会議の「創造性」と「効率性」を上げるためにすべきこと【スマート会議術第37回】

会議の「創造性」と「効率性」を上げるためにすべきこと【スマート会議術第37回】株式会社内田洋行 橋本 雅司 氏

企業が生き残るためには、より生産性が高い組織の実現が必須だ。オフィス環境構築として知られる内田洋行は、売り上げの約60%をICT(情報通信技術)関連が占めている。成長分野と位置付けられているのは、知的生産性向上を目指す企業のために、コミュニケーションの活性化、情報や知識の共有、会議のICTの高度活用といった「働き方変革」ソリューションだ。

そして、「チェンジ・ ワーキング®」をキャッチフレーズに、「働き方」と「働く場」の変革を支援するさまざまな商品やサービスを提供している。

「働き方変革」を実現するためにはどんなビジョンを描き、どんな「働く場」を構築すべきなのか。内田洋行のICTプロダクト企画部プロダクト2課課長の橋本雅司氏にお話を伺った。

目次

知的生産性向上を目指した「チェンジ・ ワーキング®」

――内田洋行が打ち出されている「働き方変革」は、具体的にどのような提言ですか。
いま、「働き方改革」という言葉が政府から出ていますが、内田洋行では、2011年から同じ意味合いで 「働き方変革」という言葉を使って、お客様の「働く場」と「働き方」の変革 オフィス構築 のお手伝いをさせていただいています。
――「働き方改革」は本来の意味とちょっと変わってきていますね。
本来は生産性を従来以上に向上させるということが目的だと考えますが、「時短」の話が注目されてしまっている感じがしますね。弊社が「働き方変革」のご提案をするときは「チェンジ・ワーキング®」をキャッチフレーズにしています。お客様向けのコンサルティングの中で、知的生産性を向上させるためにはどんなオフィス環境が必要かを考え、提案しています。
「働き方」とそれを支える「働く場」のあり方を見直して、組織の創造性・効率性・躍動性を高めることを目的としています。「働き方」と「働く場」が同期し、相乗効果を発揮したときにこそ、本当の「ワークスタイルの変革」が起きると確信しています。そのために、「なぜ変わらなくてはいけないのか」「どう変わるべきなのか」といった目的や目標を明確にし、全員で共有することから始めて、継続的に変革を進化させるお手伝いをしています。
この考えに基づいて、私たちは自らをモデルケースに、あるべき「働き方」への変革と「働く場」のあり方をさぐる実証プロジェクトとして、2011年の自社オフィスの移転機会に自社での「チェンジ・ワーキング®」による働き方変革に取り組みました。
経営視点ではリーマンショックからの回復に時間がかかっていたことや、そこから来る社内の閉塞感、現場の視点では社内作業が非効率であったり、顧客面談時間が圧倒的に少なかったりしたことなどが、変革に取り組むきっかけでした。たとえば、2011年に営業の1日の行動パターンを見ると、お客様のところに行く時間の比率が24%しかなかったんです。
働き方変革に取り組むために、自分たちがどのような姿になりたいのかを明確にし、それを実現するためにはどのような働き方、働く場が必要かを考えました。具体的な改善案として挙げていくと、344もの施策となりました。これらに対する具体的なの一部をICT(Information & Communication Technology)を活用して行っています。

新たなものを生み出すためには、人と人が顔を合わせて話し合う会議の場が欠かせない

――「働き方変革を考える会議アイデア30」の冊子を作成したきっかけは何だったのですか。
もともと、2008年ころより、働き方変革を支えるICTの活用として、会議のシーンに注目して商品の企画やプロモーションを行ってきました。「ブラック会議を退治せよ!」などのキャッチフレーズを使って、非効率な会議や生産性の低い会議を見直す提案を行っていたのですが、弊社が開催した「Change Working Forum」というセミナーイベントでご一緒させていただいた京都大学の末松千尋先生から新たな視点で学ばせていただく機会がありました。末松先生は会議の効率化について研究されていて、会議のスコアリング評価を行われているので、弊社の会議も評価していただいたのです。その結果、弊社の会議にもまだまだ課題が多くあり、そこでの気づきを加味して整理したものです。それを会議の始まりから終わりまでで、効率的に会議を行うためにどういう工夫がいるのかをまとめました。こういった我々の体験から得たノウハウも交えてお客様にご提案させていただいています。
働き方変革を支える会議アイデア
――生産性を上げるためにムダな会議を減らそうという動きがありますが、今後、会議自体が不要になってくるのでしょうか。
会議の重要性は高まってきていると思います。時代の流れが早く、ビジネス環境が厳しい中、多くの経営者が競争力を高めるために変革を起こさなければならないと考えています。変革を起こすためには、社員1人1人の能力を高めることはもちろんです。しかし、ビジネスは1社だけでは完結しない時代になってきています。企業が生き残るためには、ひと昔前だったら考えられないような、競合同士が提携する必要性も出てきています。社員の能力を高めるだけでなく、競合やパートナー、お客様ともコラボレーションを進めていかなければならない時代になっているのです。
そういう時代に「それってどこでやるの?」と考えると、「やはり会議室だよね」となってくるんです。「モバイルワークやテレワークで、外に行っても仕事ができるのに、わざわざ集まって顔を合わせるのが本当に必要なの?」と疑問を抱く方もいるかもしれません。でも、やはり新しいものを生み出すためには、人と人が顔を合わせて話し合う会議の場は欠かせません。そこで社内外のコラボレーションを促進させるためにカギを握るのが「会議の場」と考えています。

効率性にはムダな時間の削減、創造性にはコラボレーションの強化

――変革を起こすためには、会議の効率化やコラボレーションの強化がカギを握るわけですね。
内田洋行では、働き方変革・会議変革を促す要素として、効率性、創造性、躍動性という3つの観点を軸に改善案を考えています。特にICTでどういう「会議変革」のお手伝いができるかを効率性の向上と創造性の向上の2つの視点に分けて考えています。
効率性の向上については、ムダな時間を削減して時間をつくるということ。もう1つは創造性の向上のために、コラボレーションの強化や新たな発想を生み出す仕掛けづくりです。これらの2つの課題を解決する会議変革をICTによって下支えするということです。
ただ、会議における生産性向上と言っても、何をもって会議の生産性が上がったか定量評価するのは結構難しいんです。そこで、効率性の観点で考えると、会議の準備から会議中、会議終了までに発生することで、どこに時間がかかっているのかをすべて因数分解して、時間短縮や工数軽減できるポイントを洗い出します。スケジュール調整や会議予約、資料の準備、議事録の共有などは意外と時間がかかるので、そこで発生するムダな時間をどうやって省いていくのかを考えていきます。
――生産性向上のためのKPIには、具体的にはどのようなものがありますか。
創造性を高めるためには、会議の中で流れる情報の量を上げる。つまり、参加者の発言量やディスプレイに表示される情報の量を増やす。そうすることで、新しいアイデアを誘引したり、インスピレーションを沸かせたりする。あとは、このタイミングで情報発信するからこそ、効果的に他の人に情報を共有することができるとか。それができなければ、せっかくの情報がムダになってしまう。いかにタイムリーに、素早く情報を共有するのかをポイントにします。このような取り組みによって、同じメンバーで会議を行ったとしても、対策前後で結論が出るまでの時間を短縮できたり、出されるアイデアの数を増加させたりすることに結びつくと考えています。
また、会議の効率化で一番大事なことは、全員が会議のゴールを認識し、ベクトルを合わせて、短時間で結論を出せるようにすること。そのためには、会議案内の時点で参加者に対して会議の目的や準備事項についてしっかりと周知することや、会議中にも議題やゴールを意識させ続けることが重要です。また、結論を出したあとには、次のアクションにいかに早く移るのかが非常に大事です。

ペーパーレス化が生んだ働き方変革

――働き方変革においてはペーパーレス化も重要なのですね。
弊社では、働き方変革の取り組みの1つに「ペーパーストックレス」を実施しています。ペーパーストックレスとは、紙自体は出力して使うのですが、紙の状態で保管しないという取り組みです。ペーパーストックレスにすることで、収納スペースが削減されるだけでなく、デジタル化された情報は従来よりも共有や再利用されやすくなりますし、また、どこでも仕事ができることにつながっていきますね。
――ペーパーストックレス化において、社員からの反発はありませんでしたか。
最初はありました(笑)。なので、この取り組みの中では、自分ゴト化させることが非常に重要でした。トップダウンで指示するだけではなかなか定着しません。ボトムアップで、全員が自分ゴト化させなければいけないんです。だから、いまののオフィスを設計するときには、ワークショップで自分たちがどうなりたいのか、どういうオフィスにしたいのかを、自分たちで要件を作りました。こうして紙を減らして、7年前に新オフィスに入居するときには、1人あたりの紙の量を90%減らしたんです。
――実施されて、生産性の向上という点で成果は出ていますか?
ペーパーストックレスだけでなく、「アクティブ・コモンズ」と呼んでいる業務に合わせて席を自由に変えられる仕組みやICTの活用による会議の効率化など、弊社の働き方変革ではさまざまな取り組みをしているんですが、1日の業務時間内に営業がお客様先に24%ぐらいしか行っていなかった当時と比べて、約2倍の50%まで増えてきているという成果が出ています。それまで費やしていた事務作業や会議の時間が減って、お客様先に行く時間が増えたわけです。
たとえば、検印をもらうためにオフィスに戻らなければいけないとか、お客様に持っていく提案書を作成するためにとか。ところが、実際は各自が同じような内容の提案書を作っていることも多かったんです。みんな個人の「引き出し」に入れていたのでまったく共有されていない。それを全部電子化して、共有データベースに入れて、簡単に再利用できるようにしました。雛形があって、各お客様向けにアレンジするだけでもかなり効率がよくなりますよね。それで社内にいる時間をどんどん減らしていきました。これも働き方変革の一例ですが、こういう細かい小さな改善の積み重ねが生産性の向上につながっていくと考えています。

文・鈴木涼太
写真・向山裕太

橋本 雅司(はしもと まさし)株式会社内田洋行
株式会社内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン ICTプロダクト企画部プロダクト2課 課長。内田洋行 オフィスエンジニアリング事業部営業部門を経て、2008年より会議やコミュニケーションの活性化や効率化を支援するICTソリューションの企画業務に携わる。現在は、営業統括部門のスタッフとして、教育・公共・民間のすべてのマーケットに対するICT商品・ソリューションの企画を担当。

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