未来の会議室を体験したら「会議の断り方」を教えてもらえました【スマート会議術第9回】

未来の会議室を体験したら「会議の断り方」を教えてもらえました【スマート会議術第9回】日本ヒューレット・パッカード株式会社 ビジネスデベロップメント部部長 大村 恵吾氏

未来の会議室とは、どんな会議室なのでしょうか?そのヒントが、日本ヒューレット・パッカード株式会社のショールームにあると聞き、お邪魔してきました。その名も「HPE Intelligent Spaces ? Workplace」(通称、Cube)。企業のワークプレイス変革のデザインをサポートする、次世代ミーティングルームと位置付けている会議室を体験し、なぜこの会議室が誕生するに至ったのか、同社ビジネスデベロップメント部の部長・大村恵吾さんにお話を伺いました。

目次

「未来の会議室」は「当たり前」を疑うためのきっかけ

――「Cube」とはどのような会議室なのでしょうか?
一言で言えば「準備のいらない会議室」のようなものです。会議室に設置されたビーコン情報を、社員が所有するスマートフォンが検知することで、入室を自動感知します。すると、参加者の人数や名前を把握して、共有スケジュールに会議室の使用状況を知らせたり、照明がセットされたり、会議に必要な「Skype for Business」といったアプリケーションが起動します。部屋に入って椅子に座れば、そのまま会議をすることができるのです。
HPE Intelligent Spaces - Workplace(通称、Cube)
――「Cube」誕生の経緯は?
「Cube」は、「新しい会議室を導入しましょう」というよりも、「新しい働き方」を体感してもらうためのシステムだととらえています。多くのビジネスパーソンは、会議室が取れないから、会議が予定より先の日時になってしまったという経験をしたことがあると思います。そういうシーンにおいても、テクノロジーを使えばこうして解決できるということに気付く。それが「新しい働き方」を考えるきっかけになると思うのです。
――「新しい働き方」というと?
私たちは会議をするときに会議室を予約し、会議室に集まる。それをすべて「当たり前」のことだと思っています。でも、あくまで本質は「会議をやること」であって、「会議室の予約をすること」「会議室に集まること」は会議の目的ではない。ですから、会議室が取れなかったり、人が集まらないから会議をリスケしたりすることなどは、本末転倒なのです。
そうした問題を、テクノロジーによって乗り越えられることを体験すれば、「会議室を予約する」という当たり前を疑うようになり、ほかの当たり前も疑うようになるきっかけになる。「当たり前」のことって、多くは無駄な作業や時間であって、それらをなくすことが、働き方改革に結び付くと考えています
――日本は先進国の中で、労働生産性が一番低いといわれています。その原因に、日本の企業文化は関係あると思われますか?
関係あると思います。そもそも「出社が当たり前」という時点で、世界的な基準と違うように感じます。日本のお客様と会って話すと、朝起きて出社することに何の疑問も持たれていない方が多いのですが、そういう感覚の違いが、日々の業務全般への動きに影響し、結果的に労働生産性に反映されていると思います。
――確かにそういう「当たり前」はたくさんある気がします。
なぜ、そういうルールがあるのかわからないけどやっている「お作法」が、ビジネスの場にはたくさんありますよね。ただでさえ忙しいのに、さらに「生産性を向上せよ」と言われ、一方では「残業を減らしなさい」と言われる、非情な環境だと思います。
例えば、「そもそも社員がなぜ会社に来ないといけないのか」と考えたとします。そして、フリーアドレス制を導入し、会社で仕事をするという当たり前をリセットし、席・場所を選ばず仕事ができるようにします。このようにインフラとルール、そして社員のマインドセットがそろえば、オフィスの面積も減らせます。また、通勤時間とそのストレスも減り、社員が自律的に成長できる環境が整うわけです。

「出社は当たり前じゃない」からこそのオフィス

――御社では、座席はフリーアドレス制となっていますが、至る所に会議ができるスペースや電源などが設置され、豪華な社員食堂も用意されています。この充実したホスピタリティには、どのような意図があるのでしょうか?
ホスピタリティの背景には、「社員はさまざまな働き方をする人たちの集合体である」という考え方があります。グローバル企業においては、社員それぞれが国や文化など、違うバックグラウンドを持っている。そういう環境では、画一的に「こうしなさい」と言っても、あてはまらない人が絶対に出てきます。そういう中で会社ができることは、「快適な環境を作ること」なのです
――快適な環境も、それぞれ人によって変わりそうですが。
そこには「ホテリング」というコンセプトがあります。これは会社をホテルに、社員を宿泊客に例える考え方です。出社が当たり前ではないことにすれば、社員は無条件で会社に来るわけではなくなります。つまり、出社に目的が伴うことになります。だから、その目的に応じた環境を提供するわけです。資料を作るためのスペース、コミュニケーションをとるためのスペース、会議をするためのスペースといった具合に、目的別のいろいろなタイプのスペースが作られています。
――リモートでの仕事が増えれば、やはりビデオ会議が多用されるのでしょうか?
基本的にビデオは利用せず、PCの画面共有で資料を見るのが通常です。
――ということは、音声だけの会議がメインなのでしょうか?
そうです。これはグローバルで共通しています。元々、海外には電話会議の文化があるため、相手の顔を見ずにコミュニケーションをとることに慣れていて、違和感を覚えないのです
音声だけの会議に最初は戸惑うかもしれませんが、会話に入るタイミングなどは慣れの問題ですね。逆にビデオを利用すると、相手の表情や背景、映り方等の映像が気になってしまいます。
もちろん、相手の表情や顔色が見えたほうがいいという場合は、ビデオ会議にすればいいわけです。

効率化すればするほど会議は増える。本当に必要な会議の見分け方とは?

――グローバル企業というと、効率化のために会議をあまりしないイメージがありますが、実際のところはいかがでしょうか?
社内に関していえば、海外のメンバーとのコミュニケーションは常に必要ですが、それを「会議」と呼ぶかどうかですね。Outlookの予定を見て、空き時間に会議通知を送っている人もいれば、メッセンジャーのプレゼンス(自分の状況)がオンラインだと突然話しかけてきて、そのままディスカッションというのは日常茶飯事です。
効率化によって会議の数を減らせたとしても、短縮された移動時間や会議時間などを使って、どんどん新たな予定を入れられます。情報共有や意思決定のスピードが上がっていますので、結構たいへんです。
――会議の時間は短いものが多いのでしょうか?
会議によってまちまちですが、私自身は会議への出席依頼が来ると「それ30分でできない?」など、短くできないか確認するようにしています。
――たくさんの会議をこなすためにしていることはありますか?
相手の出方を見て、実際に会議をするかどうかを判断しています。例えば、会議の出席依頼が来た場合、チャットで「アジェンダを教えてください」とリクエストして、その返事が来るかどうかを見るのです。ちゃんと返して来る人は、会議の目的や狙いが明確な場合が多いです。時短のために事前に資料を送ってもらって、そのままチャット上で会議をすることもあります。逆にすぐに返ってこない人は、とりあえず時間がほしい人。会って話をすればうまく伝えられるけど、整理できていない人が多いですね。
――後者の方とは、実際に会って会議をするのでしょうか?
とりあえず会って会議をしたいという人も多いので、断ることも少なくありません。
――会議自体を断わることもあるのですか?
「依頼されたら無条件に受けるのが当然」というのも変だと思いませんか?本当に会議する必要がある人は、断っても引き下がらないんです。だから、きちんと目的を聞いてから、必要であれば、時間を取って会うようにしています。
会議は意思決定の場であったり、コミュニケーションの場であったり、目的はさまざまですが、会社にとって欠かせないものです。必要であれば、数や時間は問題ではありません。重要なのは、いかに無駄な会議を減らすかです。私自身は、それでもスケジュールが会議だらけになってしまって困っていますが(笑)。

文・写真:坂上春希

大村 恵吾(おおむら けいご)日本ヒューレット・パッカード株式会社
日本ヒューレット・パッカード株式会社ビジネスデベロップメント部部長。1994年、横河ヒューレット・パッカード株式会社入社。金融機関向けネットワークエンジニアとして、インターネットバンキング向けセキュリティ案件等に従事。2002年より通信事業者向けモバイル決済サイト、P2P制御システム、海外ベンチャー企業の国内展開等を担当。2007年よりマイクロソフトのソリューション営業/企画開発に従事し、現在に至る。
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