会議HACK!がメディアパートナーとして参画する一般社団法人プレゼンテーション協会(代表理事 前田鎌利)が、3月22日(月)、イベント「佐々木市長・前田トークセッション 「伝える×伝える」~念いの伝え方~」を開催しました。
3月の 「伝える×伝える」は福井県・鯖江市の佐々木勝久市長をゲストにお招きしての対談です。
鯖江市は知る人ぞ知る、世界で最も有名な“めがねの町”。佐々木市長は山梨県出身でありながら、2003年に奥さんの故郷である鯖江市に引っ越し、2007年に市議会議員として初当選。昨年10月には市長選に立候補して見事当選を果たしたばかりの新人市長です。
佐々木市長のモットーは「対話」。議員時代からずっと持ち続けてきた「対話」重視の考え方は、市長となった現在も変わりません。市民の方々にいかに伝えたいことを伝え、対話を重ねることが最も大切なことだと言います。佐々木市長は、市民との対話にとどまらず、全国、ひいては全世界へ情報を発信すべく、日々ブログやSNSを駆使してその活動の場を広げています。
福井県鯖江市は、実はプレゼンテーション協会 代表理事の前田鎌利氏の故郷でもあります。今回は佐々木市長に鯖江市への熱い念いとともに、“伝える”ことの大切さ、難しさ、やりがいについて語っていただきました。
鯖江市の魅力を伝える
第一部では佐々木市長に鯖江市の魅力についてプレゼンをしていただきました。
“めがねの町”として有名な鯖江市は、福井県で最も人口密度が高い人気の町です。佐々木氏は鯖江市民の最大の魅力は“市民力”の強さだと言います。
鯖江市には市民主役条例というユニークな条例があります。これは市民の皆さんが発案した条例を軸にまちづくりに積極的に参加していくことを狙いとしています。市民自らがいろいろなアイデアを鯖江市にプレゼンして実際に実現した事業に参加してもらうそうです。また、今年の4月1日には市民活躍課を発足。まさに市民の市民による市民のためのまちづくりが始まろうとしています。
では、鯖江市特有の“市民力”はいつ、何をきっかけに育まれてきたのでしょうか。
そのルーツは1995年に開催された世界体操競技選手権大会が大きなきっかけになったと言われます。人口7万人足らずの小さな市でこの規模の大会をすることはとても珍しいこと。その人口の半分近くの延べ3万人がボランティアで活動したことが、市民の間で「やればできる」という自信となったそうです。
佐々木市長は鯖江市の“市民力”を象徴する活動が3つあると言います。それは「除雪」と「おもてなし」と「伝統野菜の復活」。
鯖江市では随時「除雪」のボランティアを募集しており、多くのボランティア市民の方々が大雪の多い鯖江市の頼もしい助っ人になっていること。
そして「おもてなし」。写真の黄色い服を来た人たちが、「SABAEおせっ会」という名のおもてなしをするボランティア活動をしています。きっかけは第4回おとな版鯖江市地域活性化プランコンテストだったそうですが、いまでは観光案内をはじめ、鯖江駅前に立ってサンドーム福井などに来るお客様の荷物預かり、コンサート活動、婚活など、さまざまな困り事などの相談も受けるボランティア団体となっています。
3つめは「伝統野菜の復活」。鯖江市にはもともと地産の名物が数多くあるのですが、中でも昭和の時代に一度消えかかった吉川ナスや川島ごぼうは、鯖江市民が誇りをかけて復活させた名産物となっています。
そして、これら3つの活動を軸にしながら鯖江市の経済を支えているのが「めがね」「繊維」「漆器」の三大産業です。
鯖江市で生産するめがねは国内の9割を占めるという、メイド・イン・ジャパンのめがねのほとんどはメイド・イン・サバエなんですね。特にチタンフレームのめがねは世界初ということもあって、世界中のチタンフレームめがねの生産地となっています。めがねで培った技術は、いまでは医療やウェラブル分野にも応用・発展しています。
繊維は鯖江市の地場産業として明治時代の中頃から主に輸出向けに発展してきた産業です。こちらもいまではクルマのシートや炭素繊維へと多分野に進出・発展しています。
そして最後は漆器。その歴史はなんと1500年! 26代継体天皇に漆器を贈ったのを機に、継体天皇が気に入り一気に全国で有名になった越前漆器の由来となっています。その伝統は今日まで受け継がれ、特に戦後の高度成長期には業務用漆器の8割の生産を誇ったそうです。
鯖江市の産業のすごいところはこういったさまざまな伝統の産業がありながら、常に新しいことに挑もうとする進取の気性に富んだその“市民力”なのかもしれません。2009年には東京ガールズコレクションとコラボを組んで福井産地のめがねフレームやサングラスなどの魅力を発信するほか、国連が提唱する「SDGs」の啓発活動を行っています。また鯖江市は、「SDGsゴール5:ジェンダーの平等」の推進に力を入れており、2019年12月には鯖江市内のめがね会館で「アンワルル K.チャウドリー国連大使来鯖記者会見」を行い、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」を推進する鯖江市の取り組みなどを、世界に発信する拠点「さばえSDGs推進センター」を設置することにもなりました。
ほかにも図表のような、ツツジがきれいな西山公園、めがね会館、ソースカツ丼を持ち歩いて食べられるサバエドッグや大福パン、さまざまな観光名所や名産品がたくさんありますので、興味のある方はぜひ一度遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
とにかく「いま」を発信する
第二部では「伝える✗伝える」をテーマに佐々木市長と前田鎌利氏との対談です。
議題は以下の3点。
①市民の方に伝える際のこだわるポイント
②県外の方に伝える際のポイント
③いま伝えたいこと
前田氏がまるで里帰りをした子どものように、好奇心いっぱいに佐々木市長にたくさんの質問をしていきます。
前田:議員時代と市長になってから何か伝えるポイントは変わりましたか?
佐々木:私はずっと「政治には対話が大切」だと言い続けてきたので、市民の方との対話の中でしか何も生まれないという考えが根底にあります。ただ、市長になってから単純に「対話する時間」が少なくなったので、土日などの週末はとにかく現場に赴いて市民と対話するように心がけていますね。
前田:佐々木さんは、議員時代からFacebookやYouTubeなどSNSを駆使して情報を発信していますが、どのように工夫されていますか。
佐々木:私自信は実は超アナログなんてす。とはいえ予算もないので、仲間たちに教えてもらいながらブログとFacebookをすべて自分で制作することから始めました。
前田:SNSの活用で特に心がけていることはありますか。
佐々木:素のままを出すことでしょうか。イベントがあってもあとでじっくり考えて書くことはしません。現場でそのとき、その瞬間に感じたことをできるだけリアルタイムで発信します。SNSはとにかく「いま」を発信するほうが伝わると、仲間からもアドバイスをもらったので、そうするように心がけています。リアルタイム性が見る人に親近感を抱いてもらうためにも、素早くアウトプット、素早くレスポンスすることが一番大切だと実感しています。
前田:佐々木さんのメッセージには、一つひとつが家族に語りかけるような身近な印象があります。
佐々木:それは私が家族に語りかけるように意識しているわけではないんです。最初に鯖江市の魅力は“市民力”とお伝えしましたが、やはり最大の自慢は人なんです。鯖江市はめちゃめちゃいい人たちの集まる町なんです(笑)。家族とまではいかないにしても、私は仲間たちを“チーム鯖江”と呼んでいます。「みんなで明るく楽しくやりましょう」といつも言っています。私は選挙でも「笑顔をつくる」と訴えてきました。とにかくいろいろなところで笑顔があふれる町にしていきたいんです。
前田:ビジネスでは社内と社外でプレゼンのやり方を変える必要があったりするのですが、市長として県外の方に鯖江市の魅力を伝える際のポイントは何かありますか。
佐々木:対外的には大きく2つのポイントがあります。
①鯖江市は「ものづくりの町」ということは必ずお伝えする
②市民が主役の町づくり
この2点です。
前田:2つに絞られているのはシンプルで伝わりやすいですね。ビジネスでもそうですが、どうしても自分たちの魅力をたくさん知ってもらいたいがあまりに、できるだけたくさん伝えようとして逆に全然伝わらなくなってしまうことが多いですからね。
佐々木:前市長は16年やられていたのですが、鯖江市をずっと“めがねの町”として売り出してきたんですよね。これ以上わかりやすいウリはないですよね。
前田:確かに。ぼくも鯖江市出身ですが、小さい頃からずっと町のめがねの看板が一番心に残っています(笑)。夜もライティングに照らされてきれいですよね。わかりやすくワンフレーズでいくのはとても重要だと思います。佐々木さんはインターネットも上手に使っていますが、鯖江市をインターネットでアピールしていくにあたって、ビジュアルや動画などでこだわっていることはありますか?
佐々木:インターネットは当然世界を相手にできる強みがあるので、インターネットを使った情報発信がカギを握っているとは思っています。YouTubeで「かっちゃんねる」という番組を今年1月から始めたのですが、これから鯖江市についてさまざまな情報を発信していきたいと考えています。まずの目標は「鯖江」(さばえ)のゴロに合わせて登録者3800人を目指します(笑)。
「かっちゃんねる」
自ら出演して鯖江市の魅力を伝えるYouTube番組。すべて佐々木市長自身と市の職員で制作しているとのこと。
前田:地下探索とかなわとび大会とか市長自らやっているのは面白いですね!テーマはどのように決めているのですか。
佐々木:YouTubeのテーマも職員からいろいろアイデアを提案してもらうことが多いですね。鯖江市に限らずですが、町には目に見えないけど大切なものっていっぱいあると思うんです。そういう目に見えないけど市民が生活するうえで大切なものの裏側をみんなに知ってもらいたいという思いが強いですね。
前田:子どもの頃って学校の社会見学で町のいろいろなところへ行くけど、一回行ったらほとんどそれで終わっちゃう。こういう動画の形でいつ、どのタイミングでも見られるというのは、鯖江市を身近に感じられるいい試みですね。テレビなどのマスコミがとりあげるより、市長自らがやるからより魅力的だと思います。
佐々木:ありがとうございます。
前田:職員の方と必ず面談をやられるということですが、どんな流れでやられているのですか。
佐々木:やはり対話が大事なので職員の方とも徹底的に対話しないといい仕事はできないと考えています。部課長は全員個人面談しています。課長補佐クラスはグループで時間をとって対談しています。職員は全員で400人程度なので、できるだけいろいろな職場を見ながらみんなと話し合って一緒に苦労していかないと、いろいろなものを市民に提供できない。そのためには話すことが第一なんですね。
前田:いま最も伝えたいことは何ですか。
佐々木:いまはまだコロナ禍が大変だと思いますが、協力してくださっている市民には大変感謝しております。まだまだ大変だと思いますが、鯖江市だけではなく、日本国民みんなで力を合わせて助け合って乗り切っていきたいと思います。
最後に視聴者の方から佐々木市長に多くの質問が寄せられましたので一部を抜粋してご紹介します。
- Q.
福井出身ではない人が活躍しているのはなぜですか?
- A.(佐々木市長)
やっぱり人がいいんです。みんなめちゃくちゃやさしいです。私自身、15年前に山梨からやってきましたが、4年目で市会議員の選挙に出られるくらい迎え入れてくれました。普通は外から引っ越してきて4年目で選挙になんか出られないですよ。でも、それを受け入れてくれたり、力を貸してくれたりする人がいるのが鯖江市なんです。だから人口のわりに鯖江市でビジネスをやりたいという人も多いですね。
- Q.
鯖江市役所の風通しのよい空気はどのようにつくられているのですか?
- A.(佐々木市長)
これは私が市長になったからではなく、もともとの鯖江市役所の風土があるのだと思います。でも私はそれで決して満足しているわけではないので、もっともっとみんなが明るく笑顔で仕事してほしい。そういう市役所にもっとなってほしいと考えています。
- Q.
鯖江市民は新しいものや珍しいもの好きという評判ですが本当ですか?
- A.(佐々木市長)
そういう話はよく聞きますね(笑)。伝統をとても大切にする市民性があるとともに新しいものを取り入れようとする風土があるので、どんどんやってくれればいいと思います。そうすることで町が元気になりますからね。
- Q.
何がきっかけで対話の重要性に気づいたのですか?
- A.(佐々木市長)
私は実はすごく人見知りなんです(笑)。話すのが得意ではないんです。でも、社会に出たときに先輩に「もっと出て話をしたほうがいい」と言われたんですよね。人見知りだからこそ、外に出て話をしろと。それで意を決して外に出て話すようにしたら、話すことで良いことがいっぱいあると知ったんです。それがいまにつながっています。
今回MCを務めた前田氏は鯖江市出身ということもあり、佐々木市長とはジモティトークで盛り上がったのですが、とにかく佐々木市長が熱いです! いつも絶えない佐々木市長の笑顔もいまや重要文化財なのではないでしょうか。そんな佐々木市長の明るくも熱い念いが伝わるトークイベントでした。
プレゼンテーション協会のイベントは今後も定期的に開催されますので、ご興味のある方はぜひ次回のイベントにもご参加ください。
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