化学反応のない会議は、単なる報告会にすぎない【スマート会議術第51回】

化学反応のない会議は、単なる報告会にすぎない【スマート会議術第51回】アビームコンサルティング株式会社 執行役員プリンシパル 斎藤 岳 氏

アビームコンサルティング株式会社で、執行役員プリンシパルを務める斎藤岳氏。同社は企業のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)からグローバル展開まで企業の成長を支援する総合コンサルティング会社だ。

斎藤氏は時代に先駆けて、著書『1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術』で、会議の効率化を通して、早くから働き方改革の必要性を訴えていた。

1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術

20年以上にわたって経営コンサルタントとして、日本、そして世界のビジネスシーンを見てきた斎藤氏に、企業が生き残るための会議術についてお話を伺った。

目次

成長戦略における2つの柱

――コンサルタントとして、さまざまな企業を見られる中て、大きく変わってきていると感じることはありますか。
リーマンショック以降、企業において新しい成長戦略に関するテーマは非常に増えています。各企業がさまざまな取り組みを進められているという実感がありますね。特に、日本経済が停滞する中、新しい収益、新しい事業の柱をつくろうというのが共通するところです。
また、2004年以降、国内の人口が減少に転じ、近年はデジタル技術を活用した欧米企業の台頭によって日本企業の競争優位性がなくなってきています。なので、成長戦略という点で、「働き方改革」の必要性は、その頃からずっとありました。
図表①の左側の新たな事業を立ち上げるフェーズと、芽が出てきた事業を大きく成長させるという、二局面があります。
図表①
左側は、新たな事業アイデアを次々につくっていくということに非常に重きを置いています。右側は、新しくつくるというよりは、できた核に対して事業の周辺の領域を取り込んで成長させることに取り組んでいます。
成長戦略には2つの柱があります。1つは「新たな事業をどんどん生みたい」という、クリエイティブな発想です。現在はアジャイル型の新規事業開発アプローチが主流で、デザインシンキング、リーンスタートアップという手法を活用しています。
もう1つが、単なる「新しい芽を考えましょう」ではなく、「未来はどうなっていくのか」ということを予想しながらシナリオを描くものです。また、ビジネスモデルの傾向としては、座布団型に収益を次々と積み上げていくことで堅牢なビジネスモデルをつくるということが、非常に大きなテーマとなっています。これをいろいろな企業が「リカーリング」【*1】や「サブスクリプションモデル」【*2】として新しいビジネスモデルの創出を目指し、検討されています。

【*1】「リカーリング」
継続的な利益を生み出すビジネスモデル。リカーリングを取り入れることで「継続的に収益が生み出せる」ようにする。

【*2】「サブスクリプションモデル」
一定期間、継続的に受け取る商品やサービスに対して対価を払うこと。

化学反応を起こすか、起こさないかが大きな違い

――著書『1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術』を書くきっかけは何だったのでしょうか。
会議というものが、一定のやり方があると、自分自身がやってみて気づいたことと、そうしたルールを知らずにやっている方が非常に多いということから書きました。
会議は人数がたくさん集まっている場です。そこで化学反応を起こすか、起こさないかは大きな違いです。日本企業の会議は、化学反応ではなくて、ほとんどが報告会になっています。報告会を「会議」と呼んでいるんです。それは会議ではないに等しい。その化学反応をどう起こしていくかというのが、ポイントになります。
――その化学反応を、いままで起こさなかった、あるいは起こさなくても良かった時代だったということですか。
そうですね。化学反応を起こす会議はあっても、時間が非常に長いというのが傾向としてありました。昔ながらの企業で言うと、マネージメントの文化として、付加価値が生まれるアイデアは各自で考えるようなところが多かった。
「日本人は和を重んじる」と言いますが、結局アイデアは、アイデアマンが1人で考えるということがほとんどでした。それでは効率が悪いし、なかなかいい発想も生まれない。そこに問題意識を持っている方は増えています。
――意識が変わりつつあるということですか。
皆さん、もともとムダだという認識はあったのだと思います。「しょうがないか」と思って諦めていただけ。「働き方改革」の掛け声をきっかけに、いままでの行動を見直すようになってきました。

化学反応と行動を起こす2つのゴール

――会議の効率性や生産性はどのように上げていくべきですか。
会議は基本的には化学反応を起こすのか、次の行動につなげるのか2つの大きなゴールがあります。この2つを意識して会議をする必要があります。図表②の右上が一番良い会議で、化学反応も起こるし、決まって次のアクションにつながるものです。
図表②
「自分たちの会議のゴールが何なのか」ということを徹底して意識できるかどうかで、会議の質は決まってきます。従来の会議はゴールがはっきりしないことが多く、ゴールを明確に設定しなくても許されてきたというのが大きな背景です。
――ゴールがなかなか設定されてこなかったのは、どういった要因が考えられますか。
「時間がコスト」だという意識が少ないのが1つです。「人数×時間」がインプットで、決まったことがアウトプットに当たります。いまはインプットとアウトプットの相関関係、つまり投資対効果やコスト意識が高い企業が増えてきています。昔はそこまで意識していなかったですね。たとえば、1人あたり時間1万円で、5人いたら5万円かかるけれど、「5万円の価値のあるアウトプットが出たかどうか」というのは、あまり言われてきませんでした。
――グローバル時代において、日本がとりわけ遅れているということですか。
はい。日本が遅れていたと思います。日本は時間が有限である意識が薄く、残業に頼る思想がありました。しかし、欧米ではもともと残業も簡単にできなかったですからね。
あとは、ゴールをはっきりすると問題が起こる場合があるんです。上位者から「この会議、本当にそのゴールのためにやるのか?」「そもそもそこは論ずるべきゴールなのか?」といった話が出てきてしまい、前に進めづらくなるケースもあります。目的をはっきりさせないまま、曖昧にすることも、日本企業の風潮にはよくありました。
実際にあまりはっきりさせないほうがうまくいくこともあるので、わからなくもないですが…。効果的に進めるためには、ゴールが明確でなければ成果は出ないという、当たり前の話です。

会議の質を決める「センス&レスポンス」

――著書で「インタビューの重要性」について解説されていますが、会議とインタビューにどんな関連があるのですか。
我々コンサルタントのコアとなるスキルの中で、インタビューがあります。インタビューも、実は上手い下手によって差が生まれます。当社はお客様向けにもインタビュースキルの研修を行いますが、簡単なスキルであるように見えて、ポイントを押さえられているかで実は差が出るものです。
それは、相手の状況やバックボーン、話の展開を加味しながら、質問の順番や内容をどれだけ臨機応変に対応できるかという、「センス(作用)&レスポンス(反作用)」が重要です。「センス&レスポンス」がないのであれば、メールで済ませればいい話です。わざわざ対面で実施するのは、「センス&レスポンス」の中で相手から深い話を聞き出したり、化学反応を起こしたりするためです。
その中で会議というのは、深い話をするためにわざわざ集まっているわけです。そこで、5人なら5人の「センス&レスポンス」がありますが、複数が集まった「n対n」の反応が起こる状態というのは、何もしないとバラバラの意見を言い合う質の悪い会議となってしまいます。会議は、共通のゴールに向かって議論する、「n対1」の形をとるのが基本中の基本です。さまざまな意見を取り入れながら化学反応を生み、1つの結論を導き出すということが会議の難しさだと思います。
――「n対1」というのは、ファシリテーターが1ということですか。
会議では基本的にはホワイトボードやモニタ画面を活用して進行します。会議の参加者が「n」、ホワイトボードに書かれた内容を「1」とし、会議のゴールや論点を見える化します。ファシリテーターが一方的にしゃべるのではなく、ホワイトボードに向かって、参加者が相互に意見を出し合うということです。これにより「n対1」の形となり、論点のずれを防ぐことで、会議の進行をコントロールできるようになり、生産的な会議ができるということです。

「発散」と「収束」の流れをつかむ

――著書には、「会議は園児のサッカーチームの監督のように難しい」とありましたが、これはどういう意味ですか。
ゴールが明確かどうかですね。園児がやるサッカーは点を取れば勝ちとは限らない。勝つことだけが目的ではないでしょう。また、ルールをみんなが理解できないまま進んでいる状態でもあります。何のためにサッカーをやっているのか、そのマネージメントができるかどうかがで結果が違ってきます。なので、ゴールは明示してくださいということです。
同じく著書に例として挙げた合コンなら、みんなの共通の目的や価値観があって、楽しめればいいという思いがあります。しかし会議はいわば「三角関係がバレた友人の三者面談の仲介役」です。その場合、それぞれの立場の人が意見を持っていて違うゴールがある、ということです。
――会議は参加する人にそれぞれの立場があって、ゴールも違うことがあるということですね。
そうです。同じ立場の人が集まってやるのであれば、化学反応を起こす確率が減るんです。違う立場の人がいるから化学反応が起きる確率も高い。単にみんなの合意を得るだけであれば、同じ立場の人が集まってやればいい。逆に何か化学反応を起こし、新たな発想を生み出すのであれば、違う立場の人の意見や視点が必要になってくるので簡単ではなくなる。だからこそ会議をやる意味がある。そのために、いろいろな人の立場を仕切るスキルを身につける必要があるのです。
――化学反応を起こさなければ、新しい価値を生んでいくのは難しいと。
たとえば企画と営業とマーケティングが集まると、みんな目的が違うため、それぞれの立場で意見を言うのですり合わせるのがなかなか難しい。ですが、そこで全員共通のものが生まれたら、それは価値のあるものになっていると言えます。
ただ化学反応が起こるブレストのような会議は、ある意味簡単です。人数が10人ぐらいいてもいいですし、誰かの意見に対して新たな意見や議論を重ねていくことでクリエイティブな化学反応は起こり得ます。
しかし、次のアクションまでつなげるには難易度も上がります。たとえば企画、営業、マーケティングと、いろいろな立場の人が一緒にブレストすると、「会社としての方針を決めて、これは営業さん、これをうちの部署、マーケはこれやってください」というように、それぞれ自分の立場があるので、次のアクションにつながりづらいことがあります。
――いわゆる「発散」だけをしても、「収束」するのは難しいということですね。
図表②の左上のような「発散」(ブレスト)だけなら会議のマネージメントは簡単です。考え方としては、一粒でもキラリと光るダイヤが見つかれば良いので、いろいろな意見やアイデアを出し続けることが重要です。
図表③
一方で、図表②右上のような「収束」の場合は、「発散」してから「収束」するという段階を踏みます。「発散」から「収束」へのギアチェンジが非常に難しい。これはファシリテーターが、「いま発散しますよ」「これから収束しますよ」と、わかりやすく言うだけでも大きく違うと思います。
――流れの中で「発散」と「収束」の意識を持つ必要があると。
「発散」と「収束」では会議の質が異なりますので、それを意識しなければ人によってバラバラになってしまいます。ただ意見を言い続けるだけでは「収束」しようとしている人たちからすると、収拾がつきません。逆に「発散」のフェーズで、「収束」をメインと思っている人が無理に論点を絞ろうとしたり、根拠を求めたりしても良い「発散」はできません。「発散」と「収束」が混じってしまうのがよくあるダメな会議です。
今後ますます「発散」をマネージメントできるクリエイティブな人が必要になっていくでしょう。特に成長戦略として新しいことを実践するには、クリエイティブな発想をもち、まわりの人からもアイデアを引き出せる人材が求められています。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

斎藤 岳(さいとう がく)アビームコンサルティング株式会社
執行役員プリンシパル、戦略ビジネスユニット グロース&イノベーションセグメント長。コンサルティングファームを経て、アビームコンサルティング株式会社に入社。製造業、情報通信業、サービス業、総合商社、小売・卸業、独立行政法人といった幅広い業種に対し、戦略策定および戦略実現支援のコンサルティング・プロジェクトを実施。著書に『1回の会議・打合せで必ず結論を出す技術』(東洋経済新報社)、『ロジカルセリング』(共著、東洋経済新報社)がある。

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