アイデア創出の方法はいかにして生まれるのか?【スマート会議術第59回】

アイデア創出の方法はいかにして生まれるのか?【スマート会議術第59回】アイデアプラント 石井 力重 氏

企業や自治体・大学などのアイデア創出の支援を行う石井力重氏。東北大学・大学院でナノテクノロジーや創造工学、経済学を学び、商社勤務後、行政機関で産学官連携のプロジェクトに携わる。そして、そこで培ったブレストのノウハウを生かし、アイデアプラントを設立。「ブレスター」「nekonote」などさまざまな「創造性育成ツール」を開発してきた。

そんな“ブレストの専門家”である石井力重氏に、会議の効率化やアイデアの創出方法についてお話を伺った。

目次

「企業のブレストをひたすら手伝っているヤツがいる」と噂が広がる

――どんなきっかけで企業のアイデア創出の支援を始めたのですか。
最初はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)にフェローとして登用されたのがきっかけです。そこで企業の新事業開発を手伝っていました。産学連携というカタチで大学等の新技術で新製品をつくるための橋渡しをするという役割です。
知的財産を移転して事業に活用していくのが目的です。「この技術を使って新事業やりましょう」と提案して、技術を移転させるのです。でも、数カ月もやるうちに「技術より先にブレストがうまくいっていない。会社の中で創造的なことを話し合う風土がないのでできないよ」と言われたんです。
――技術があっても生かす方法がわからないということですか。
「こんなものを受け取っても、何もできないです」ってなるんです。だから最初は、私がブレストから参加することにしたんです。すると「行政マンなのに企業のブレストをひたすら手伝っているヤツがいるぞ」と噂が広がって。日本創造学会という学術団体の先生方が、「そいつは面白いからトレーニングしてやるか」ということで、いろいろな創造技法をトレーニングしてもらうことになりました。そこでさまざまなメソッドを学ばせてもらったんです。
それを用いて、いろいろな企業のブレストを支援してきました。そうすると、だんだんアイデアが出るようになって、そこから新事業のためのアイデア出しの会議がうまく回り始めたんです。
――それを機に独立されたのですか。
NEDOフェローとして3年間勤めたあとに、今度は東北大学の経済学研究科の博士課程に進みます。そこで「創造的な力をもっと生み出すにはどうしたらいいか」を研究課題にしたんです。創造工学というのですが、いまだに確立されていない研究領域です。ブレストの支援活動は続けながらその研究もしつつ、2009年にアイデアプラントを設立しました。

ブレスト支援ツール「ブレスター」と「nekonote」の果たす役割

――アイデアプラントで開発されたブレストツールについていくつかお教えください。
最初につくったのが「ブレスター」です。博士課程にいたときに、創造のメソッドをたくさん研究したのですが、特に私の研究領域はオズボーンのブレストメソッドでした。それを簡単なゲームにしたのが「ブレスター」です。
これはブレストの4つの役割をカードにしたものです。緑のカードの人は量ばかりを出す。青のカードの人は便乗ばかりする。黄のカードの人は「突飛さん」と言って、変なアイデアばかり出させられる。赤のカードの人は、「より良くさん」と言って、誰かのアイデアを褒めていくということをひたすらやる。そういうカードを4人でゲームに従い使っていくことで、自然とブレストの心理様式を学んでいく教材です。
もう1つは、学会賞をもらった「nekonote」(ねこのーと)。機能を追究していったら、たまたま猫の手の形になりました。早稲田大学の非常勤講師をしているのですが、授業でこれを使ったら、学生たちが「猫の手」って言うので、「nekonote」という名前にしました(笑)。
いわゆるマインドマップのための道具です。よく研修で大きな模造紙を使って、「みんなでマインドマップを書こう」ってやりますよね。みんなで書くものの、まっさらな紙に書くのは結構勇気がいるんです。最初にペンを握った人がひたすら書いちゃったり、声の大きい人が、ワーワーしゃべってひたすら書いちゃったり。決して民主的ではないですよね。「この辺はちょっと違ったのでこっち側に持ってこよう」と思っても、オンラインソフトみたいに持って来られないですしね。
――「nekonote」と付箋との大きな違いはどんな点ですか。
違いは2つあります。1つは関連性。付箋と付箋は置いたら「その近く」だとはわかりますが、並べ替えるとわからなくなりますよね。「つながっていました」と言ってもあとじゃわからない。nekonoteは物理的につなぐことで要素のつながりがわかります。
もう1つは再編集可能なこと。いろいろつなぎ合わせることで概念の構造や樹形図ができていきます。たくさんの樹形図の中から、「ここは引っこ抜いてこっち側につなげよう」という感じで分解したり組み合わせたりすることができます。「とりあえず仮で出そう、あとで編集できるんだから」ということを強く打ち出せるツールにしたんです。模造紙に描くマインドマップだと、「本当にこの枝に書いていいのかな、書いちゃったら直せないしなあ」ってなりますよね。
つなげていったものを「さらに構造化してみましょう」とやっていくと、最後は結構きれいな樹形図になったりするんです。「ああ、自分たちはこういうことを考えていたんだ」と整理することができるんです。
カタチが曲がっているのは横幅をできる限り抑えたかったため。長くすると机からはみ出してしまうので、アーチ状にしました。
それから1枚のカードには各要素に分けて書いてもらうように、あえて13文字ぐらいしか入らないようにしてあります。それから分岐するための3つの場所をつくった。これをきれいにデザインしていったら、このカタチになりました。
――「nekonote」を使うことで、具体的にはどんな効果が出るのですか。
初めてみんなで話し合うような、会議慣れをしていない人たちが話すと、どうしても意見を言わないんです。正解でなければ言いづらいみたいな。そういうときに、まず「個人で8分間書いてください」と書いてもらい、次にみんなでそれを出して、組み合わせていくと、全員がしゃべります。
また、自分の「nekonote」のひと房(何枚かがつながった一群のカード)をひきはがして、他の人の「nekonote」につなげてみたりする。物理的に動かせることで、わりと他の人の意見につなげてみることが多くなります。
授業で生徒たちに「発想の促進要因となる要素は何?」というアンケートをとったんです。そうしたら「つなげる楽しさ。プツッと刺すときの気持ち良さ、かわいさ」という意見が一番多かったんです。こういう楽しさや可愛さが促進要素だと言うんです。それは想定外でした。こういう会議ツールは、心地良さとか可愛さが、ドライブフォースになるんだなというのは意外な発見でした。
あと、海外展開している製品に「TRIZ BRAINSTORMING CARDS」(トゥリーズ・ブレインストーミング・カード)という発想カードセットがあります。これは「智慧カード3」という製品の英語バージョンです。40枚のカードをヒントにすることで、技術課題の多面的な解決アイデアを手軽に出すことができます。これはわりとエンジニアに人気があって、航空宇宙産業や自動車の産業の多い地域によく納めています。米国やカナダやドイツ等への出荷が多いです。

シリコンバレーと日本の会議の違い

――GoogleやAppleなどシリコンバレーでいろいろ視察されたそうですが、日本の会議やブレストと大きく違うところはありましたか。
Googleの人たちはブレストのコミュニケーションが得意です。しかし、それはGoogleがテクノロジストであり、かつ優秀なコミュニケーターである人を採用しているからです。彼らはテクノロジーはもちろん一流。さらにいざ会議になれば、いろいろなことが言える。それは文化やテクニックというより、個人の能力が高いんです。
日本だと、エンジニアで優秀でコミュニケーションも上手な人は滅多にいない。でも、GoogleやAppleの人たちは多くの応募者から選ばれた上位数%を採るから、技術に秀でていて、ブレストでも上手にしゃべれる人ばかりなんです。
以前、ブレストツールのニーズがあるかいろいろな国を調査してみたのですが、日本や東アジアの人はブレストが苦手でした。米国人や中国人は自分たちの言いたいことをパッと言えるのでブレストツールはあまり必要ない。特に米国は多民族国家のため、言わんとすることを言えるようにトレーニングされている。
日本人だと、相手の尻馬に乗って「じゃ、こうしよう」ってなかなか言えない。米国人は、誰かの発言に乗って「ところでさ」と言えるわけです。いい意味での主張がましいところもちゃんとトレーニングされている。コミュニケーショントレーニングされている文化と、そういうことがされていない日本の文化では、ブレストのやり方が違いますね。
あと、東アジアは儒教文化の国というのがあります。儒教の国では、偉い人が話したら「ごもっともです」と従う。下が年長者を敬うという文化性の強さから、ブレストになりにくいんです。「社長が言うならそうですね」って、こういうのが文化として染みついてしまっている。そうすると、「ブレストやってごらんなさい」と言っても、そのままやるのは難しいです。

Googleで学んだ「二段階ブレスト」

――Googleなどで学んだ具体的にユニークな発想法などがあればお教えください。
Googleの取材で彼らに「ブレストってどうやるの?」って聞いたら、ブレストが2つに分かれていたんです。まず、課題を挙げる。提案者が「いまいちアイデアが面白くないので、みんなで面白くしてくれ」と。持ってきたアイデアを、どうやったらより魅力的になるかをダーッとブレストしていくんです。
アイデアは、What(何をやるか)成分と、How(どのように実現するか)成分の2つに分けられるんです。まずWhat成分を挙げてもらって、そのあとにHow成分を詰めていく。
まず、提案者が提示するアイデアのWhat部分について、です。最初のブレストでは、このWhatをもっと魅力的にするアイデアをみんなで出します。実現方法であるHowについてはいったん度外視。そして、たくさん出た中から一番いいと思うアイデアを採用します。次に、これをどうやったら実行できるかというHow部分を出します。そうしていくうちによい実現方法がえられる。結果としては、提案者は持って来たオリジナルのアイデアに対して、より魅力度の増したWhat、そしてその高い実現性のあるHowもあるアイデアを得られるわけです。
これがGoogleのやり方で印象に残ったことです。しかし、彼らは特に手法として意識しているわけではない。だから名前もないので、私が勝手に「二段階ブレスト」と名づけました。
たとえば、こんな感じです。私たちで「新しい腕時計をつくろう」となったときに、まずはWhatブレスト。できるかどうかわからないけど、こうだったらいいのに、面白いのに、という着想を出していきます。What成分だけに限定しているから「できるの?」とダメ出しされない。ひたすら囚われなくアイデア出しができる。これは新人でもできます。そこで、たとえば腕時計でカロリー計算できたらいいな、といったアイデアが出てきたり。で、出し尽くすまでやってみて、実現方法はさておき、コンセプトとしてはカロリーがわかる腕時計という案が一番魅力的だとなったとします。
今度は、どうやったら腕時計でカロリーがわかるのか。ここからHow成分です。How成分の段階に入ると、途端にベテランがよくしゃべります。どうやったら実現したらいいかというHow成分は、ノウハウが溜まっている世代が得意なわけです。若手もベテランもみんな創造的貢献をする、そういう会議法になります。じゃあ、二段階でない、いわゆる普通の日本のブレストは、どうかというと。たとえば、会議に新人2人、中堅2人、ベテラン2人の6人がいるとします。若手は、実現方法のノウハウが少ないので案を出すのに消極的。ベテランは、斬新なコンセプトは想起しにくいので黙り勝ち。新しいことを考える感性の若さ、実現方法という知識量、両方を兼ね備えている中堅の2人だけがしゃべる。そういう構図が日本の多くのブレストです。それじゃあ、集団の創造力を使いきれていない、もったいないわけです。ブレストを2段階に分ければ、若手とベテランを含めた全員の創造的資質を使うことができます。

世代間で変わるアイデアの出し方

――その世代間の違いはかなり顕著ですか。
顕著です。ブレストにおいては、斬新な思いつきは若い人のほうが得意で、これは事実としてあります。しかし、ベテランのほうがイノベーションに近いです。ベテランは、「How=実現方法」をたくさん持っています。イノベーションや創造も、根源的に言えば、既存の知識と知識の組み合わせだったりするので、たくさんの知識を持っているほうがやっぱりイノベーションに近いんです。
けれど、彼らはタコ壺に入る。高い専門性があり、そういう社内評価も得て、失敗したくない。なので、ブレストでも、変なことを言い出した、と周りから評価されそうなアイデアを出すことを恐れます。また、地位もあったりするので、閃きレベルのつもりでも、部下たちは、熟慮された案だと勝手に解釈して、過度に信じて進めてしまう怖さもある。そういうところでは、上の世代の人たちは、イノベーションの種をいっぱい持っているけど出せない立場にある。心理的にも非常に抑え込まれているわけです。だから、ある程度経験も積んでいるけど、まだそんなに責任も重くない中堅世代が一番発言するのです。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

石井 力重(いしい りきえ)アイデアプラント
アイデアプラント代表/早稲田大学・奈良女子大学 非常勤講師(デザイン論、創造学)/日本創造学会 任命理事。アイデア創出ツール開発、アイデアワークショップ、創造研修やアイデアの講義、創造技法の研究をしている。東北大学 大学院修了後、メーカー系商社に5年勤務、同大2つの大学院(工学、経済学)博士後期課程にて創造工学を研究後に退学、NEDOフェローとして大学発ベンチャーに3年駐在。2009年にアイデアプラント設立。研修を実施した企業、教育機関は600件以上でのべ2万人以上が参加。開発したアイデア創出ツール「ブレスター」が みやぎものづくり大賞受賞。発想を引き出す専用メモ紙「nekonote」が日本創造学会 学会賞受賞。NHK「おはよう日本」にて「アイデアトランプ」をはじめとする複数の製品が紹介された。著書に『アイデア・スイッチ』(日本実業出版社)、『すごいブレスト』(フォレスト出版)。

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