プレゼンは相手への「贈り物」【スマート会議術第34回】

プレゼンは相手への「贈り物」【スマート会議術第34回】ProfinanSS 代表取締役CEO 木村 義弘 氏

投資会社からインドでの事業開発やミャンマーの国家プロジェクトに携わり、現在、独立して経営コンサルタント・事業家として活躍する木村義弘氏。

人前で話すことが得意だという木村氏は、学生時代から塾の講師をし、そのときの経験がいまの自分を支えていると言う。

趣味の音楽活動でステージに立つこともあるという木村氏は、「プレゼンもセミナーも、ステージと同じ」と言う。プレゼンは相手への「贈り物」であり、いかに相手に喜んでもらい、そしていかに自分がハッピーになるか――そんな意識が大切だと語る。ステージでオーディエンスを盛り上げ、何か持ち帰ってもらうコツについてお話を伺った。

目次

プレゼンが上手な人は決してスライドを読まない

――セミナーや研修会の講師もよくやられていると思いますが、オーディエンスを惹きつけるコツなどはありますか。
僕は人前で話すのが得意なんですが、大学時代に塾の講師をやっていた経験が大きいですね。理系ではあったのですが、英語が好きだったので、塾で英語の講師になったんです。
実際に教壇に立つために何十回と模擬授業をやらされるんですよ。話し方や立ち振舞いや間の取り方など、それが相当訓練になりました。そのときの訓練がいまでも生きているのかなと思います。
――それが企業のセミナーやプレゼンに役立っていると?
余裕はできますよね。プレゼンをやるときに、みんなスライド資料を作るけど、作ったスライドを読む人が多いですよね。でもプレゼンが上手な人は決してスライドを読まない。言いたいことはオーディエンスを見て言いますよね。そういう余裕はできますね。
資料を読まなくても、そもそも自分の作った資料なら頭に入っているべきです。そうするとオーディエンスの反応が見られるじゃないですか。反応を見ながら内容を変えたり、あまり興味なさそうだったらスキップしたり、そろそろ笑いをとろうしたり。眠っている人がいれば、ちょっと当ててみようかとか。そういう心の余裕ができますよね。もちろん準備があってのことですが。

プレゼンは相手に伝えると同時に、何かを贈ること

――頭でわかっていても、実際にできる人は少ないですよね。
やはり準備と場数じゃないですかね。たしかにプレゼンは難しいと思います。僕は学生時代に訓練させられたので難しいとは思わないですが、社会人になっていきなりやれと言われても難しいだろうなとは思います。
――では訓練を受けていない人はどうすればいいですか。
まずはどうしたら伝わるかに興味を持つべきかと思います。プレゼンって、プレゼントなんです。相手に伝えたいと同時に、何かを贈ることなんですよ。じゃあ何をどうやって伝えたらいいかという話なんです。
コンサルタントという仕事は、スライドも結構きれいに作ったりしますが、それは相手へのプレゼントだと思っているからです。話すということもプレゼントの1つの形ですよね。相手に喜んでもらって、ちゃんと受け取ってもらわないと意味がない。
中身はもちろん大事ですが、プレゼントなので、伝え方や見せ方も同じくらい大事なんです。いきなり包装もされていないモノを渡されても微妙ですよね。ちゃんとリボンがあってきれいな包装紙でラッピングされたプレゼントのほうが嬉しいじゃないですか。プレゼンもそういうものだと思うんです。プレゼンで伝えたいことが、プレゼントの中身だとすれば、スライドの見た目は包装紙やリボン。実際のプレゼンの場での話し方なんかは、プレゼントを渡すときのムードとか段取りだったりするわけですよね。
本当に大事なのは中身なんですが、包装紙や中身のデコレーションがないとムードも何もないですよね。中身が良けりゃいいと思っている限りは、たぶん中身もそこまでブラッシュアップされてないでしょうね。私も最初からスライドの体裁や見た目、つまり包装紙を気にしているわけではないのですが、体裁が整っているということは、中身がしっかり納得できているという自信の表れでもあるんです。
プレゼンで棒読みの人は、中身を作るだけで精一杯で余裕のない人です。売り方やブランディングが大事だという意識が弱い。やはり中身だけじゃないんですよね。包装の仕方、渡し方、シチュエーションも含めての中身なんです。
あとはいかに笑いをとるか。これは僕の関西人の血かもしれないけど(笑)。笑いと言っても、中身と関係ないただのジョークではなく、中身をわかりやすくするためのユーモアですね。唐突なジョークはその内容や場の雰囲気によってスベることもあるので危険ですが、ユーモアはあくまでも本題を補足する潤滑油です。

同じ内容であっても、同じセミナーはない

――セミナーやプレゼンの成否は何で決まると思いますか。
準備不足なときはやっぱり反応が悪いですよね。思っているところじゃないところで反応が良かったりとか、そこじゃないんだよと思いながら。
練習と本番は違うじゃないですか。少し早口になったり、調子に乗って多めにしゃべったりすることがある。だから準備の段階でどうやって軌道調整させるか、冷静に考えて何度も振り返らないといけない。
たまに「準備をしなくてもいける」という人もいますが、そういう方に限って(笑)。やはりプレゼンが素敵な方はきちんと準備されているように思います。
――プレゼンが同じテーマのときも頻繁に練習されるんですか?
間が空いていたら練習しますね。ただそもそも同じ内容のプレゼンはしないですね。セミナーにしても提案にしても報告にしても、情報もアップデートされるし、経験が増えれば自分もレベルアップしていると思います。同じテーマのスライドを時間をおいてみると、やっぱり手を加えたくなります(笑)。また、同じ内容でも、オーディエンスのタイプ、たとえば現場の方なのか、経営者の方なのか、そういう視点から中身や話し方を変えたりします。
――今後セミナーで自分を磨いていく上でこれが理想型ということはありますか。
僕はセミナーもプレゼンもステージだと思ってやっています。だからテンションはいつも上げてやっていますね。やっぱり楽しいんでしょうね。人前でしゃべるのが楽しいし、そういう場がもっとあればいいなというのはあります。
――プレゼンを楽しむコツというのはあるのですか。
上手にやろうと小手先を磨くよりは、自分のスタイルでやるのがいいと思います。
――木村さんのセミナーは具体的にどんなスタイルですか。
自分としては池上彰さんみたいな感じを意識してたりしますが、セミナーの感想欄に「ジャパネットさんみたい」と書かれたときはコケました(笑)。もちろん嬉しいお言葉なんですが。メッセージは端的に伝えることを心がけています。そのときに問いかけをしたり、間をとったりすることを意識しています。一瞬でも、オーディエンス自身が「自分で考える時間をつくる」こと。あとは煽りは意識していますね。ライブで言えば「みんな~楽しんでるかぁ!」みたいな(笑)。何かしら新しい情報や知見を得たいからそういう場に参加してるわけですが、やっぱり楽しんでくれないとね。
――セミナーの内容は難しい経営の話が中心だと思いますが、それでも「煽り」や「ノリ」を意識されているということですか?
そうですね。そういう意味では最近あった経営分析の研修のときは、話の中に実体験を入れましたね。自分がCFOをやったときの生々しい苦労話をしました。資金繰りの事例解説で、状況打開のために「私は土下座した」とか(笑)。やはり人はストーリーが好きで、頭にスッと入ってくるものじゃないですか。理論的な固い話だけだと途中で飽きてくる。だから赤裸々な体験談を挟んで、また実際のシーンではこういう使い方をする、という説明を加えて退屈させないようには心がけています。
――ストーリーとライブ感ですね。
そうですね。あと資料自体も考えますね。資料もストーリーが大切になってきます。本を読めばわかるような話をしても意味がない。たとえば経営分析に関する本なんてたくさん出ているわけです。けれど、どれを読んでも経営指標の羅列でよくわからないんですよ。安全性分析とか収益性分析とか、そういう指標を計算してやると言ったって、なかなか頭に入らないですよね。
だから、もう少しわかりやすいようにストーリーにして伝えるように心がけます。そもそも企業の何を見たいのか。企業の活動・流れに沿って分析する。あ、ここからはノウハウなので内緒ですが、こういうやり方をもうちょっと磨いたら、みんなもっと経営分析に興味を持ってくれるかなとか、そういうことはいつも考えますね。

ムダなことにムダはない

――木村さんにとって、理想にしているセミナーの形はありますか。
黒板にチョークで書きながらしたいですね。半分冗談ですけど、塾の先生時代の経験からそれが一番自分としてやりやすいかなと(笑)。アナログで前時代的ですよね。でも、いつも思うのですが、「役に立たない」とか「ムダ」とか言われることも、もともとは何か意味があったはずなんです。もちろん、その意味が時代によって変わることもあるのですが、本質的な意味を考えたら、すごく価値があるものじゃないかって思うんですよ。
会議だって、意味があるからみんなやっているわけです。時代に即したやり方や、組織のあり方によって求められる会議のやり方があるけど、それに適合していないだけ。そのミスマッチがあるから、会議がムダだと思ってイヤになるんです。そうではなくて、生かす方向を考えればいい。本来の意味に立ち返って、それを生かして、楽しんでやろうと。
――エコサイクル思想ですね。
そうですね。高校のときの先生に「ムダな知識ほど人生を豊かにする」って言われたんですが、僕も世の中にムダなことはないと思っています。それをうまく生かせていないだけだと。もしくは時代が変わってやり方が変わっているだけ。
――すべて効率だけを追求しちゃうと味気ない世界になりますよね。
味気ないですよね。いまオフィスにバーカウンターを置いたんですけど、効率を考えたらバーカウンターなんかムダでしかない。でも、東京に戻って起業したときに、これまでできなかったことをしようと思って。忙しくなるだろうと思ったので、束の間の余暇にバーテンダースクールに通いました。自分の事業から考えたら「ムダ」だったかもしれませんが、そこで習ったことは目から鱗でしたね。全然違う領域の「サービスのプロ」について知ることができました。その話は長くなるのでまた別の機会に(笑)。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

木村 義弘(きむら よしひろ)ProfinanSS
ProfinanSS代表取締役CEO。大阪府立大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了。ベンチャーキャピタルにおいて投資先の経営支援、特に事業計画策定・資金調達の実行支援に従事。インドでの事業開発経験を経て、大手グローバルコンサルティングファームに参画。同ファームのミャンマー事務所開設に従事し、市場参入戦略、インフラ開発調査等に従事。その後、日系事業会社のM&Aチームのマネージャーとして、国内外のM&A推進を担当。日本の子会社及びシンガポール子会社のCFOとしてPMIに従事し、2018年2月ProfinanSS Inc.を創業。

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