“社会の常識”に疑問を抱くことから、差別化を図る。【スマート会議術第24回】

“社会の常識”に疑問を抱くことから、差別化を図る。【スマート会議術第24回】株式会社リプロエージェント 代表取締役 勝部 元気 氏

評論家、社会起業家として活躍する勝部元気氏。また、働く女性の健康啓発事業を行うソーシャルベンチャー・株式会社リプロエージェントの代表も務める。

71個の資格をもつ“資格マニア”でもあるが、それは“社会の常識”に対するアンチテーゼでもあった。落ちこぼれから有名大学に入っただけで、手のひらを返す教師たち。勝部氏は、学歴、肩書き、年功序列…旧態依然のさまざまな慣習が今の日本の発展を阻んでいると考える。資格は組織や社会の慣習に頼らずとも、一人で生き抜いていくための手段なのだ。

働き方改革や労働生産性の低さについて問われている昨今、日本の企業経営はどこへ向かおうとしているのか。企業研修会や講演も数多くこなす勝部氏が見た、日本の会議、ひいては企業文化はどのように映っているのか。その社会構造が抱える課題について語ってもらった。

目次

意思決定が遅いのは、致命的になっている

――日本の労働生産性の低さが問題になっています。これは会議にも象徴されるように思えますが、どう考えられますか。
企業経営にあたって、意思決定の速度がどんどん速くなっていますよね。トレンドや技術革新の速度も速くなっている。そうなってくると、オセロゲームみたいに一気に局面が変わる。これまでの積み上げ型の意思決定では、その流れに乗ろうとしても遅すぎますよね。もっとスピーディに変わっていかないと、現実に対処できない。
ただ、たまに意思決定が遅くても、利害調整していることによって決まった後、すんなり進むというケースはあると思います。たとえばインドネシアでは中国と合意した鉄道の建設が遅れています。中国は意思決定が速いけど、その後進まず、日本の事業は遅いけど一度決まったらその後はすんなり進むという評判がある。だから、インフラ事業のような長期的プロジェクトではまだ日本的なやり方が有利なこともあるかもしれません。ただ、世界市場や消費者を相手にするビジネスでは、意思決定が遅いのは、労働生産性の低下を招くでしょうし、致命的になっている気がします。
――日本の家電メーカーは、軒並み苦境に立たされていますね。
家電メーカーは差別化ができないままコモディティ化して、総崩れしちゃうわけですよね。一方でアジャイル開発なんかをやっている人たちと仕事をすると、スピード感がまったく違うんです。会議をしていても、話す速度も違うし、ゴールのない会議をすることが許されない。ゴールを設定して30分ですべて詰め込んでやらないといけない。それがスタンダードになればいいんですけどね。

いまは「何を知っているか」より、「どこに何があるか」を知るリテラシーが求められる。

――情報共有という点でも、ムダな共有時間が多いという声もよく聞きます。
ムダな情報共有のすべてをなくすことはできないかもしれませんが、その頻度は減らせると思います。社内で共有する情報って、関係者だけが知っていればいいものが大半ですよね。そういうときに全員の時間を拘束して情報共有の会議をやるというのは、ムダでしかないと思います。
――最近は社内ネットで情報共有することも増えていますが、全社員共有みたいになって、結局誰も読んでいないということが起きているという話もよく聞きます。
あれもムダですね。情報がほしい人が、どこの誰がその情報をもっているかがわかればいい。検索ツールがない時代は、自分がどれだけ知識をもっているかが重要だった。でも、今は検索ツールでどういう場所にいけば正しい情報が得られるか、というリテラシーを備えることのほうが大事になってきている。
「そんなことも知らないのか!」っていう年配の人がいても、「そんなのは知らなくても調べればわかりますから」という時代だと思うんです。だから、ある情報を知りたいときに、その情報をもっている人が誰かということまでは共有しておかないといけない。でも、SlackとかChatWorkとかサイボウズのような社内ネットを辞書化する必要はない。索引だけが載っている状態があればいいんです。
――情報を取りにいく人のリテラシーが必要になってきますね。
情報発信者がCCで一方的に送りつける現状を、取りにいくという作業をメインにしないとダメですね。与える、与える、与えるで、情報発信者がとりあえず全員に送っておくという責任放棄みたいやり方は変えないといけない。情報をほしいという人だけがほしいときに取りにいくという状況をつくっていかないと。

標準的な意思決定は、どんどんAIに代わっていく。

――たとえば、トラブルが起きたときに「こんなことが二度とあってはいけない」といって、トラブルを起こした一番低いレベルの人に合わせて作業が増えていくということも「あるある」だと思いますが。
「報連相」もそうですよね。部下がなんかやらかしちゃったから、全部報告をさせようとしてしまう。でも大半はやらかさない部下なので、やらかす部下に合わせて逐一細かくやっていたらムダでしかない。報告を指示する時間や受ける時間があるなら、管理職としてやらかす人をどれだけ少なくするかというほうに注力すべきなんです。
その流れって、教育の段階から脈々と続いている気がします。日本の学校教育は横並びの教育が基本ですよね。強固な官僚型の組織で上手くいった昔はそれで機能を果たしてきたと思いますが、一方で先に進んでしまえる子を伸ばせない仕組みにもなっている。
――その教育も変えていかないと世界の潮流に後れていってしまうと。
やっぱり伸ばす人を伸ばして、伸びにくい人はちゃんと底上げに特化した人が底上げをしていかないといけない。本当は教育からガラっと変えないといけないと思うんですけどね。
これからはAI(人工知能)の時代じゃないですか。標準的な意思決定は、どんどんAIに代わっていく。だからAIと競合しない人材を育成するには、教育のあり方そのものを変えていかないといけない。
採用の場面とか企業の人材育成の場面でも、まだまだ多様性を認めたり、個性を伸ばしたりという視点になっていない。「うちの採用は個性ある学生を採用します」とか言っていても、入社式ではみんな横並びで同じ黒いスーツを着る(笑)。

講演もプレゼンもライブが上手なミュージシャンをマネするように意識しています。

――講演をされる機会も多いと思いますが、特に心がけていることはありますか。
私、 実は発達障害ということもあって、もともとはコミュニケーションがすごく苦手なんです。プレゼンは、今でもすごく苦手意識があります(笑)。
――そんな障害を克服するためにしている工夫があればお教えください。
講演会のように一方的に話すときは、ミュージシャンがライブをやっている感覚をもつようにしています。あくまでオーディエンスを楽しませることを第一に考えて。
――自分のテンションも上げて?
そうですね。そういうことが重要だと思っています。やはり相手が目線を逸らしたなとか、つまらなそうだなと思ったら、軌道修正をしながら。一対一ではなく、一対多の状況でもなるべく対話をしているという意識をもちながらやっていますね。
――対話というのは、具体的にはアイコンタクトとかですか。
アイコンタクトもしますし、反応がよくなかったら、違う要素を入れてみたりとか。その場で思いつくこともありますけど、引き出しをたくさん用意しておくようにしています。“鉄板ネタ”は、必ずいくつか用意していて、その都度入れ込んだりします。
やっぱりプレゼンもライブが上手なミュージシャンをマネするように意識していますね。
――上手なポイントは、具体的にどういうところですか。
やっぱり対話だと思います。たとえば、一対一で話すときって一人で延々と話し続けることはないですよね。だから1つのフレーズを長くしゃべりすぎないようにします。相手が頷かないようだったら、そこでいったん止めちゃう。別の話にしたりとか、間合いをわざと入れたりとか、相手が頷きやすいような余裕を与えるようにしています。

オーディエンスが知っている7割を、なるべく頷かない人に投げかける。

――オーディエンスの人数が多いと、一人一人という感じではないと思いますが、そういうときは必ず頷いている人を見つけるんですか。
必ず見回すようにしますね。反応がいい人と反応が悪い人がいるじゃないですか。反応のいい人をたくさん反応させることも大事だと思いますが、反応していない人を 1つくらい反応させたいなって思っていたりもしますけどね(笑)。
――そこは結構ハードル高そうですね。
ハードルは高いんですけど、あの手この手を使って「これでどうだ、これはダメか、これもダメか」ってトライ&エラーで試しながらやります。骨子になる言いたいことはあらかじめ決めていますが、セミナーって「オーディエンスが知っていることを7割話せ」って言われますよね。だから、その知っていることの7割の使い方が重要だと思っています。
オーディエンスが知っている7割を、なるべく頷かない人に投げかける。で、「それ知ってる知ってる」とちょっと聴くテンションにさせる。そこに近しいものをポンって投げると、「なるほどね!」と思ってくれるので、知っていること7割の上手な使い方が重要だと思っています。
――知っていることの話し方も「何を今さら」となりかねないので、難しいと思いますが、コツはありますか。
時事ネタとかを用いる場合が多いですね。
――それは共感しやすいっていうことですか。
共感しやすい面もあるし、さわりだけでも「ああ、知ってる知ってる」ってなった後に、自分が紹介したい切り口を出す。だから最初はわりと具体的な話から始めることが多いですね。
――最初のつかみが肝心だと。
そうですね。やって、その後にちょっと抽象度を上げることをずっと繰り返します。具体例→抽象→具体例→抽象みたいな流れで。ということをしていくと興味をもってくれるのかなと思って、今はそれを試しているという感じです。
――発達障害を克服していく過程があるからこそ、セミナーで差別化できるようになったということはあるのですか。
そうですね。発達障害の反対を定型発達と言いますが、定型の中で過ごしていると、常識に疑問をもちにくいケースがあると思うんですね。
だから定型発達していれば既存の社会に適応はしやすいんです。でも、適応しているその社会自体に問題があるとき、逆に疑問を抱きにくい。発達障害や適応しにくい人のほうが、そういう“社会の常識”に疑問をもちやすい傾向にあるのかなとは何となくは思います。
――そういう意味で、 “社会の常識”について討論する番組AbemaTVの「千原ジュニアのキング・オブ・ディベート」で優勝されていましたね。何かコツはあったんですか。
討論番組みたいなスタイルが一番やりやすいんですよ。他の人が話す中で、自分なりの視点で考えて、本塁打を狙うようなやり方は話しやすいですね。
――最初から勝算はあったのですか。
作戦はいろいろと練っていて、政治家の方はきっと点数や面白みのある発言よりも政治的主張に特化するだろうと思っていましたし、芸人さんはネタとして使われるから、いいことを言ってもそんなに点数は上がらなさそう。だから優勝争いをしそうなのは、前回優勝した経沢香保子さん(実業家)と、意見をビシビシ言う町田彩夏さん(政治アイドル)かなと思っていましたね。実際、点数的にそうなったので、読み通りでした(笑)。
――「アナログ上司は、ありかなしか」というお題で、勝部さんがおっしゃった「ペーパーハラスメント」というキーワードは、つかみとしてインパクトありましたね。
そうですね。あれも先ほど言った“鉄板ネタ”のひとつです。キャッチ―なネーミングのワードを使うとテレビ的には受けることが多いので、事前に用意していました(笑)。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

勝部 元気(かつべ げんき)株式会社リプロエージェント
評論家、社会起業家、株式会社リプロエージェント代表取締役。1983年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。ジェンダー論、現代社会論、各種人権問題を専門とする若手論客として評論家活動を展開。著書『恋愛氷河期』(扶桑社)。所有する資格数は71個。

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