働く女性達へ 伝えること 伝わること ~プレゼンテーションスキルアップ講演・対談~
12月8日(日)、「会議HACK!」が協賛メディアとして参画する一般社団法人プレゼンテーション協会の女性限定イベントが行われました。
テーマは「働く女性達へ 伝えること 伝わること」。
もっと女性達が念いを伝えられるように、もっと女性達が未来を創られるようにーー。
そんな念いを込めて、代表理事の前田鎌利氏が、女性のためのプレゼン講座を開催。女性のプレゼン力を上げるプロジェクトに約100名の女性が集まりました。
第1回は、これまで3万人以上の出会いを創出しオールラウンダーエージェントとして活躍する森本千賀子氏をゲストに迎えての講演。森本氏はリクルートキャリアで多くの採用、組織課題のソリューションを手掛けてきたキャリアデザインのプロフェッショナルです。
自分しかできない表現方法で時間をかけて届ける
第一部は前田鎌利氏による「働く女性達へ 伝えること 伝わること」と題した講演。
前田氏は、「プレゼンとは情報伝達のための手段の一種」と言います。プレゼンという概念は、アリストテレスが『弁論術』をまとめた紀元前300年頃からあり、人類は今日まで2000年以上にわたってプレゼンをしてきたとのこと。口頭から文字、そして絵や音声、動画などさまざまな表現方法を手にして進化してきたプレゼン。相手が意思決定してくれるための情報伝達のすべてがプレゼンであると言います。
では、プレゼンにおいて一番大切なことは何でしょう?
それは“感情”だと前田氏は言います。
「伝えたい相手に自分ゴト化してもらうためには、感情を動かしてもらわなければなりません。そのためには、あなた自身の“個”を伝えることが最も価値があり、相手の感情を動かします。また、伝え方にはプロセスがあります。自分の言いたいことをただ並べ立てても、相手には伝わらないし、響きません」
心を動かすためには、「共感→信頼→納得→決断」のプロセスで、相手の感情をデザインすることだと言います。
「共感」とは、最初に相手が自分ゴト化するような「あるある」課題を示すこと。
「信頼」とは、個人として信頼を勝ち取るかがカギ。いまは、会社の看板だけで信頼を得られる時代ではなくなっています。
「納得」とは、未来像を見せてあげること。その商品やサービスを使ったらどんなことが起きるのか、何が得られるのかなど未来の姿を見せてあげることで納得をしてもらいます。そして最後に「決断」をしてもらいます。
続いて、具体的に資料を作成する上で知っておきたい5つのテクニックについて説明に入ります。
- 1. ビジュアル配置
- 写真は左に写真、右に文字を配置するのが鉄則。左の写真は感性が得意な右脳が見て、右の文字は論理思考が得意な左脳が見るため、この配置だと脳の情報処理速度が速くなるそうです。
- 2. 画質
- 写真は画質が高く大きいほど情報が多くなり、インパクトもあるので、できるだけ大きく扱います。小さい写真を穴埋め的にたくさん並べても意味がないので避けます。また、余計な枠線や飾りなどノイズが入ると感情が途切れるので、余計な情報は入れないようにします。
- 3. つかみ
- 数字と質問を駆使します。たとえば「2」という数字を最初に見せます。次にこの数字の意味が「生涯で洗濯する時間が2年」だと種明かしをします。「この「2年」を「1年」にすることが可能となる乾燥機ができました。」とすると購買意欲が上がるといったように数字や質問はつかみに効果的です。
- また、プレゼンターが質問をしてオーディエンスが答えたら、その時点でオーディエンスはプレゼンターの話を自分ゴト化します。前田氏はいつも最初に質問することにしているそうです。
- 4. 目線誘導
- 富士山のイラストが小さく描かれていても、説明的な小さなイラストには驚きもインパクトもないので避けましょう。イラストより写真のほうが数秒で直感的に伝わります。さらに、この写真を動いているように「変形」というアニメーションを使うと目線が誘導できて効果的です。
- 5.公式法
- 「+」「-」「×」の公式です。たとえば、「売上=客単価×来店者数」。
文章でだらだら書くより、公式にすることで直感的に理解できます。
以上が、プレゼン表現の5つのテクニックについての説明です。
前田氏は、「プレゼンは勉強すれば誰でも3カ月で上手くなれる」と言います。
「大事なのは自分なりの、自分しかできない表現方法で時間をかけて届けること。それは自分と向き合わないと出てこないことであり、検索しても出てこないことです」
いま一番伝えたい人
いま一番伝えたいこと
これが何かをじっくり考えてやることがプレゼンでは一番大事なことだと締めくくりました。
出会いは偶然ではなく必然
続いて第二部は、morich代表取締役社長・森本千賀子氏の講演です。テーマは「プレゼンとは贈り物」。
森本氏がなぜプレゼンのプロフェッショナルになったのか、その経緯について時代を遡って語られました。
森本氏がプレゼンを意識することになったターニングポイントは、4回あったそうです。
入社1年目にして全社MVPを受賞して以来、受賞シーンにはいつも名前があがるように。自信もつき、もっともっとと思う中、業務量の限界を体感するタイミングが来た。そこで考えたのが、❶自分じゃなきゃできないこと❷自分がやりたいことにフォーカスし、それ以外は人に任せようと考え、専任のアシスタントをつけてもらいました。すると、こなせる仕事の業務量がそれまでの3倍以上になったそうです。
さらには自分が学んできたこと、培ってきたノウハウを他の人も再現できるようにと、社内勉強会を実施。すると勉強会の評判がリクルートグループ各社に広まり、グループ内に留まらず競合各社からも勉強会をしてほしいと呼ばれるようになったそうです。
2つ目のターニングポイントは入社式当日に所属長から「リクルートの看板を背負って仕事するな」と言われたこと。リクルートは30~40代で独立する人がとても多いことで知られる会社です。そこで森本氏はどうしたらセルフブランディングをしていけるかを考えました。そこで出した回答が広報と連携して取材を受けることでした。自分の仕事についてリアルな生々しい話をできるのは現場だという自負のもと、人選に困っていた中、可能な限り取材を受けるようにしました。若いうちからいろいろなメディアとの接点ができたことで人脈も広がり、メディアが持つ大きな影響力を実感したそうです。
3つ目のターニングポイントは第二子が誕生した2009年。新しいことにチャレジをしようと思ったとき、出版社から本を出さないかと打診されたこと。そのきっかけはパートナーの開拓を始めたことでした。
それまでずっと新規開拓の営業をしてきたものの、契約が成立するのはせいぜい100件に1件。そこで森本氏は「Win-Win大作戦」と題して、一緒に営業をしてくれるパートナーの開拓をすることにしました。すると3カ月で60社超のパートナーを獲得。その活動の噂を聞いた出版社から「そんな発想ができる森本さんの仕事ぶりは非常に面白い。ぜひ体系化してみんなに広めよう」とお話をいただいたというのです。翌2010年には母校の獨協大学で初の講演。2009年はまさに組織の枠を越えたことでチャンスが広がった年になりました。
4つ目のターニングポイントは、2011年の東日本大震災です。震災を機に、世の中の生き方・働き方の意識が様変わりした年でした。その空気をいち早くキャッチしたNHKの人気番組『プロフェッショナルの流儀』が、働くことにフォーカスして活動をしていた森本氏に注目したのです。森本氏は番組で「何ができるか以上に、本当にやりたいことは何か」ということをメッセージとして送りました。
「私が本当にやりたいことは何か…自分にも向き合いました。私自身が教わってきたこと、経験してきたことを一人でも多くの人に伝えていきたいと思いました」
転職エージェントを軸にしつつも、「出会いは偶然ではなく必然」という考えのもと、求められているのであれば物理的に可能な限りすべての仕事を受けてきたそうです。
「最高の贈り物」をするために
初めてプレゼンをしたのは2010年。その年にしたプレゼンは年間にたったの3回だったのが、2019年には年150回超の講演や登壇など大勢の前でプレゼンをする機会をもつまでになった森本氏。しかし、「私はプレゼンのプロではない」と謙遜しつつも、“プレゼンの神たち”から多くを学んだり真似たりしてきたと言います。そして、プレゼンターとして影響を受けた“プレゼンの神たち”を紹介。
孫正義氏(ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長)、稲盛和夫氏(京セラ・KDDI創業者)、澤円氏(日本マイクロソフト テクノロジーセンター センター長)、伊藤羊一氏(ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト)、前田鎌利氏(書家・プレゼンテーションクリエイター)など錚々たる名前が並びます。
そして、森本氏は“プレゼンの神たち”に共通点を見つけたそうです。それは“大義”です。
人生を通じて何をしたいのか、何のために生きているのか。“プレゼンの神たち”はみな、“大義”を持っていると言います。
森本氏は自身の“大義”は何なのか振り返ったとき、1歳下の弟さんの存在が大きかったと改めて気づいたそうです。弟さんは幼い頃に難病を患ってほとんど入院暮らし。過酷な10代を送っていたそうです。森本氏は子ども心に、弟のために何かできないか学校の先生に聞いたそうです。先生は「今も名を遺す偉人たちの伝記から生き方を学んでみては」と伝記を読むことを勧めてくれたそうです。
以来、偉人たちの伝記を夢中になって読み漁る毎日。そして森本氏は、偉人たちが人のため、世のため、社会のために人生を捧げていることを発見します。「私も人のため、世のためにできることがあるかもしれない」という思いを強くし、それが森本氏の利他の精神を支える“大義”となったそうです。
そして最後に、セルフブランディングの重要性を説きます。
「人は何を言ったかより、誰が言ったかで心を動かされるものです。自分がどんな人間であるかがとても大切です。そのために自分にタグづけをすることをお勧めします。『こういう分野だったら話ができる』といったアピールできる分野をたくさんタグづけしてください」
また、セルフブランディングのためにパラレルキャリア(副業)も強く勧めます。
「サードプレイスをつくってください。会社だけではなく、自分自身を表現できる場、必要とされる場所をつくることで、それが自分のライフワークになっていき、自分自身のブランドをつくる力になります。人脈は最強の武器となります。会社に留まることなく、活動の場を広げてください」
最後は森本氏にとっての「最高のプレゼン」を紹介して締めくくりました。
「プレゼンとは、究極の念いを伝えることです。私にとっての最高のプレゼンは何か、と過去のプレゼン資料をいろいろ探りました。そこで見つけたものは…。私にとっての最高のプレゼンは、息子たちが贈ってくれた誕生日のメッセージカードでした。いまも手帳に大事に挟んでいつも読んでいます。これが私にとって最高のプレゼンです」
最前列に座ってぜひいっぱい質問をしてください!
第三部は前田氏と森本氏による質疑応答の時間です。
30分という短い時間の中でしたが、次々と質問の手が挙がります。
最初の方の質問は「性差をなくしたい」。仕事で「男だから、女だから」という性差による判断や色眼鏡をなくしたいが、性差をなくすいいきっかけはありますか?という質問でした。
森本氏は、性差をなくすというより、性差を生かすということを考えてもいいのではと提言。もともと脳科学的にも男性と女性には得意不得意が違う側面があるので、性差を理解しつつ女性らしさを強みとして出していってもいいのではないかと言います。
一方、前田氏は「さまざまな会社を見ていると、性差の問題はプレゼンターよりもむしろ評価者の意識にある」と言います。「旧態依然の評価者のマインドを変える必要があると感じます。むしろ上の方に僕の講演を聞かせたい(笑)。実はジャッジする人のマインドが変わらないと、いくらプレゼンをする人の資料やプレゼンがよくなっても変わらない」
2人目の方の質問は「心を動かすプレゼンをするために心がけていることは何か?」。
森本氏は、「心が動くというのは共感なので、私は常に共感ポイントを探しに行きます」と、プレゼンに限らず人に会うことがライフワークという、自身のワークスタイルについて語りました。
共感ポイントを見つけるためには、自分自身が引き出しをいっぱいもっておくことが必要だとも言います。今年はラグビーワールドカップが日本中で盛り上がったので、森本氏はラグビーを共感ポイントにしていたそうです。森本氏は自身がラグビー部のマネージャーをしていた経験があったため、ラグビーに詳しかったのです。いかに多くの人に共感してもらえるかを意識して、ワンチームとかチームビルディングとか、流行語にもなったキーワードを生かしてセミナーや講演をしてきたそうです。
前田氏からは、「年をとるのも大事だと思っています。年をとると涙もろくなるんです」と意外なコメントが飛び出しました。経験を積んでいくことで学ぶことは多い。かといっていきなり明日からいきなり年をとるなんてことはできない。前田氏は擬似的に年を重ねるために博物館や記念館などを訪問するのが好きだと言います。
「偉人の年表を見るとその人の生きざまがわかるので、人生の先まで少し見えてくる。画家の生き様とか知ると面白いですよ」
森本氏も「私も小学生のときにいっぱい伝記を読んだのが、いまの自分を形づくっています」と前田氏の疑似体験に深く同意します。2人とも人の心を動かすためには、まず自分の心が動かされる体験を重ねることだと言います。
3人目の方の質問は、「ロジックを身につけるには具体的にどうすれば良いか?」。
前田氏は常に自分に「なぜ?」と、問いかけをすることがロジックを身につける近道だと言います。その結論を自分が導き出したのは「なぜ?」ということ考える癖をつけておく。そうすると自ずとロジックが身につくとのこと。
森本氏は、思考を巡らす秘訣として「毎晩寝る前の1%を自分のための投資として使っています」と言います。一日の1%とは15分。人は寝る前に一日を振り返ると反省しがちだが、森本氏はむしろ楽しかったこと、良かったこと、嬉しかったことなどポジティブなことを感じながら眠りに就くそうです。そうすることでオキシトシンという“幸せホルモン”が分泌され、目覚めもよくなったりするとのこと。
最後の方の質問は、「オーディエンスに質問をしやすくさせる仕掛けがあればお教えください」というもの。
森本氏は、質問が出にくい企業研修などのときには「アメちゃんワーク」をするとのこと。「アメちゃんワーク」とは、事前にアメを用意しておいて、隣同士でアメを交換しながら話してもらうこと。そうすると緊張感が溶けて場が和む。つまり参加者の間で心理的安全性が生まれる。安心感が生まれることで質問もしやすい空気ができるそうです。
前田氏は、質問をしやすくさせるには3つのポイントがあると言います。
1. 最初に自分で質問をして自分で答える。
2. 質問者に「いい質問ですね」と褒める。
3. 最後に質問を復唱して確認する。
これをやるだけで質問が出やすくなるとのこと。
森本氏は、質問はむしろ質問力を鍛えるほうが大切だとも言います。
プレゼンターは質問をした人に縁を感じるものなので、それが縁で何か生まれることもあるし、質問力は営業力につながる。だから質問はしないともったいないと言います。ただ即興で質問を思いつくのは難しいので、聞きながら質問を考える癖をつけることを勧めます。
森本氏の話を受けて、前田氏は最近あったエピソードを紹介。
「先日、大学校の模擬授業で同じように質問力の話をしたんですが、そのときに参加していた高校生が、その後サッカーの本田圭佑選手の講演会に出たそうなんです。そのときに、僕が教えた通りに最前列に座って最初に質問したら、後で楽屋に呼ばれて個別に話すことができたそうなんです。2000人の中から選ばれて本田選手と知り合いになれた。こんな貴重な体験ってなかなかないですよね。みなさん、最前列に座ってぜひいっぱい質問をしてください!」
まだまだ質問の挙手が止まりませんでしたが、時間切れで質疑応答は終了となりました。
終了後は、今後の女性限定イベントに参加されるメンバーの紹介、そして書籍を購入した方から抽選でアライアンスパートナーであるlogicool社よりプレゼンツール「spotlight」や4KのWebカメラ、マウスなどのプレゼント発表、記念写真撮影やサイン会で盛り上がりました。
第2回女性部会は3月18日(水)開催の予定です。ぜひ楽しみにしていてください。
イベント会場:株式会社内田洋行 ユビキタス協創広場CANVAS
★前田鎌利プロフィール
https://www.katamari.co.jp/
★スマート会議術インタビュー記事
会議は「削る」「出ない」「出る」の3つに分類する【スマート会議術43回】
会議とは「一座建立」である。【スマート会議44回】
どんなに難しいことでもわかりやすく伝えなければならない。【スマート会議術第73回】
面倒くさいことをやめたら何も伝えられなくなる。【スマート会議術第74回】
- 一般社団法人 プレゼンテーション協会
- 一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/
文・写真:鈴木涼太