やるのが僕の使命です。いまの日本がこんなに豊かな生活をしていられるのは、昭和の時代に先輩たちがQC活動を全国でやったからです。それで最低最悪の日本製品が、世界最高の品質・納期・コストになった。
そのあと、いろいろ問題は出てきましたが、製造では世界の頂点までは行けた。それと同じことをホワイトカラーでもやりましょうと提言しているわけです。同じように国全体で取り組んで、お互いに協力し合って、切磋琢磨し合って、競争し合う。あの構造をもう一度つくれれば、同じ成果が得られるというのが僕の考えです。
――ホワイトカラーのQCは、トヨタかかんばん方式やカイゼンをやったように、日本を代表する企業がガツンとやると広がるものですか。
それも大事な要件のひとつです。いろいろな要件はあると思います。そういうのを繰り返しながら積み上げていくしかない。QC活動だって、昔の工場は職人ばかりで、「QCなんて、ふざけんじゃないよ!」という職人がいっぱいいたわけです。そういう人たちと議論して、科学的な統計をとって少しずつ進めていた。不可能に近いことを成し遂げてきたんです。 いまもそれに近い不可能だと思われることもいっぱいある。一つひとつクリアしていって同じことができればいいと考えています。
――ホワイトカラーでもそれができると?
できないことはないです。日本は横並び意識が強いので、みんながやり出したら一気にいく。最初はなかなか立ち上がらないけど一気にいくのが日本人の特性です。ものすごく変わる可能性はあると思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

末松 千尋(すえまつ ちひろ)京都大学 経営管理大学院
京都大学経営管理大学院教授、経済学博士。1979年、東京工業大学卒業。84年、スタンフォード大学大学院MOT修了。システム・エンジニア、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、88年にコンサルティング会社を創業。国内外の大手企業からシリコンバレーのベンチャーまで、生産性向上をキーワードにした全社組織変革・戦略構築コンサルティング活動に従事。2001年より京都大学大学院経済学研究科および経営管理大学院。慶應義塾大学ビジネススクール、筑波大学ビジネススクール、東工大などで非常勤講師を兼任。 主な著書に『 会議の9割はムダ ホワイトカラーの労働時間を50%削減させるマネジメント』『 オープンソースと次世代IT戦略―価格ゼロ時代のビジネスモデル』 『Transaction Cost Management』ほか多数。
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