会社が受け入れるべき「曖昧さ」【スマート会議術第176回】

会社が受け入れるべき「曖昧さ」【スマート会議術第176回】F6 Design株式会社 代表取締役 山本大平氏

チャットツールやテレワークの浸透によって、働き方改革、効率化、労働生産性向上の名のもと、日本でもデジタル化の波がようやく大きなうねりになろうとしている。

しかし同時に、一気に加速するデジタル化の波に戸惑う企業が多いのも事実だ。

チャットツールやメール、ビデオ会議、テレワーク…デジタルの発展によって、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションの形は大きく変わろうとしている。しかし一方で、私たちは本当にこれらデジタルテクノロジーの恩恵を授かって、効率化、労働生産性の向上に役立てられているだろうか。

山本大平氏は、トヨタ自動車、TBS、アクセンチュアと各業界の最先端で実績を積み重ねてきた経営コンサルタントだが、最も大事にしてきたのは人との出会い、そしてコミュニケーションだと言う。

山本氏はそんなコミュニケーションのあり方を著書『トヨタの会議は30分』で指南する。同書ではコミュニケーションにおいて、あえて「曖昧さ、電話、飲み会、雑談」といった「アナログ的」なものに価値を見出している。山本氏は、なぜデジタル社会においてあえて「アナログ的」なコミュニケーションを重視するのか。その真意を伺った。

目次

チャットの30分より電話の3分

――テレワークが浸透しつつある中で、コミュニケーションがとりづらくなったという声も多くあります。最近のコミュニケーションをめぐる環境について、山本さんご自身はどんな印象を持っていますか。
チャットツールが普及した分、電話が減っていると思います。チャットで完結できるのが、「できる人の仕事術」みたいな文化が生まれてきていますが、個人的にも「チャットのメリデメ考えてくれてますか?」という議論はしたいですね。結構クライアントさんからのチャットベースの連絡が増えていますが、膨大な案件を同時並行で走らせてる側は「その場完結」をお願いしたいことが多かったりします。なので自分も相手にそういった面倒を与えたくないので、テキストと音声は使い分けます。
――最近の若いIT企業では、ほとんどの企業が隣の席でも正面の席でもみんなチャットツールで会話をしているのですごく静かです。
そうなんですよ。僕はクライアントに「チャットのラリーに何分かけていますか?」と指摘することがあります。待ち時間を入れると平気で数時間チャットラリーが続いて、それを電話で話したら2~3分ですべてが終わる。「時間の絶対値で考えてムダなことはやめませんか」と話します(笑)。個人的にもチャットは1往復にして欲しいと思っています。チャットで5W1Hで何かを聞いてこられたら「電話ください」と回答する様にしています。仮に1ラリーを返した場合は「なぜですか?」とまたチャットで聞かれる訳ですし。
――1つの会社で数種類のチャットツールを使って、かつスレッドもいろいろ立てていたりすると、チャットツールの処理だけで午前中いっぱい潰してしまうことがあります。
そうですよね。メールがチャットになって、メールより手軽なのでチャットが良く見えてしまうのでしょうか。でもメールでやっていることと本質は変わらない。もう1つは、電話をすることは「相手を拘束するから良くない」という、変な固定観念があるのかもしれないですね。チャットで30分かかるのが電話で2~3分で済むのであれば、僕だったら電話の方がありがたいですけど。

「報連相」の「報連」は会議をする必要はない

――ムダな会議を減らしていくときに何か指標になることはありますか。
いわゆる「報連相」で言うなら、報(告)連(絡)はチャットやメールでできてしまうので、そもそも会議にしなくていいのではないでしょうか。ただ、相談や新しいアイデアの会議などは会ってやる必要があるし、声色という音声情報や表情といった情報も落とさずにやるべきだと思います。これらをすべて会議に入れ込んでいる会社が多いのも事実です。
会社のカルチャーによって簡単になくせないかもしれませんが、「うちは報連の会議はとりあえずやめてみましょう」と、決めごとにしてしまえばそんなに難しいことはではないと思います。
もし不具合が生じるような部分が出てきたら、少しずつ戻して考えればいいのではと思っています。本気で会議の無駄時間を無くしたいなら「何を辞めるか」からまずやってみれば良い。やってみて上手く機能しなければ削ぎ落とす量を減らしてやれば良いだけで、とにかく社内で試せばいいのではないですか。
報連相の「報」と「連」こそチャット軸で済むと思います。残るは「相」ですよね。会議における「相」という言葉遣いがにフィットしないので「問題解決」と「企画会議」くらいに分けてしまいます。この2つの部分だけはさすがチャットで済ますのは苦しいと思います。理由はさきほど述べたとおりです。
また「問題解決」を会議体で回す場合は問題をさらに細分化して、どんどん細分化した課題に優先順位をつけそれをアジェンダ化する。アジェンダに直接関係する役割の方だけ集めて課題解決のPDCAのルーティーンを回す。
整理すると、報(告)連(絡)はデジタルツールを駆使していちいち集まらない、相(談)≒問題解決or企画会議 は顔を付き合わせた会議を。問題解決はどんどん問題が生じている課題(真因)を細分化してアジェンダ化しアジェンダごとに関係者だけで会議PDCAを回す。
くらいの決め事をする、あるいは試すだけでも、少しは効率的な時間の使い方になるような気はしますが。

能動的に人間関係を築く

――テレワークによってリアルに集合する場が減ることで、さらにコミュニケーションの機会が減っていく懸念はありませんか。
その方向ではないでしょうか。
いまはテレワークが増えてきましたが、テレワーク以前にできたこととして、たとえばトイレで上位の方とすれ違った際に軽く挨拶するだけでも人間関係って変わると思うんですよ。「(こんに)ちわっす、おつかれさまです」と。でも最近ではこういった偶発的なちょっとしたコミュニケーション機会は一切なくなり、何時何分から開始されるオンライン会議でしか会社の上役や同僚及び部下と会わなくなっています。さすがチャットで上司に「ちわっす」はおろか「こんにちは」と送るのも違和感だらけの行為ですしね(笑)。テレワークは人間関係を円滑にするためのちょっとしたコミュニケーションの機会を奪った、ような気もします。ひと昔前だとタバコ部屋のちょっとした雑談で物事が決まることは良くありましたよね。
――それでも能動的な人間関係を構築する必要はありますか?
能動的に人間関係をちゃんとつくっていこうというマインドセットはそもそも必要だと思います。それもない前提では、魔法の杖を求めるのは無理があります。ムダは削ぎ落としても必要まで削ぎ落とすと、会議の時短化は難しいと思います。人間には感情があるので。極端ですが、知らない人にアイデアや意見を否定されたら「なんだと?」と思う人間の方が圧倒的に多いのではないでしょうか(笑)。つまり人間関係のベースがあってこそストレートに意見をぶつけられるも当たり前。家族や兄弟には遠慮なく言えるのはなんでなんでしょうね。
固定概念は疑ったほうがいいと、僕は常々思っています。たとえば最近はコロナ禍に関係なく、飲み会は仕事に不要という雰囲気になっています。でも、そこを割りきったら本当に生産性というコスト原因が回収できますか?と問いを投げかけたい。たぶん長期的に見たら生産性は下がっていると思いますよ。細かいコンフリクトが起きて、いちいち火消しをするのに余計な時間を費やすことになるんです。いろいろな会社でそんな光景を数多く見てきました。
――テレワークやオンラインになって時間が浮いたかもしれないけど、それ以上の生産性を上げるためのムダな時間が実は増えてしまっている可能性があるということですね。
そうですね。たとえばLINEで「りょ」って打って成り立つのは、実は作業の部分です。だから「わかりました」「やりました」「り」「りょ」みたいなのがつくのですが、これは作業なんです。そもそも付加価値を生むコミュニケーションではないのです。YES or Noの回答ということです。一方で問題解決をするためには、脳みそをひねり出して乾いた雑巾を絞るようなことをしないといけない。それは人と人とが会議でやるべき議題ですし、新しいものを生み出すときに「りょ」ではできない。
「りょ」だと逆に矛盾しますよね。「今度新しいものを開発しようと思ってるんだけど」「りょ」では、おかしいですよね(笑)。逆に「りょ」で済むものは作業とか、「あなたの連絡を受けました」というただの意思表示です。だからそれとこれとは別で、会議を一緒くたにしたらダメです。この辺は先に述べましたが。
報(告)連(絡)に結びつくのですが、「報連」は会議に入れなくてもいいですし、相談のところに、作業レベルのことはたぶん残らないはずです。問題解決の話になったり、新しいものを生み出す会議になったりします。そこまではシステマチックに絞ってもいいかもしれないですね。
――この10年で仕事は複雑になりましたが、それ以上に作業レベルの仕事も増えている気がします。
そうですね。エクセルの入力作業とか、経理処理とか、そういうものも作業に含まれますが、そういう頭を使わなくていいルーティン作業は、全部AIや機械に取って代わる時代になりますので、実は放っておいてもなくなるかなと思っています。
その結果ダメになる会社はダメになっていきますよね。逆に「この人は作業係だけど、こういうところまで提案してくれるんだ」と建設的なアピールが残る時代にもなってきている。だから誰かが世の中に会議を仕掛けなくても、水が高いところから低いところに流れるように、会議は勝手にそういうものになっていくのかなって思っています。
そのスピードを上げたければ、他の会社より群を抜いて成果をいち早く担保する。もしくは上げたければ、能動的に仕掛けるしかない。

“予定どおりの不合理”を理解する

――働き方改革の一貫で、長時間労働が評価される時代は終わりつつあります。VUCA時代となって、価値観の多様化や複雑化している中、仕事の評価を定量化するのも難しくなっていませんか。
定量化できないことっていっぱいあるので、必ずしも成果を定量化で測る必要はないと思います。たとえば私がいたテレビ局のTBSは、ドラマ制作やバラエティ制作など、しょっちゅう企画会議が行われる場がありますが、一概に定量で線引きできない。クリエイティブ思考の仕事は永遠に答えがない世界でもあるので致し方ない部分もあると思います。
「こいつ、いいこと言うやん」とか「こいつ、いっぱいアイデア当ててきたけど、使えるのが1個もなかった。でもこのエネルギーはそのうち役に立つよね」「やる気はあるよね」という評価があったとします。こういったことは短期的に見たときには評価はできないはずなのですが、アイデアを1個出すように言ったときに10個用意してきた人がいたとします。それを成果が出ていないと言って定量化で評価しないで切ってしまうと、モチベーションが下がって次にアイデアを出してこない可能性は高いですよね。
そのときちゃんと目利きができて、「こいつ、いまは2割しか打ってないけど、そのうちホームランを打つかも」「3割バッターになるかも」と評価できれば、きっとまた出してくるわけですよ。
きれいに咲いた瞬間の花は評価しやすいですが、つぼみの段階の判断がすごく難しい。定量化するということは、花が咲きかけている蕾の付いた枝をバッサリ切っちゃうってことですよね。それは組織としてももったいない。
――長期的な視野を持つことが大切ということですね。
大前提として、どの会社も持ったほうがいいと思うカルチャーが1つだけあります。それは「曖昧さを受け入れること」です。意外と曖昧なグレーなところってあって、デジタルみたいに0と1で区分できない部分は必ずあります。曖昧な部分を受け入れないと、グレーなところを残す意思決定ができない。
たとえば野球では送りバントした選手も評価されます。あれは犠打の見える化が行われているからです。送りバントをする選手がいなくなったら、2点取れていたのが1点になったり、3点取れていたのが2点になったりと、生産性を考えると減るわけです。でも仕事において、野球でいう犠打の様な役割がちゃんと定量化できない部分が結構あると思うんですよ。だから評価のところで合理的に突き詰めると、定量化での評価にはそういう現象が起きると思っています。
――どんな企業も、今後は企画力とか発想とすぐに定量化できない評価が重要になってくるということでしょうか。
僕は“予定どおりの不合理”と言っているのですが、たとえばある上司が部下に朝言ったことと夕方に言ったことが真逆のことになったとします。そこで部下に“予定どおりの不合理”のマインドがないと、「なんでですか?朝と言っていることが違いますよ!」ってまた面倒くさいことが起きるわけですよ。
でもその上司は上司で朝から昼の間に情報がアップデートされている可能性が非常に高いんですね。朝の情報量での意思決定と、朝から昼に情報が増えて「あ、その観点があるんだったら、やっぱりこの判断はこっちだね」という、合理的な判断は実は変わっている可能性がある。それをいちいち部下一人ひとりに説明していたら、その時間すらももったいない。組織が大きくなればあるほど、全部が全部を説明していられない。
そのときに、受け入れる側も曖昧さを受け入れるスタンスがないと、たぶんツッコミどころ満載になる。「朝はこう言ったけど、夕方はこう言う」と。“予定どおりの不合理”はそういった意味です。指示の受け手が、そこまで想像することも必要だということです。全部伝えるというのはそもそも非現実的なことなので、受け手側が最初から曖昧さを許容するってことを持っておかないといけない。
――朝令暮改が問題視されることが多いんですが、そういうところを読み解く力も必要ということですね。
おっしゃるとおりです。1つの大事な暗黙知としてまず自分で考える。上司が言ったことは絶対じゃないんですよ。つまり、トヨタでは上司に「会議は30分」と指示されて「30分でやりました」って言ったら叱られたわけですよ。「お前は社長が死ねって言ったら死ぬんか」って(笑)。だから30分の言葉の意図って何だったっけ?というのを推察する力は、みんな暗黙知として持っておけという部分はあったと思いますね。だから成り立っていたと思います。
――30分と言われても、自分で考えた末に10分や50分が理想だと思ったら、それでいいのですね。
そうです。でなければ「お前、なんでこの会議30分でやったんだ?」って詰められますよね。「もうちょい議論する必要あったでしょ」とか、「議論でこの問題までをクリティカルに解決できたでしょ」って叱られるわけです。でも30分と言われた議論を、「そもそもそんな時間をかけてやるような内容じゃない」「そもそも会議って50分で終わるケースが多いよね」と、工夫をして変わるのは仕方ないと思いますね。ただ、日本ではほとんどの会議が理由なく一時間設定なことについては疑問を持っています。だいたいの会議は30分もあれば終わると思うので。

文・鈴木涼太

山本 大平(やまもと だいへい)F6 Design株式会社
F6 Design株式会社代表取締役、戦略コンサルタント/事業プロデューサー。2004年新卒でトヨタ自動車に入社し長らく新型車の開発業務に携わる。トヨタ全グループで開催される多変量解析の大会では優勝経験を持つ。トヨタ自動車在籍時には常務役員表彰、副社長表彰を受賞。その後アクセンチュアでのマネージャー経験などを経て、2018年にマーケティング総合支援会社F6 Design株式会社を設立。トヨタ式問題解決手法をさらにカイゼンし、統計学を駆使したオリジナルのマーケティングメソッドを開発。企業/事業の新規プロデュースとブランディング及びデジタル化におけるコンサルティングを得意領域としている。また現在は、大手企業から中小企業まで幅広く戦略顧問やCXO、及び新規事業のプロデューサーといった要職も多数兼任。著書に『トヨタの会議は30分』がある。

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