毎日12時間の会議から生まれた「5分会議」?【スマート会議術第39回】

毎日12時間の会議から生まれた「5分会議」?【スマート会議術第39回】株式会社CHEERFUL 代表取締役 沖本るり子氏

地位や役職に左右されない「5分会議」™を提言し、多くの企業の生産性アップに貢献してきた株式会社CHEERFULの代表取締役社長・沖本るり子氏。

江崎グリコ株式会社に9年勤めた後、ソフト会社を経て、管財商社に転職し、30代前半で取締役となる。人材採用、教育・指導の経験を通じて、組織における人との関わり方の重要性に気づき、起業。

「だらだら、イライラ、まとまらない」ムダな会議を2500時間体験したことを生かし、会議、プレゼンテーション、リーダーシップ、コミュニケーション力などを向上させる独自の人財育成法「5分会議」™を開発した。

ちょっとした工夫で「できない」を「できる」に、「クセ」を「コツ」に変える、その画期的な思考法について、お話をうかがった。

目次

毎日12時間の会議で椎間板ヘルニアになった

――CHEERFUL設立の経緯をお教えください。
自分で会社を設立したのは、椎間板ヘルニアで入院したのがきっかけでした。以前の会社で1日12時間ぐらいの会議をよくやっていたんです。会議で座りっぱなしの毎日が続いて、椎間板ヘルニアの手術をしたのですが、退院し、これから頑張ろうとしていた矢先の3連休明けに出社したら会社が倒産していたんです(笑)。売上げはそんなに悪くなかったのですが、社長が勝手に清算したという感じです。でも、人の出入りは激しかった。1週間や1カ月で辞める人が多く、中には1日で辞める人もいました。会議は長いだけでなく、いつも揉めていたんです。議論というより非難の応酬みたいな会議。会議で揉めてばかりの会社では、社員はやる気が起きないですよね。人は育たないし、会社に根づかないことに気づいたんです。
――会社の揉め事が会議に象徴されていたわけですね。
そうですね。でも転職して、問題なのは会議の時間が長いことではなく、質だということに気づきました。たまたまコミュニケーションに関する講演会に参加して、そこでコミュニケーションのスキルがあれば、話し合いも、人との関わりもうまくいくということに気づいたんです。
さまざまな研修やセミナーでコミュニケーションについて学ぶと、その中心にいつも会議があった。だったら、会議がうまくいく工夫を自分でしてみようと思いました。それが起業するきっかけでした。そして、人財育成「5分会議」™という思考法が生まれました。
――「5分会議」™というのは、会議を短くやるという考え方ですか。
いえ。たとえ5分でも、質が悪かったら意味がない。丸1日会議をやっていても質が良く、それで何千万円という売上げが上がるならいいわけです。時間ではない。質の問題なんです。

会議では1秒の大切さを実感してもらう

――「5分会議」™をテーマにしたセミナーには、どんな方が来られますか。
組織を何とかしたい、上下関係をうまくしたいという方が多いですね。たまたま会議という場で何かできるかもと気づかれた方が来られます。
――ワークショップが多いのですか。
ほとんどワークショップです。やはり会議なので、実際にやってみないとわからない。あと、みなさんがやっている会議とまったく違う感じなので、いくら口頭で説明しても、やってみないとわからないと思うんです。みなさん、「会議とはこういうものだ」という固定概念がすごくあるので。
――セミナーを受けた方の反応はいかがですか。
時間の重要性を知ってもらうことが多いですね。「1秒ってすごく大事な時間なんだ」と。「5分会議」™では、秒単位で動いていくんです。秒を意識してもらうので、最初は、とにかく時間。秒単位での時間の大切さを知ってもらいます。
――参加された方は時間の大切さを学んで、実際に会社でどのように活用するのですか。
参加された方が進行役進行係や司会をされる場合は、すぐに生かせると思うんです。でも、参加された方が必ずしも進行役や司会ではない場合は、あくまでも参加者ですよね。参加者の目線で、ちょっとその一部を使うというカタチです。思考力を強化するのが目的なので、考え方を変えるというのが一番ですね。
――そうすると、ある程度会社でポジションが高い人でないと、すぐに会議を変えることは難しいですね。
そうですね。学んだことを実践したくても、上が「こうだ」っていうやり方をされると、下の人は「いやいや、こうじゃないです」ってなかなか言えないんです。言っても「何を言っているんだ」って。「いままではこうだったから」ってなるんです。上が柔軟に聞いてくれる人だといいんですけどね。
――年齢によって違いはありますか。
年齢の違いもありますが、若い方でも固定概念にとらわれた人は多いです。会議を何度かやっていると、「会議ってこういうものだ」って染みついてしまって、最初はなかなか思考を変えるのが難しいんです。だから「とりあえず、いいからやってみて」って言うんです。

証言集めのための会議がもっともムダ

――会議にありがちなもっとも多い課題は何ですか。
上の人が「みんなの意見を聞きたい」と言いつつ、聞かない空気、雰囲気。もともと台本があって、上司の意見を通すことが目的の会議が多いです。下が意見を言えない。そこが問題な会議が多いです。
私はそれを「シャンシャン会議」と言っているんです。株主総会でも「シャンシャン」とかってやっていたのと同じです。それは、あくまでも「自分の意見をみんなが賛成した」という証言集め。反対があっても、そういうのを出させない。それだったら、最初から上が「これで決まりました」って、紙1枚かメールで伝えれば済むことですよね。
――上で決まっているにもかかわらず、みんなで決めたかのようなアリバイを作るわけですね。
「みんなでやりました」という体にしたいんです。責任の分散もあるし、責任の所在を明らかにしないっていうのが多いですね。いまはグローバル時代になってきて外国人とも仕事をするし、決定までのスピードも問われる。責任を誰がとるのかは、明確にしないと生き残れない時代になっていると思います。

「誰が言った」ではなく、「何を言った」だけを残す

――「発言がない」とか、「上司の一言でひっくり返る」というのもよく聞きますね。
会議に限らず会社では、地位や役職が一番重要なんです。そこがあるから言えない、言わない。上司の顔色をうかがうというのがほとんどです。ほとんどというか、100%です。
――会議の問題の根がそこにあるとしたら、現場から変えるのは、なかなか難しいですね。
実は会議のやり方だけを変えればできるんです。カタチだけ変えればいいんです。意識を変えるのは上下関係があるから難しい。だから、会議で上下を考えさせない手法を使えばいいんです。
――具体的にはどのようにするのですか。
短い時間でどんどん順番に意見を言っていくだけです。誰が言ったというのを考えている暇がないようにするんです。会議って一部の人がすごく長く話すことが多くありませんか。
――おしゃべりが得意な人は長くて、苦手な人はしゃべらないですね。
しゃべらない人は黙っているんですが、それをなくすんです。1人一言とか、そういうふうに決めていれば、誰でも話せるんです。良いことを言わなければいけないとか、そういうのをなくすんです。一言だけならみんな言えますよね。一言しか言っちゃいけないっていうことで、順番に回していく。
気づいた人から意見を言うこともしないです。とにかく、席の順番でずっと回す。短い時間で回していく。何度も回ってくると、誰が言ったかなんて頭に入らないんです。意見しか聞けない状況です。順番が回ってくるのが早いから、誰の意見とか考えていられないように仕掛ける。そうすると「誰が言った」ではなく、「何を言った」だけが残るんです。
――他の人の発言を集中して聞いていないと、「同じことを言ってるよ」となりますね。
はい。自分の意見を出さなきゃって一所懸命になります。

1人20秒ずつ3回発言と決めるだけで、だらだら話すことはなくなる

――それが「5分会議」™の基本的な考え方ですか。
そうです。でも「5分会議」™というのは、別に5分に限らないんです。3分もあったり、2分もあったりするんです。
――その議題によって?
そうです。何かのテーマについて、テーマが2分とか、3分とか、5分とかっていうふうに区切っているんです。「5分」と言っているのは、研修とか学びのときに、5分にしているから「5分」って言っているんです。一言ずつ発言していくので、2分でも十分です。
5分の枠の中で、5人いたら1人20秒ぐらいで、ポンポン言っていって、また順番が回ってきます。2回目、3回目。時間内で、ずっと意見出しを、そのテーマについて語らなきゃいけない。しゃべっているだけだとわからなくなるので、書く人を必ず1人決めて、それをすべて書き出します。順番に書き出しの係をやっていくので、お客様気分では会議に参加できないんです。
社長だろうが新入社員だろうが関係なく、順番に書くこともやってもらいます。話が長いとまとめられないから、書く人に迷惑がかかる。そうすると自分が意見を言うときも、話が長いと人に迷惑をかけることに気づいてもらえるんです。だから書く係も順番にやってもらいます。特に社長には書いてもらいたい。「あんなに話が長いと書けないよね」って気づいてもらえるので(笑)。
――フォーマット化すると、社長も新人も、平等に発言機会があるわけですね。
そうです。だから、上の人の意見について否定をしてはいけないというのもないんです。上とか下とかがわからなくなるので。この意見を誰が言ったかまで覚えられるって、逆にすごいと思います。
――議事録も、誰が言ったということではなくて、意見だけですか。
すべて意見だけです。あとで、これをまとめて議事録を作りましょうっていうのもないです。ムダなことはしない。出した意見をすべて書き留めますので、これをデジカメで撮れば、議事録となります。
――書く人は毎回ローテーションで変わるのですか。
1回の会議でローテーションで回します。たとえば1テーマ3分間なら3分間は1人が書きます。その書いている人も意見を言います。次に別のテーマが出てくると、今度は他の人が書きます。
――テーマ別で3分ずつやるとしたら、20テーマで1時間の会議になるわけですね。
そうです。テーマを分けるということです。1つの大きなテーマをダラダラ話さないように、全部細切れにします。
――何回かやっているうちに慣れてくるものですか。
慣れてきます。最初は、あれもこれも言いたい人は「え、これだけしか言えないんですか?」って、不安いっぱいになりますね。でも「いいんです。あなたは話が長いから」って言います(笑)。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

沖本 るり子(おきもと るりこ)株式会社CHEERFUL
「5分会議」™を活用した人材人財育成家。1分トークコンサルタント。会議、プレゼン、リーダー、コミュニケーション力などを向上させる「5分会議で人財育成」を開発。著書に『生産性アップ!短時間で成果が上がるミーティングと会議』(明日香出版社)、『リーダーは会議で姿を消せ!』(ぱる出版)、『出るのが楽しくなる 会議の鉄則』(マガジンハウス)など多数。

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