デジタルツールを使うだけで変革は起きない。マインドが変わらなければ働き方は変わらない【スマート会議術第70回】

デジタルツールを使うだけで変革は起きない。マインドが変わらなければ働き方は変わらない【スマート会議術第70回】日本マイクロソフト株式会社 春日井 良隆 氏(左)、山本 築 氏(右)

労働力不足、長時間労働の改善、生産性の向上など、日本が抱えるさまざまな課題を解決するために、国を挙げて取り組んでいる働き方改革。

多くの企業が働き方改革に苦心する中、注目されている企業が2011年から「働き方改革NEXT」を掲げ、自社の経営戦略に位置づけている日本マイクロソフトだ。

日本マイクロソフトでは、自社のOSやアプリケーションである「Windows」「Office 365」「EMS」といったソフトウェア群と2in1カテゴリのノートPC「Surface」を主軸に、労働生産性の向上やコスト効率の改善、会議の効率化、企業風土の変革を自ら実証している。

エグゼクティブ プロダクトマネージャーの春日井良隆氏と働き方改革推進担当の山本築氏に、自社開発のデジタルツールを駆使して改革に至った経緯について語ってもらった。

目次

働き方改革では時間より、生産性やイノベーションが議論されるべき

――外資系企業の目から見て、日本特有だと感じる会議はありますか。
山本:結論のない会議が多いですね。まず時間に意味を持たせているのが特徴かと思います。もちろん、それもやり方のひとつかもしれませんが、マイクロソフトは基本的には裁量労働制を基礎としているので時間に意味を持たせることがあまりありません。もちろん、労務管理はきっちり把握しています。
働き方改革は、上から率先して進めることが大事だと言われますが、トップダウンだけでも意味がないんです。制度だったり、自分が受け身だったりしたら、自分の生活レベルを落としてまでそんなことはしたくないのが至極当然なんです。働き方改革では、分母の時間や人についてばかり話されている。分子にあたる生産性やイノベーションについてはあまり議論されていないんです。
――政府の掛け声も「残業を減らす」「休日を増やす」と、時短の話ばかりですね。
山本:そうですね。とはいえ、現に残業の多い企業はありますし、ブラック企業も存在する。そこで過労死している人もいる。これは当然見過ごせない問題です。ただ、生産性やイノベーションの話と労働時間の話が切り離せないため、すごく難しい議論になっているという印象があります。
春日井:時間をかければかけるほど良いというのは文化的に早く変えたいです。「僕はこんなに長い時間を使いました」というのは、むしろ仕事ができない証明じゃないかと思うので。
山本:時間よりインパクト。どうやってインパクトを出したのか、他者貢献をどうしたのか。インフルエンスとも表現することがありますが、ほかの人にどう貢献したのかという話を、私はマネージャーとよくします。そのプロセスをどうやったら最大限で効率の良い結果が出るかというのを相談できるのがマネージャーです。マネージャーはボスじゃない。その感覚が、いまの日本企業はまだまだズレているところがあるかもしれないです。

コミュニケーション・コラボレーションの成果

――リモート会議が90%を超えているということですが、リモートが増えることでどんな変化がありましたか。
春日井:会議室にいないことによって「こいつは仕事をしていない」とか、「やる気がない」と思われることはまったくないです。「家でリモートワークをしているから」といって、それで評価が下がることもありません。
――会議自体の概念も変わってきていそうですね。
春日井:どんな会議でも「コミュニケーション・コラボレーションが重要だという認識です。たとえば、「どの営業の案件が表彰されたか、社長賞をもらえたか」の統計データを見ると、ほかの部署の人をいろいろ巻き込んだ案件のほうに表彰が集中している。これはコミュニケーション・コラボレーションの結果です。それこそが新しいインパクトをつくり、他者への貢献もでき、それで市場を切り拓いていく。自然にそういう流れになっているんじゃないかと思います。
――人のカリスマのトップがいて、トップダウンで進めるのがIT企業では多いと思います。しかし一方で、社会が多様化、複雑化してきて、よりいろいろな知恵を集めるボトムアップの重要性も高まっていませんか。
春日井:マイクロソフトの例で言えば、最初はやはりトップダウンです。「働き方改革NEXT」も、日本マイクロソフトの社長の平野の掛け声でスタートした面もあります。それが文化醸成、あるいは仕組みの変更、制度の変更につながるという流れですね。
第2フェーズとして、社員のボトムアップで働き方を変えなきゃいけないというカタチになっていきました。そして、第3フェーズにあたるのが、「働き方改革NEXT」です。トップダウンとボトムアップの両方をやらないとダメですね。
山本:トップダウンって強制力と思われがちですが、そうじゃないんです。ボトムアップの声とか、何かをやったときに正しいと思う会社の方向性に合致して「これは育てたい」思うものがあれば、トップがちゃんとすくい上げていく。これが変革を効率良く成功に導くためのチェンジマネジメントだと思うんです。
一番良くないトップダウンは最初に結果を聞くんです。「これは何のKPIで、何の目的でやるんだ?」って。KPIおじさんが出てきて(笑)。そこから「考えろ」って思考させて、行動をして「ダメだ」って否定するんです。
いまは多様性が重視されているので、最初は共感から始まるべきなんです。「どう思う? こういうことをやりたいからどう思う?」「いいね」と思ったら、そこから「考えてみようか」と言って、トライ&エラーをやってみる。この循環を一周早くつくれるかどうかがすごく大事な気がします。このプロセスを早くするのがリモートワークだったり、チャットツールであったりという気がします。
――多様化、複雑化する社会で、文化が違う企業同士がコミュニケーションを上手くやっていくのは難しいと思いますが。
山本:そうですね。強いつながりの縦社会じゃなくて、弱いつながりでどこまで広く情報を取れるか。これを「ストラクチュアル・ホール」と言いますが、イノベーションを起こすポイントって「ストラクチュアル・ホール」にあるんです。いかに自分が架け橋になって情報を取れる場所にいられるかどうか。それをつなげられるかがすごく大事です。

働き方を変えつつあるデジタルツール

――マイクロソフトが提供する主力の製品・サービスについて簡単にお教えください。
春日井:ツール的なことで言えば、まず「Windows」というOSがあります。次に「Office 365」という業務アプリのツール群です。「ツール」と言うとアプリの印象があるのですが、最近はサービス自体を指すことが多いですね。特にいま「Office 365」と呼んでいるクラウド版はアプリの集まりだけではなくて、アプリ+サービスになります。
「Windows」と「Office 365」の裏では、セキュリティやIDの管理があります。たとえば社員が何人かいれば社員一人ひとりにIDが振られていて、適切なデバイスの運用がされる。そういう部分を担う、ソリューションや製品を我々は「EMS」と呼んでいます。
「Windows」「Office 365」「EMS」という3つのソフトウェア、サービスがまず軸になっています。それを最大限に活かすハードウェアとして「Surface」というノートPCを提供しています。
「OneNote」「Teams」「MyAnalytics」「PowerBI」といった製品は、「Office 365」に組み込まれているソフトウェアという立ち位置です。特にいまいろいろなコミュニケーションのハブになっているのが「Microsoft Teams」と呼ぶ製品になっています。
――ユーザーのニーズに応じてカスタマイズできるということですね。
春日井:できることはとても多いです。一番簡単な使い方はチャットですが、私が誰かと話がしたいとなると、「ちょっといい?」と、チャットベースでコミュニケーションを取ることもできます。
山本:働き方改革ってもっとフランクに自由にやるべきなんです。スケジュールや資料をそのまま共有できたり。
春日井:この数年間、SNSが生活の中に浸透してきたので、メールによるコミュニケーションにやりづらさを感じる人も増えてきています。SNSの良さをビジネスの中に活かす。「コラボレーションツール」「コミュニケーションツール」「チャットツール」といろんな呼び方がありますが、提案しているのが「Microsoft Teams」という製品です。
――デジタルツールを取り入れることで働き方の意識は大きく変わるものですか。
春日井:ツールで変わると言うより、ツールがあることでコミュニケーションがよりやりやすくなる、活発になるということだと思います。ツールが変えるというより、ツールでより良くなる。
山本:気軽に連絡が取れる関係性があって初めてツールが生きる。上層部の人は特に忙しいので、電話でつかまえるよりチャットで伝えたほうが連絡が取りやすいということがあるので。
関係性が最初からないのに、いきなり知らない人に「ちょっといま話していいですか?」って言ったら、「は?」っていう対応になると思うので。先に関係性があることが大切だと思います。

「フィックスドマインドセット」から「グロースマインドセット」へ

――ツールを導入しても、企業文化が変わっていかなければ意味がないということですね。
春日井:ツールを導入した、ICTの環境をつくった、じゃOKということは絶対にないです。
山本:たとえばある企業さんの2部署でグループチャットの「Teams」を導入していただいとき、1つの部署はすごく使っていて、もう1つの部署は使ってもらえなかった。何の違いがあったかというと、マネージャーの姿勢の違いだったんです。まったく使われなかった部署は「上から使えよと言われた、以上」と。使ってもらった部署は、「よくわからないけど、なんか面白そうだからみんなのアイデアをくれ」と上司から言われた。これがマネジメントのリーダーシップの違いです。そういうトップダウンもないと使わないです。
「なんで上から言われて、よくわからないツール使わないといけないのか。使わないと評価すらされない。なんだ、この会社は」となるわけです。これが失敗する典型的な例です。
働き方もすべてそうです。「お前たちの働き方は非効率だから変えろ」と。これは上手くいかない例です。完全に現場否定される感じになるので良くないです。
――そういう企業文化は会議にも反映されそうですね。
春日井:如実に反映されると思います。
山本:「グロースマインドセット」と言われますが、その反対語が「フィックスドマインドセット」。多様性をちゃんと受け入れる心持ちがあるのが「グロースマインドセット」。いままでと変わらないようにしているのが「フィックスドマインドセット」。要は相手が何かアイデアを出したときに「それはダメだよ」と突っぱねるのではなくて、「面白いからちょっとやってみようか」なのか、「こういう人がいるから紹介するよ」なのか。そういうポジティブな発言をしていくだけでも会議って変わります。それが定着するまで会議室には「グロースマインドセット」と書いてありましたね(笑)。
――中間管理職の役割がすごく重要になってきますね。
春日井:組織が比較的フラットな弊社では、特に中間管理職と呼ばれる人たちの役割はとても大事です。いきなり「のこぎりを使え」って言われても「は?」って話じゃないですか。「こういう本棚作ろうぜ」とか「こういう本棚作りたいよね」とかがあって初めて「グロースマインドセット」が成立する。「料理をきれいに撮りたいから」という気持ちがあって道具を揃えるのと同じです。
また変わることに対して、「勝手に変えやがって」って思うのが多分一番良くない。「あ、変わったんだ。何が変わったんだろう?」とポジティブに捉えることが大事ですね。

ジョブ・ディスクリプションがあれば会議で迷走することもない

――米国本社の文化から見て仕事や会議の進め方にどんな違いがあると感じますか。
山本:最近意識しているのは、仕事における責任と権限を明確に記したジョブ・ディスクリプション(職務記述書)です。「あなたの仕事はこうです」と明記されているので、会議に出る目的も明確になります。ジョブ・ディスクリプションがない会社もすごく多いです。そうなると、「この会議は何のために出ているんだろう」とか。あとは、プロジェクトが失敗したときに、いつの間にか責任者がいなくなっているみたいなことが多いんじゃないかと思っています。
――「役割」より「役職」に依存していると言えますね。
山本:そうですね。名ばかりの役職がどれだけ多いんだという話もあるかもしれないです(笑)。それで世代が詰まっている印象は受けているとしたら、「若手はベンチャーに行ったほうが幸せか」という話になってしまいますよね。
――会議で1つだけ抑えておくべきという提言があれば聞かせてください。
春日井:共感から生まれる自主性でしょうか。何か足りないと思ったら、その本人が考えて誰とつながったらいいのか考える。自主性のある人はそういったときに「相談があります」とくる。会議でも、自主性があると会議がしたい人が自ずと集まってくるし、目的が明確になってくるかと思うので。
山本:会議もコミュニケーション・コラボレーションの場ですから、共感はすごく大事なポイントかもしれません。最近は「サーバントリーダーシップ(相手に奉仕し、その後相手を導く)」とか、「オーセンティックリーダーシップ(信頼できる)とか、リーダーシップのあり方が問われています。そういう意味でも、共感をどう埋めるかというのがポイントだと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

春日井 良隆(かすがい よしたか)日本マイクロソフト株式会社
日本マイクロソフト株式会社 Microsoft 365 ビジネス本部
製品マーケティング部 エグゼクティブ プロダクトマネージャー 兼 文教担当部長
岐阜大学卒業。大沢商会、アドビ システムズを経て日本マイクロソフトに入社。ユーザーエクスペリエンスやHTML5、アカデミック分野のエバンジェリストを務めた後、Windows、Microsoft 365のマーケティング、および文教市場担当となる。
山本 築(やまもと きずく)日本マイクロソフト株式会社
日本マイクロソフト株式会社 マーケティング&オペレーションズ部門
Microsoft 365 ビジネス本部
働き方改革推進担当
2015年日本マイクロソフト入社、日本企業に対してWindows10やセキュリティなどMicrosoftの製品提案を行う。2018年より日本マイクロソフトの働き方改革推進担当に着任、社内外問わず働き方改革NEXTを推し進める。

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