船長の、部下を見る一番のポイント【第7回】

船長の、部下を見る一番のポイント【第7回】株式会社ネクストスタンダード 齊藤正明

 

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マグロ船には同性愛があるのか!?

マグロ船では見た目が悪役レスラーのような風貌の人たちが仲よく仕事をしており、見た目と実際のギャップに非常に驚かされました。最初のうちはその理由がわからず、今考えると自分に笑いたくなってしまうのですが、「この人たちは全員男好きで、漁船という地上と隔離された場は、実は彼らにとっては桃源郷なのでは?」と、当時、頭の片隅で妄想していました。

それだけに、「いつ自分も狙われるのだろう?」という心配が、出港からまもなくのときは常にあったのです。そんなスリリングな時間を過ごしていましたが、いつまでたっても襲われる気配はありません。

船内には私が見ただけでも30本近くのビデオテープが散乱していましたが、約半分は、いわゆる“成人向け”で、「男同士で~」というものもなかったです。ちなみに各ベッドには、足下の近くに15インチの小さなビデオ一体型のテレビが設置されていて、ビデオを観たりテレビゲームを接続してゲームをするのが数少ない漁船での娯楽になるのです。

漁師たちは、船酔いでグッタリしている私のベッドのところにくると、「見舞いじゃ」と言って、成人向けビデオを置いていきます。かくしてただでさえ狭いベッドはエロビデオであふれ、テープの角が体に刺さり寝返りを打つのも大変でした。

漁師たちはもちろん、優しさから見舞いに来てビデオテープを持ってきているわけではなく、ビデオテープの置き場所がないので倉庫代わりにしているのであり、やがて私がいるベッドは「エロビデ図書館」と言われるようになってしまいました。とにもかくにも、「マグロ船の漁師たちは男好きなのかも?」という疑念は杞憂に終わりました。

なぜ年長者と若年者の関係がいいのか?

それだけに、私のなかでは、「では、なぜ船長クラスの40代中盤のベテランと、20代前半の若手船員の関係がいいのだろう?」という謎が深まり、船長にたずねると、「みんな、こんめー(幼い)ときから知っちょるからのぉ」と言っていました。

話がこれで終わってしまいそうだったので、さらに「みんながイキイキ働けるようにするには、いつも見ているポイントってあるんですよね?」と突っ込んだ質問をすると、「どげーかいのー?」と首を傾げて考え込んでいましたが、しばらくすると口を開いてくれました。

「見てねぇわけじゃねえけんど、ずっと見ちょるわけでもないのー。顔色とか作業の様子とか、ずっと見よると、若ぇ子たちは『監視されちょる』って思うじゃねーか。船は狭めーけんの、ずっと見られると窮屈じゃ」

船長が言うように、「船は狭い」ということもあるのですが、以前お話ししたとおり、マグロ船では1日17時間も同じ人と顔を合わせ続けるので、注意や指摘がメインのコミュニケーションでは人間関係がおかしくなってしまうのです。

「とくに、決めたポイントを見ているわけではないんですね」

「まぁ、でも強いて言やぁ、昨日はできんかったけど、今日できたところかいのー」

「一日違うだけだと、ほとんど差はないんじゃないですか?」

「そりゃ、ガラッとは変わらんど。 でもの、“監視”でなく、みんなを見ててやるには、昨日教えたところとかができているかをちゃんと見て、できていたら、『いい調子じゃねーか』って声をかけてやることくらいしかねーのぉ」

何を教えたか、覚えていることが大事

船長が教えてくれたことをもう少し細かく説明すると、若手の漁師には、

「こげーすると、もっと早くマグロがさばけるど」

「そこに足を置くと、縄が足に絡んで危ねーど」

「こげーすると、マグロはもっと持ちやしいど」

など、具体的に3つくらい改善点を教えてあげるそうです。

翌日になって、3つ教えたうち1つでもできるようになっているところがあれば、「おお!できるよーになったじゃねーか」と声をかけてあげるのです。すると若手船員は、「船長は、ちゃんとおいどーのことを見ててくれよる」という安心感が芽生え、結果、信頼の絆ができてくると教えてくれました。

さらにこのように接すれば、「昨日、3つ教えられたうちの1つを褒めてくれたってことは、まだできていない残りの2つもわかっちょるのぉ……」というのが、こちら側が口を酸っぱくして言わなくても伝わるそうです。

もちろん、大ケガをする可能性のある、危険なことをしていたら、その場で叱り飛ばすと言っていましたが、そうでないものに関しては、「昨日教えたじゃねーか!」と怒鳴らず、たいていは目をつぶっておくと話してくれました。

ここでお伝えしている、一番大事なことは、「“できていないところ” と “できたところ”、両方をちゃんと見ててあげることが大事です」という部分です。

たいていの上司は、部下のできていないとろこの指摘はバンバンしますが、できるようになったところには気づいていません。その理由は簡単で、できていないところは、“ミス”という形で明確に表れるので、それこそ上司ではなく、とおりすがりの人でも、「できてないじゃないか!」と誰でも指摘ができるのです。

しかし、それをやってしまうと部下は、「この人は自分のことを何も見ていない」と感じ信頼の糸が途切れることで、表面上は上司に従っているように見える行動をするのですが、自分から積極的に動こうとはせず、言われたことしかやらなくなります。

「上司だからできること」。それは部下の成長を見守り、成長を伝えてあげることであることを漁師から教えてもらいました。そのために上司は、自分は何を指摘したのかを記憶していないと、部下成長に気づくことができないのです。

【今週の教訓】

部下のどこが成長したかを知り、具体的に伝えてあげることが大事です。

※本記事は『マグロ船仕事術―日本一のマグロ船から学んだ!マネジメントとリーダーシップの極意』から抜粋・再編集したものです。

齊藤 正明(さいとう まさあき)株式会社ネクストスタンダード
2000年、北里大学水産学部卒業。バイオ系企業の研究部門に配属され、マグロ船に乗ったのを機に漁師たちの姿に感銘を受ける。2007年に退職し、人材育成の研修を行うネクストスタンダードを設立。2010年、著書 『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』が、「ビジネス書大賞 2010」で7位を受賞。2011年TSUTAYAが主催する『第2回講師オーディション』でグランプリを受賞。年200回以上の講演をこなす。主な著書に『マグロ船仕事術―日本一のマグロ船から学んだ!マネジメントとリーダーシップの極意』(ダイヤモンド社)、『仕事は流されればうまくいく』(主婦の友社)、 『マグロ船で学んだ「ダメ」な自分の活かし方』(学研パブリッシング)、『自己啓発は私を啓発しない』(マイナビ新書)、『そうか!「会議」 はこうすればよかったんだ』(マイナビ新書)、『海の男のストレスマネジメント』(角川フォレスタ)など多数。

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