会議の効率を良くしようと考えるのは、そもそも会議を悪者にしている【スマート会議術第33回】

会議の効率を良くしようと考えるのは、そもそも会議を悪者にしている【スマート会議術第33回】ProfinanSS 代表取締役CEO 木村 義弘 氏

投資会社からインドでの事業開発やミャンマーの国家プロジェクトに携わり、現在、独立して経営コンサルタント・事業家として活躍する木村義弘氏。

日本企業の海外での事業展開をサポートする中、日本と海外のビジネス慣習の違いを痛切に感じたと言う。会議も交渉と同じで、お互いがwin-winの関係になって初めて成立するものだと考える。

そんな木村氏が繰り返して強調するのは、「準備」と「楽しむこと」。グローバル企業や政府のコンサルティングを手がけてきた木村氏が考える会議の「準備」と「楽しむ」とは何か?

目次

「百聞」があってからこそ、「一見」に意味がある

――木村さんは海外での活動が長いですが、日本と海外でビジネスの慣習で大きな違いを感じたことはありますか。
これは僕の失敗談でもあるのですが、日本ではいわゆる「ご挨拶」といって、とりあえず会えばお互いに様子を見ようと1時間くらい話したりすることがありますよね。日本企業相手だとそれも許されることはありますが、現地の企業だと通用しない。私はインドやミャンマーといった新興国でコンサルタントとして活動していましたが、現地企業の方にアポをとるまでは結構簡単なのですが、「とりあえず会う」だと必ず失敗します。
面談の前にちゃんと仮説を立てて目的意識を明確にしないと5分で追い返されたこともありました。とりあえず「ご挨拶」ということが通用しないんですね。面談以前に、そもそも日本の企業は「百聞は一見にしかず」というノリで海外視察をしがちですが、「百聞は一見にしかず」というのは、「百聞」があるからこそ、「一見」に意味をもたせることができるんです。「百聞」なくして、「一見」した結果、「なんか知らんがよい国だなぁ」とか、「まだビジネスをするにはインフラが整ってないなぁ」とかそういう表面的な結論になってしまう。事前に、同国において自社の事業であればどういう展開が可能なのか、調査もせず、仮説も立ててない状態で視察しても、時間と出張費のムダですよね。それは会議にも言えることだと思います。入念な準備がやっぱり必要だと痛感しています。
たとえば、日本人はみんなインドの方と交渉をするのはしんどいと言うのですが、僕はそんなことはないと思っています。インドの方はすごい勢いとスピードで話すので、日本人はそれで怖じ気づいてしまう。けれど彼らは頭がよくて、論理的なので、こちらが事実と論理を前もってきちんと準備して、「こうだよね」って言うと、「その通りだ」となる。だから1時間のうち相手が55分しゃべっていても、残りの5分で「あなたの言いたいことはこうですよね」って、事前に調査した事実をもとに返すと「そうそう、これこれ、私が言いたいことはこれ」となるんです。インドの方に口数で対等に議論できるわけがないです。対等にビジネスをするには、我々ができることで勝負しなければなりません。

「批判する人」「持ち上げる人」と役割を決めてあげる

――せっかく準備をしても、脱線して話が進まないこともよくあると思いますが。
会議は、いろいろな価値観やバックグラウンド、職種の人たちを取りまとめていかないといけないことがありますよね。そういうときに最初に目的を設定することが不可欠ですね。今日はこれとこれを決めましょう、今日はブレストしましょう、今日は進捗状況の確認です、とか。話が本旨とずれてしまったときときに「今日の目的は何だったっけ?」と誰かが言えるかどうかが大切だと思うんですよ。
会議では極端に微に入り細に入り話をし始め方がいますよね。現場のプロだからこそ、余計に細かいことが気になって各論を話し始める。それはそれでいいのですが、会議の目的を考えると本題ではない場合ってありますよね。時間の制約もある中で、その仕切りができる人があまりいない。
だから会議はファシリテーターの役割を明確にしておくべきだと思います。あと、たまにやるんですが、役割を決めてあげる。「あなたは批判する人ね」「あなたは持ち上げる人ね」という形にする。議論が迷走していたら止める人、今日の目的を復唱する人。そうするともっと生産的な会議ができるんじゃないかと思います。
特に偉い人が参加する会議だと、同調圧力があって、反論しにくかったり、意見を言いづらくなったりするじゃないですか。そういうときにあえて意見を言いやすいように、「あなたは反論する立場ね」「今日は批判する役割だから、安心して上司の意見にダメ出ししてください」と言えば、発言しやすくなる。日本人は批判すると、人格攻撃をされていると思うから、そうじゃなくてあくまでもそういう役割だと切り分けるといいんじゃないかと思います。大切なのは会議に参加するメンバーの考え、意見、知見、経験を引き出して、その上で一歩前に進むことですよね。
あと会議用の資料作成はこだわりすぎないほうがいいですね。「準備をするべき」に矛盾するように思えますが、過剰に1つひとつの文言を気にするのも時間がもったいない。会議のための会議や、会議のための仕事をなくす。会議の準備はするべきですが、そういう体裁と整えることではなくて、中身にしっかりフォーカスした下準備の仕方があるんじゃないかなと思います。これって会議に参加する上の立場の人の心がけ次第なんですけどね。本質的じゃないところで細かく突っ込んでくる人とかいるじゃないですか。現場レベルの話ならまだしも、会議の目的からすると「そこ、突っ込むとこちゃうねん」と。そういうことの対策の結果、数十ページくらいの資料を作って、資料を作るのが仕事になってしまう。

明るく和やかに言い合える雰囲気づくりも大切です

――役割を決めて進行するファシリテーターの存在が重要ですね。
ファシリテーターも大事ですが、誰がファシリテーターをやるというわけではなくて、各自が会議の目的を意識してやらないといけない。そうしないと「俺は今日これを話したいんだ」と、なってしまう。
たとえば、僕は前職で毎週、経営会議をやっていたのですが、現場の人は微に入り細に入り話をしたくなるんですよね。みんな個別に相談事項があるんですよ。でも相談事項を話し始めたらきりがない。毎回、話が脱線して2~3時間もかかっていたらムダだし、続かないじゃないですか。自分と関係ない話を聞かされる人も大変です。だから微に入り細に入りの話になったら、ちゃんとそれは別途時間をつくりましょうという形にしていましたね。
――会議の中で脱線しやすい人を、周りの人はどう対処すればよいですか。
やはり雰囲気づくりは大事ですよね。この会議は自由に意見が言える場だよという雰囲気をつくるのが大事だと思います。なんとなく一方的に「あれやれ、これやれ、これしたい、あれしたい」ではなくて、「本来の主旨から考えたら違いますよね」と明るく、和やかに言い合える雰囲気をいかにつくるかも大切だと思います。 「締める」といいつつ、会議で語気を荒げたりする人もいます。締めることはもちろん大事ですが、得てして、会社の「上司」的な人が自分の権威を誇示する目的になっているような。会議の目的を明確にして、そこを目指した議論をしていれば、和やかな雰囲気を保ちつつ生産的、創造的に会議を進めることができます。権威を使って無理に締めようとするのは人の創造性を低下させる愚行だと思いますね。

会議はバンドと同じで、お互いがお互いを高め合う場

――会議を円滑に進めるためにはどんな意識改革が必要だと思いますか。
会議は必ず何かを前に進めるためにやっているはずなんです。ある目的を達成するために何が良いソリューションなのかということをお互い話し合う場ですよね。交渉もそうですよね。交渉という場も、相手と自分との戦いみたいに考えがちですが、そんなことはない。お互いの利害が一致するところを一緒に考えて、お互いの利害が最大となる案や条件を探るプロセスのことを「交渉」というんですよね。会議でも交渉でも、win-winをどう設計するかという創造的なプロセスだと思うんです。
1人で考えていても限界があります。でも誰か別の人の観点から見たら面白い施策が生まれることもある。そういうのがあるからこそ会議をやるんですよね。情報共有にしても、進捗共有にしても80を100にして、100を120にする。会議はそのためにあるわけです。
100を80にしてしまう会議も多いのですが、会議は生産的、創造的なプロセスだと捉えたほうがいいと思います。面倒臭いと思うような会議をやっている時点でダメです。せっかく、人と人がオンラインにしろ、Face to Faceにしろ、同じ目的のもとに、同じ時間を共有して、語り合うわけですよね。生産的、創造的プロセスですよ。そう考えて、会議を楽しめる風土や仕組みをつくっていかないと。会議の効率を良くしようとか、生産性良くしようというのは、そもそも会議を悪者にしていますよね。会議が悪いのではなく、いい会議と悪い会議があるんでしょう。せっかく人と人が集まる場であるから、楽しい場であったほうがいい。
――木村さんはバンド活動もされているとのことですが、会議を楽しむという考え方はバンドセッションと通じるものがありそうですね。
共通点は、それこそ役割が大切、ということじゃないですか。それぞれの役割があって、お互いがお互いを高め合える、お互いの良いところが出し合えるという点は、会議もバンドも同じですよね。ボーカルがいて、ギターがいてベースがいてドラムがいて。それぞれの見せ場があるわけじゃないですか。他のメンバーの見せ場では出しゃばらないとか、盛り上げ役に回るとか。ボーカルは前に立っているから、お客さんを煽るだろうし、ギターはギターでソロの見せ場がある。ベースとドラムがしっかりリズムを刻まないと全体の調子が狂う。だから会議でも、それぞれが役割を全うし、いいパフォーマンスを出せばよい会議になる。そうすると自ずと楽しくなるものだと思います。やっぱり真剣に議論して、その結果、いいアイデアを生み出せたら楽しいですよね。楽しくなきゃ仕事じゃないですよ。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

木村 義弘(きむら よしひろ)ProfinanSS
ProfinanSS代表取締役CEO。大阪府立大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了。ベンチャーキャピタルにおいて投資先の経営支援、特に事業計画策定・資金調達の実行支援に従事。インドでの事業開発経験を経て、大手グローバルコンサルティングファームに参画。同ファームのミャンマー事務所開設に従事し、市場参入戦略、インフラ開発調査等に従事。その後、日系事業会社のM&Aチームのマネージャーとして、国内外のM&A推進を担当。日本の子会社及びシンガポール子会社のCFOとしてPMIに従事し、2018年2月ProfinanSS Inc.を創業。

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